『無名』① 中国映画 鑑賞記録
2021年秋、少し遅れて撮影チーム入りした王一博。その時から逐一ウォッチしつつ待ち焦がれていたこの映画は、今年 2023年春節の目玉作品として中国で公開され、4月8日より各プラットフォームで配信が開始されました。
推しの王一博が全身全霊を傾けて演じた作品であり、本人にとって思い入れ深いであろう本作は、わたしにとっても大切な映画です。
ですからこのレビューも、ページの最下部で短く書き上げられている図を想像できず…(笑)
そんな訳で、この作品『无名』は3つのパートに分けることにしました!
概要と背景や周辺エピソード
ネタバレなしのあっさり感想
ややネタバレ気味なマル秘的感想
3を加える理由は、本作は様々なメタファーが縦横無尽に織り込まれている複雑な構成になっており、それらを語らない限りごく表面的な感想(2がこれに相当)に終始してしまう(わたしの文章力のなさ故)からです。
では今回はパート1を早速始めたいと思います。
※ 日本公開に先立ち名称その他の日本語を追記しました(2024/2/14)
あらまし
舞台は中国、上海の1938年から 1946年の香港まで。日中戦争から第二次世界大戦後に渡る、中国国民党と汪兆銘政権、そこに関わる日本軍、さらには渦中で闘い続けた中国共産党が入り乱れる混乱の時代だ。
だがこの辺りはわたしの浅い知識で安易に語れる内容ではないため、歴史背景についての詳細説明はスルーさせていただく。
ストーリーは主に、地下で活動する諜報員らの顛末であるが、誰がどこに所属していて実際はどちら側で動いているのかが最終局面まで明確にならない構成になっている。
シーンもパズルの断片のように時系列無視でランダムに並べられている。だがその仕掛けの効果は絶大で、最初はぼんやりとしていた像が徐々に解像度が上がってゆき、最後真ん中のピースが填められた瞬間にすべてが明らかになるというゾクゾク感といおうか爽快感といおうか…難解でありながらも非常にスリリングな作品である。
ARRI65という史上最強の映画用カメラを使用していると聞く映像美が特徴的だ。構図やカット割りに監督のこだわり(程耳監督は、本作で脚本と編集も手掛けている)が感じられて興味深い。
例えば、随所で四角い枠がフレームのように用いられており、井戸を上から見る構図と下から見上げている映像の対比。また枠の中に映る子羊に「生贄」の暗示がこめられていたりする、等々。
台詞はほぼ上海語だ。少し普通話(標準の中国語)もあり、その他は日本語と、広東語が少し。もちろん字幕は全て中国語普通話と英語。わたしは中国語字幕で視聴した。上海語はさっぱり聴き取れないが、日本語が多いので比較的内容は理解しやすかった。
使われる言語が複数であるが、同じ場で人物がそれぞれ別の言葉をチャンポンで話していても会話は成立することになっている。
その中で、中国人であるのに日本語を話すのは王一博(ワン・イーボー)演じる叶(イエ/葉)一人だけだ。
梁朝伟(トニー・レオン)は普段の作品は広東語がほとんどだと思うが本作では普通語で話す。若干広東語なまりを感じるが、わたしは彼の普通語はほぼ初めて聞いた気がする(あるいは以前はわたし自身が中国語を聞き取れなかったので認識していないだけかもしれない)。プロモーションでも普通語を話していて新鮮であった。
王一博の日本語台詞については、長台詞も多いのに、とても上手かったと思う。もちろん完璧なイントネーションではないが、外国語である言語を演技しながらあれだけ滑らかに話せるのは驚嘆に値する。日本軍軍人役の森博之さんに教えてもらって頑張ったという努力が実ってよかった!
彼の台詞の日本語以外はほとんど上海語なのだが、そちらの方は上海人である共演者の 王传君がテープに吹き込んでくれて覚えたそうだ。語学も得意な、努力家の推しが誇らしい。
登場人物に、実は名前がほぼ、ない。
この映画は「時代を命がけで闘い抜けた無名の英雄たち」が描かれる。
タイトルの『無名』たる所以である。
ない、といっても識別記号のように極わずかに語られる名前もあるので紹介したい。
登場人物
何主任 フー(梁朝伟 トニー・レオン)
国民政府政治保衛部 所属。唐部長とは従兄弟同士叶 イエ(王一博 ワン・イーボー)(葉)
何主任の部下张 ジャン(黄磊 )(張)
共産党の地下某活動拠点責任者陈小姐 チェン (周迅 ジョウ・シュン)(陳)
张 と5年間同居し夫婦を装って地下活動をしている唐部長 タン (董成鹏)
汪兆銘政権の国民政府政治保衛部 所属。何主任の従兄弟日本陸軍軍人 渡部 (森博之)
満州に希望を託している石原派。資料では「渡部(ワタベ)」となっているが本編ではどこにも名前が語られない(と思う。見つけた方いらしたら教えてください!)叶 イエの同僚 ワン (王传君)
何主任の部下。叶と行動を共にすることが多く仲がいい。両親はその後香港に渡り食堂を営んでいる。妹がいる。
この人も名を語られていない(同じく各資料では「王隊長」とされている)江小姐 ジャン (江疏影)
国民党のスパイ。唐部長を暗殺しようと試みて失敗。情が絡んでいるもよう。処刑されることになるが、お弁当箱の中に機密情報を隠して何主任に渡し…叶 イエの婚約者 ファン(张婧仪)
共産党員。踊り子。叶と婚約したのは1937年以前。その後の叶の政治的裏切りを許していない。この人も劇中で名前を語られないが同じく資料では「方小姐」となっている
芸術性と商業性
確かに難解な作品ではある。明るくはないし、目をそむけたくなるシーンも多い。スパイ映画だし、そもそも戦争がテーマである。
ただわたしは事前の予習として同じ程耳監督の前作で超難解な『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』を鑑賞し覚悟していたせいか、さほど難しくは感じなかった。
(「ワンス~」は本当に何というか、、もっと、、(笑) 感想はこちらをどうぞ。)
監督は商業性と芸術性は両立する、という理念をお持ちだそうで、確かに本作でそれを見事に実証していると思う。描き方然り、起用した俳優然り。興行成績も上々であった。(最終興収 9.31億元 百度調べ)
テーマや時代背景は「ワンス~」とほぼ被っており、上海三部作を構成しているとのこと。監督の卒業作品である『犯罪分子』も鑑賞したが、一貫したテイストがわたしは好きな部類だ。特に本作はとても好き。
2時間の中にぎっしり詰め込まれている粒の細かさ、丁寧な描き方、密度の濃い味わい、愛、問いかけ、人間の本質。それらの粒ひとつひとつ全てに意味があり1秒も気を抜けない張り詰めた感じが、いい。
音楽の使い方もスマートさが漂う。監督はクラシック、特にモーツアルトやバッハがお好みらしい。そこも自分と好みが合うところなのかもしれない。
終盤、肝となるシーンからドラマチックに始まるモーツアルトの『レクイエム』には、マジ痺れた!
オマケ的な
某 語学系 youtuberさんによれば本作の「王一博マッツィロ問題」が気になるという。要はスパイにしては色が白すぎるというのだ。
うん … 確かに。
王一博は色白、それもただの色白ではなく、ものすごく白い。しかもお肌スベスベだ。だからスクリーンでも色の白さが目立っちゃうのだ。これは本当。いつでもどこでも周りの人とは一段違う白さで光り輝いている。
…でもこれは監督さんがそれでOK出してるので、問題ないはず。そういう、色白な諜報員という設定なのだ(笑)
『无名』での彼の上海語を褒めてくださってるこちらの動画、面白いのでご興味あれば。
語学系 youtuberさん、愛あるツッコミありがとうございました!
それからもう一つ、真面目に。
インタビューやプロモーションで、王一博は 梁朝伟とのシーンでは非常に緊張し、その緊張は終始続いたと何度も語っている。言葉の端々から伝わってくる 梁朝伟への尊敬と憧れ。二人のファイトシーンでは手を伸ばすと触れる距離に 梁朝伟の顔があってとても幸せな時間だったそうだ。 自分の撮影がない時にも 梁朝伟の演技のモニターを見に行っていたとも。 やはり大俳優は圧倒的な存在感であることが窺われる。
本作での梁朝伟との共演が、彼の役者人生に与えた影響は計り知れず、撮影から公開の舞台挨拶まで期間に充実した経験はきっと今後の糧になるのだろう。そんなチャンスに恵まれて本当によかったなと心から思う。
【Part 2 はこちら】
【Part 3 はこちら】
本作は正直、感想を書く、という点においてとても困りました。どこまでなら書いていいのか、何を書いてもネタバレになりそうで(汗)
かといって全て避けてしまったら何も書けない(笑) そんな、ミステリアスでサスペンスフルな、すごくいい映画です。
少しでもこの作品のよさが伝わっていればいいなと思います。
よろしければ来週あたりに予定しているパート2もぜひご覧ください!