『紅楼夢』子役版 ◆ 中国ドラマ 鑑賞記録
中国四大名著の一つ『紅楼夢』を、全員子役が演じているドラマ。以前から観たいと思っていたのですが、amazon primeで配信が始まっていたので鑑賞しました。
長ーい物語をサクッと短く
ご存知『紅楼夢』は、清代中期に曹雪芹が著した長編恋愛小説。
実は2年ほど前から岩波書店版全7巻で原作にチャレンジ中なのだけれど、4巻に入ったところで足踏み状態、未だ読了できず(泣)
「これを読めば中国のすべてが分かる」と漏れ聞き読み始めたのだが、小さな文字で上下二段組。何しろ長い。その上登場人物の殆どが「賈」姓。しかも名の方には一世代ごとに同じ字をつける中国の習慣で、「春」「宝」など漢字の被りが滅茶苦茶多くて判別しにくいのよ(泣)
その賈一族三代が暮らす邸宅「栄国府」で繰り広げられる家族のお話で、子供多数、一夫多妻制だから奥さんも大勢、その分孫も当然いっぱい、大きなお屋敷内に親戚も一緒に住んでいるから関係性がとっても複雑。
なのでしばらく放置しようものなら、記憶のリロードにえらく時間が掛ってしまうのだ…
そんな複雑な家族構成と入り組んだ人間関係の物語を、このドラマはあっさり短縮。原題の通り「劉ばあさん」という田舎の貧しい農民が賈一族という大貴族の、大邸宅の、これまたとてつもなく広い「大観園」で盛大なもてなしを受ける、という一つのエピソードに絞って悲喜こもごもが描かれる。
一族の長は「賈母」「老太太」などと呼ばれる史太君、おばあ様。その孫である賈宝玉、従妹の林黛玉と薛宝钗が主役。お屋敷内のあれやこれやを背景に語られるこの3人の恋愛模様がメインストーリーだ。
中国ドラマをある程度見慣れてきた今は、この原作小説がよくあるお屋敷系古装剧の基礎形なのだということがよく分かる。
逆に言えばドラマでしばしば描かれている、大奥様が絶対的権力を持ち息子、その嫁たち、孫たちを統率し、その監視の目をかいくぐって家族一同が色々とやらかす顛末のストーリー、あれとよく似た光景が繰り広げられているのだ。
宝玉、黛玉、宝钗の主役3人と、宝玉の姉妹である迎春、探春、惜春は、それぞれ美形で才能豊か。宝玉一人が男子で、そんな綺麗で華やかな女の子たちに交じって過ごすのが大好き、という設定。
劉ばあさんがもてなされる広大な庭園は、宝玉の実姉で皇帝の妃となった元春がお里帰りする折に、わざわざ莫大な費用を掛け贅を尽くして建造されたもの。
あまりの豪華さに小説で読んだ時は(一体どんだけ?!)と思ったものだが、ドラマを観たら本当にその通りすごかった(笑)何しろ数日しか滞在しない元春が帰った後は用途を果たしたので、園内の東屋はそれぞれ孫たちの邸宅にあてられるほどの広さ&大盤振る舞いなのだ!
栄国府の栄華と凋落
劉ばあさんの役割は庶民代表として、栄華を極める栄国府の暮らしが如何に一般庶民とかけ離れたものであるかを対比させることにあるのだろう。この滞在中彼女は絵でしか見たことのない贅を尽くした邸内の調度や食事に驚くばかりだが、一方の賈一家の人々は日頃見慣れない劉ばあさんの言動をいちいち笑いものにする。
がしかし、後々立場は逆転するのだ。
数日間滞在した劉ばあさんは、大量のおみやげを持たされて家に帰る。その後物語は徐々に暗い色調を帯びていく。
まず、宝玉が父親と共に出張中に、彼とおばあ様最愛の黛玉が病気で亡くなってしまう。追い打ちをかけるように妃となっていた長女元春も亡くなり、賈家は宮廷での後ろ盾を失う。そのショックのあまりおばあ様も帰らぬ人となり、不正の咎で皇帝の不興を買った賈の男たちは捕らえられ財産は没収、ついに栄国府は没落する。
ドラマは最後、かつて華やかな宴に招かれ手厚くもてなされた劉ばあさんがその恩を忘れず、売られた熙鳳の遺児を探し出し自分の財産を売り払って救出する、というところで終わる。
前半が華やかだっただけに寂しいエンディングではあったが、情けを掛けてもらった劉ばあさんが恩を返すというオチは救いだった。
子供劇だけに小説上の主題である恋愛模様は控えめ。義理や恩義、親兄妹の情といったものに焦点を当てて「驕れるものは久しからず」的な帰結に仕上げられている。
子役の素晴らしさ
このドラマのキモは言うまでもなく、全員子供が演じているということだろう。男の子も女の子も、撮影当時の年齢で10歳~12歳を中心とした10代の子役たち。
ロケーションやセットは一般のドラマに見劣りするほどでもなく、適度に立派。衣装や髪飾りなどの装飾品はやや学芸会っぽさも感じられるが、これは子供のかわいらしさを損なわないためにわざとそうしているのかもしれない。
そんな中で演じられる子役たちの演技は、大人顔負けにすごい!! 配役もいいのだろうが、主役の二人始め女の子たちが大人の役をしっかり演じている。大奥様役の子なんて、かわいらしくもあり、ちゃんとおばあさんらしくもありで、感心するばかり。
邸内仕切り役の熙鳳と李纨に至っては、末恐ろしい程の美しさと上手さだ。既に完璧に出来上っている!(笑)
特筆すべきは泣きの演技だ。
中国ドラマを観ていて常々、俳優さんたちの泣き顔の素晴らしさに目を奪われているが、あの、目の真ん中から "つつっーーー" っとまっすぐに一本の筋で流れる涙。しかも目が赤くなったり表情が崩れたりすることなく、みるみるうちに大きな目に溜まった大粒の涙がポロポロと零れていく様は、本当に素晴らしい。
国内のドラマでは俳優さんたちが顔を「泣き顔」にして、強引に絞り出したような涙が、目のどこからか…出て…きた?…かな?…という感じがするものであるが…
中国ではこんな子供の頃からあの「泣き」が訓練され、培われているのねーと感心しきりなのだった。
ホント上手すぎる!
以上、名著『紅楼夢』の世界を短時間で(といっても5話あるがw)大まかにかいつまんで鑑賞できる、楽しい作品だった。
原作読書中の身としては、文字だけで想像するしかない展開を頭の中でビジュアル化する助けにもなって、よかった。
なお中国四大名著は、紅楼夢の他『三国志演義』『水滸伝』『西遊記』ですが、この子役シリーズには『三国志』『水滸伝』と『西遊記』の代わりに『包青天』が入っているので(子役は重複あり)折を見て鑑賞したいと思います。
それから小説の方も、これを機会に読破目指して頑張ります!
拙いご紹介でしたが、お読みいただきありがとうございました。