『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』 中国映画 鑑賞記録
監督の程耳は、この作品の次に現在中国で公開準備中の『无名』(無名)を制作。そちらには推しの王一博が出演しているという関係で、同監督作の予習という意図で鑑賞した。ちょうどWOWOWで放送・配信中でタイミングばっちり!
以前この作品については『ワンス・アポン~』というタイトルが目を引き(おそらくほとんどの方が連想されたのと同様) アメリカじゃなくて上海なんだ!という印象のみでw、今回の視聴まで特別に食指が動かなかった。
しかし、よく見れば出演者にはあの チャン・ツィーイーや浅野忠信、『覇王別姫』の葛優が並んでいるではないか!さらに王一博ファンにはおなじみのストリートダンス番組 『这!就是街舞』で一緒にキャプテンを務める 韩庚もご出演!
というわけで一気に観る気満々!
時は日本軍侵攻前夜 1937年から太平洋戦争後まで。ところは上海。
主人公 陆(葛優)は裏社会で影響力を持つ大物。さらにそのボスの王と、その妻 小六。浅野さん演じる渡部ワタベは日本人だが上海語が堪能、陆さんの妹の夫として彼を支えている。
そんな登場人物に日本軍が絡み、暗殺や陰謀といった危険な社会の裏側がダークな色調で綿々と描かれる。
章子怡チャン・ツィーイー演じる小六は女優で美しく、奔放でわがまま。そのお相手として韩庚ハン・グンが登場する。彼の軽妙な持ち味が活きた、なかなかいい役だ。
さらにダンスの先生として、同じく『这!就是街舞』の钟汉良ウォレスも出てきたのにはビックリだった!
だが肝心なのは浅野さん、いや渡部だ。
冒頭に出てくる小六の独白に、上海語が上手くて日本人だとは思わなかった、というのがある。これが後々意味を持ってくるのだが…
正直いって、彼は裏切り者で冷徹で自分勝手な好色漢。役柄としては個人的に共感できず、かなりツラい人物だったが。
まぁ言ってみればあちらの国から見ればマフィアよりも憎むべき悪役かもしれないアクの強い渡部を、浅野さんが重厚感をもって好演していたのは同じ日本人として誇らしくもあった。
国と国、裏社会の組織と組織、そして更に組織の仲間内でも騙し合い、傷つけ合っている時代。正義なんて、義理なんて、受けた恩なんて、全部どこかにいっちゃって、何が何でも生き抜くことと己の欲望だけが優先される。
いやでも、それでいいのか?
もちろん、違うだろう。
と、今これを書いていて思い至った。
実を言えば鑑賞直後は、はてこの作品何がいいたいんだろう?とピンとこなくて、虚しさだけが残った。
でもそうだ、その虚しさ、それは違うだろう、という感覚。それこそがこの映画でわたしが受けとったメッセージなのかもしれない。
なるほど英題も『The Wasted Times』(無益な時代)だ。
最後はみんな報復を受け、小六は解放され、陆さんはやっぱりお達者で生き抜き、一応収まるところにすべて収まるという結末。
随所にチクリチクリと耳の痛い台詞や描写も混じるが、さほど批判的でもない。まぁ日本で公開されているくらいだから、ね。
元々この時代自体が、今の日本にとってはどうしようもなく居心地の悪い、
何とも説明のしようがない時期なのだから。少なくともわたしにとっては。
全体として映像が美しかった。トーンは暗めだけれど華やかで広がりと奥行きを感じた。あの時代の上海の雰囲気はやっぱり素敵。
衣装や女性の髪形も味わいがあった。
上海語はさっぱり聴き取れなかったが(笑)
監督の程耳について少し。
冒頭の『无名』関連インタビューを読んだ。上海が好きだそうだ。なので『无名』の舞台も上海。(そして同じく「渡部」も登場する。役どころは今回の浅野さんと共通項はあるのかな?)
映画音楽にはいつもクラシックを使うそうで、クラッシック音楽、特にバッハがお好きとのこと。
話はやや逸れるが、このインタビューに程耳監督はご自身の作品をカテゴライズされることを好まないと書かれている。
次回作『无名』は地下活動家たちの物語だが、簡単に「諜報戦」や「サスペンス」などのレッテルを貼られることは望まず、できるだけ正確に要約されてほしいそうだ。監督曰く、これは「名もない人々の抒情詩、その時代の挽歌」だと。
監督が海外で好きな監督は黒澤明だそうだ。
そう聞けば、日本のことは嫌いじゃないのだろうな。よかった。
因みに『无名』も時代背景や舞台が全く同じで、梁朝伟トニー・レオンや周迅ジョウ・シュンも出演する。日本人渡部役は森博之さん。
次にもしもまた同じ設定で撮ることがあれば、日本人役は "あの人" だったらいいなーなんて別の妄想が始まってしまう(笑)
話を本作に戻しますw
題名の『罗曼蒂克消亡史』、原題を直訳すれば "ロマンの終焉" とでもなるのでしょうか。
ワンス~の邦題は果たして、どうだったのか…
キャッチー且つ内容にも合致して、となると邦題の付け方ってなかなか難しそうですね。
先のインタビューを読んで、この映画が芸術性の高い作品であることが納得でき、一言で感想を言い表せなかったのはある意味間違っていない受け止めなのかもしれないと思いました。
また、映画に芸術性と商業性とを包含させることができるという考えをお持ちだということも知り、確かにこの映画も、次回作もそうだなと納得した次第です。
程耳監督、この作品を撮った時まだ38歳だったそうで。現在46歳。
これからも注目させていただきたい、楽しみな監督さんです。
拙いレビューをお読みくださり、ありがとうございました!