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『すばる 2023年6月号』 中国エンタメ特集 読後記録


名前を知ってはいたけれど、読むのは多分初めての月刊文芸雑誌『すばる』。
2023年6月号は綿矢りささんプロデュースの中華エンタメ特集が掲載されるということで、SNSにはその話題が飛び交っており、気づいた時には既に完売! 初日で完売したそうで。 
今回は、先日ようやく重版分を入手して読んだ、その感想です。

この雑誌の通常の読者各位とはおそらく別の角度のミーハー的視点です。どうか薄目でスルーしてくださいますように!
(以下敬称略)


すばる 2023年6月号
集英社
発売日:2023年5月6日
価格:定価1,100円(税込)

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椿事発生!

1979年『すばる』月刊化以来、初の重版だそうである(朝日新聞デジタル)。合計1万5千部。それを後押ししたのが、まさにこの "中国発エンタメ人気"。今回わたしが初?購入した動機であり、おそらく多くの購入者も同じだと思われる。出版社のビックリがなんとなく想像できる。

元々綿矢りさはフンワリ追っていて、その直々プロデュースの中国エンタメ特集というところの興味もあったが、何といってもわが最愛の王一博主演ドラマ『陳情令』の原作者、墨香銅臭との対談が掲載されているということが第一の購入動機だった。

そうはいってもわたしはドラマのみ視聴で、原作小説の『魔道祖師』やラジオドラマは未履修なので、重版が決まった時点でも無事にそちらのファンの方々の手に渡ったあと部数に余裕があれば、というスタンスで待ち受けた。

そのような経緯なので、まぁサラッと読めばいいかな、ぐらいに思っていたのだが入手後読み始めてみると、これが大変に面白かった!
何しろ墨香銅臭は行方不明?ともいわれるほど、表に出ることがない作家さん。ご本人も対談の中でインタビューを受けるのは初めてと語っている。そりゃー話題になるよね。

「中華、今どんな感じ?」
もしそう問われるなら、中国ドラマファンとしては「侮るなかれ中国エンタメ」と大きな声で答えたい。

さて、以下特集に沿って読後感を綴っていく(けど、何度もいうように大した感想ではないですw)。



特集1

【鼎談 墨香銅臭×括号×綿矢りさ 良い物語を創るのに必要なこと】
先述のお二人に、ラジオドラマのプロジェクト監修をされた括号氏の3人が『魔道祖師』の作品世界を語る。
2022年11月にオンラインで行われたとのこと。思わず墨香銅臭は実在していたんだ!と感動。
どのように物語やキャラを造形していくのか、小説技法、大事にしている事、影響を受けた作品、作品内に登場する「金丹」の説明など、この作品(関連)に触れたことのある人なら夢中で読んでしまう楽しい内容だった。
ラジオドラマの方も世界感を踏襲して素敵に描かれているようなので、機会があったら聴いてみたいと思った。



特集 2

【エッセイ 綿矢りさ 激しく脆い魂】
綿矢氏が中華沼にハマってからのこと、『魔道祖師』の魅力など。
聶兄弟が好きというところと、その理由に共感を覚えた。
ドラマ版『陳情令』魏無羨役の肖戦への中国語の形容「易砕感」についての記述が興味深かった。なるほど、確かに。
わたしは小説は未読だけれど、これを読んでUターン不可能な深い沼の存在を改めて認識した。行ってみたいけど、ちょっと怖くもある。絶対ハマりそうだもの。



特集 3

【論考 佐藤信弥 『陳情令』のルーツ──仙俠と武俠、金庸作品との関係、時代背景】
ドラマ版(『陳情令』)を中心に仙侠物、武侠物のルーツとなった中国古典文学の紹介と解説、特集 1の鼎談で話題になっていた金庸作品へのオマージュが例を挙げて解説されている。
作者 墨香銅臭が語るように執筆の参考になっている魏晋南北朝の階級制度等にも言及されており、実際の歴史的事実との関係が理解できて興味深かった。

ちなみに佐藤氏の『戦乱中国の英雄たち 三国志、『キングダム』、宮廷美女の中国時代劇』も読んでいるが、こちらも参考になった。



特集 4

【はちこ 中華BL二十五年の歩み──誕生、発展、規制、そして再出発】
はちこ氏の近刊『SNSで学ぶ 推し活はかどる中国語』を読んだので勝手に親近感。BLというジャンルについての流れと最近の状況が解説されている。

わたしは『陳情令』が大好きだが、このドラマをブロマンスともBLとも感じることなく一般の義と友情の物語として理解した。他の、世間でBL作品と呼ばれているものもそのようには受け取ったことはなくて、多くの方が萌え~ なシーンもサラっとスルーする少数派だ(多分)。それで自分的には全く問題ないのだが、逆にBLに対してネガティブな感情も持っていないし、そういった嗜好性に対しても偏見はもちろん、ない。ただ単に自分は "BL脳" 未搭載なだけのことだと思っている。

そんな自分なのでよく知らなかった内容も多く掲載されており、一般情報が多い分野ではないだけにありがたかった。



特集 5

【小説 綿矢りさ パッキパキ北京】
菖蒲(アヤメ)という元銀座のクラブでホステスをしていた主人公が、夫の赴任地 北京を訪れる、一人称の短編小説。2022年クリスマス前から2023年3月までの北京が舞台。
すごく面白かった。最低でも6回は声出して笑ったと思う。
小説であると同時に、当時のコロナ状況、北京の風物、食、観光、街、店、お正月や春節風景、人、習慣などなど、ちょっとした観光案内としても読めるように書かれていてお得な内容。淘宝外卖小红书など、推しのお陰でわたしの生活には馴染み(彼が代言人をしている企業もあったり)の固有名詞も並んでいる。

実際に綿矢氏が北京に滞在された期間と重なり、現地で行われた講演でも「日本の人に北京の良いところを伝えられるような小説を書ければいいなと思う」と述べられているので、本作がそれにあたるのかもしれない。



充実!

こうしてみると素晴らしく充実の内容だ。もちろん特集以外にも「すばる文学賞」受賞作や連載小説、対談、詩や俳句、映画のコラムなどもありまだ全部は読んでいないが隅々まで楽しめそうだ。

表紙の質感やデザインもよく、紙の手触り活字のポイントとフォント、行間の余白なども好みで、ページをめくるのが楽しい感じ。
また気になる特集があったら買って読んでみたいと思った。


せっかく『陳情令』が話題になったよい機会なので、最後に主人公 藍忘机を演じた 王一博の麗しい画像を載せて結びたい。

陈情令 微博





話題の雑誌、お値段以上に楽しめました!

拙い感想をお読みいただき、ありがとうございました。


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