『西湖畔に生きる』草木人间 中国映画 鑑賞記録
約2か月間 noteをお休みしていましたが、そろそろ再開しようと思います。この間に完走したドラマや映画が溜まってしまい、記憶が薄れてきている作品もあり、どうしたものかと悩むうち益々日が経つという…汗
なので、滞っている約10作品についてはダーっと簡潔にまとめて、早く現時点にに追い付く作戦にしました。
思いの外時間が掛る画像選びも少な目にする予定。今までとはちょっと執筆スタイルが変わってしまうかもしれませんが、よかったらこれからもお付き合いくださいね。
再開一発目はどの作品にしようか迷いましたが、まずは記憶に新しいこちらを!
では、どうぞよろしくお願いいたします。
意外な展開
青々とした茶畑の向こうに杭州のビル群が見えている。あんなに近い距離で都会と緑が共存していることに驚いた。
杭州といえば世界遺産でもある風光明媚な西湖がある街。アリババを始めとしたIT産業の集積地。そして龍井茶という高級茶の産地でもあり、色んな顔を持っている。
本作はその杭州で撮影されたそうだ。この都市の持つ新旧の二面性と同じく、映画も予想していたイメージとは真逆な内容だった。
昨年の東京国際映画祭で鑑賞したかったのだが日程が合わず断念、今秋日本に上陸したので早速劇場に足を運んだ。映画祭の時のキービジュアルは森の中を主演の 吴磊 が気持ちよさそうに自転車を漕いでいる。中国語のタイトルも『草木人間』だし、自然やエコがテーマの作品というイメージを抱いていた。
吴磊 が演じる 何目蓮 は大学を出たが思うような仕事が見つからない。蒋勤勤 演じる母親 吴苔花は住み込みで茶摘みの仕事をしている。父親は10年前に失踪したきり戻ってこない。母子家庭の経済状況はよくない。
ある時ふとしたきっかけで母親が違法マルチ商法に引っかかってしまう。大金をつぎ込んで足裏シートを大量購入。親思いの 目蓮は母親を救済するために自分も組織に乗り込むことを決意する。しかし多くの人を騙す商法はなかなかに強かで、彼自身も痛手を被ってしまう…
どうすれば母は救われるのか。果たして救うことはできるのか。
原題となっている『草木人間』は仏教故事が由来だそうだ。それが納得できるような、ここからの描き方はまるで精神世界のように抽象的、幻想的なテイストを帯びていく。原始を思わせる山間部の自然が効果的だ。
対比の妙
この作品で印象的だったのは対比。
風景の美しさ、人の心の闇の醜さ。己を顧みずに親を救おうとする尊さと、優しさに紙一重な傍観と狡猾さ。いろいろな対比でお互いを際立たせるかのような演出が素晴らしいと思った。実際の映像も、自然は徹底して美しいが、違法ビジネスのカオスは狂気じみておどろおどろしい。一方がダークであればあるほど、目蓮の瑞々しい清廉さが気高いのだった。
メタファーとしての虫の使い方も上手かった。背中の肩の下あたりを這う茶虫。目蓮の頬にいる蟻など。
正直、理解が難しい場面もあった。母親 吴苔花の愛人関係にある 老钱という人の存在。演じるのは実生活でもご夫婦という 陈建斌だ。浮気はするし、窮地にある彼女を救うのは息子に任せっきりだ。だた彼にもそれなりに優しさはあり、吴苔花的にはそれで問題ないのかもしれない。
映像としての楽しみ そして演者たち
本作は 顾晓刚 監督の ”山水画" 3部作の2作目だそう。その意味するところは本作以外は鑑賞していないわたしには分かりかねるが、山水画という美しい響きと本作はとても合っているように感じた。
美しい自然、茶畑。自分の樹を探しに山に入る母子が遭遇する洞窟。お茶を製造する過程の様子。いろいろな興味深い中国の風景も楽しめた。
わたしはもう長年に渡って中国茶が好きで、アップダウンはあるものの今は第3ターンぐらいな隆盛期。その都度お茶の種類や製法を調べたり、海外で買ってきて味比べしてみたりと楽しんでいるのだが、きっとこれを読んでくださってる方の中にも中国茶愛好家は多いのではないだろうか。そんな方にはこの映画はきっと興味深いはずなので、よかったら是非!
最後になってしまったけど、俳優陣が素晴らしかった。
若手では頭抜けている 吴磊。自然に役になり切っているので、観ているこちらも彼と同じ苦しみを体感しているかのよう。
母親の 蒋勤勤の鬼気迫る体当たり演技はこれからもずっと記憶に残るだろう。観る者に衝撃を与えずにはおかない狂気。
ただそれでもなお、母子もこの作品自体も、吴磊 が目蓮を演じたからこそ成立したようにわたしは思う。
そして何となくどっちつかずな、存在感が希薄でふわっとした 陈建斌。個人的には他作品の役処の方が好きだが、この映画にはあの味わいが必要だったのかもしれない。その意味でやはり彼も演技巧者なのだろう。
深い精神性を感じる美しい映画だった。
という訳で気付けばいつもと同じ文字数になっていたのでした笑
やはりわたしは書くことが好きなんだなと思った次第。
お時間があったらまた遊びに来ていただけると嬉しいです!
さて次はどの作品を書こうかなー。