間質性肺炎(8) ステロイドと抗線維化薬だけじゃない
(注)この投稿はフィクションであり、特定の患者さんや症例と関係するものではありません。
■登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
患者S:67歳男性。健康診断を契機に間質性肺炎を指摘され、Dr.Yの外来に紹介される。
1. 使える薬が格段に増える膠原病
Dr.Y: 原因検索が重要である理由について。2つ目はその他の薬剤や非薬物治療に関わってくるから、ということです。
患者S: 先程出てきたステロイドと抗線維化薬以外の治療に関する話ですね。
Dr.Y: はい。例えば、間質性肺炎の原因の中で高頻度に認められる膠原病では、ステロイド以外の免疫抑制薬の効果も多く証明されています。
患者S: ステロイド以外の免疫抑制薬も、間質性肺炎の炎症を抑えるのに役立つ事があるんですか?
Dr.Y: その通りです。シクロスポリン、タクロリムス、シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフィチル、アザチオプリン、メトトレキセートなど様々な免疫抑制薬が膠原病の中で使い分けられています (1)。
患者S: そんなにたくさんあるんですね。これらはステロイドとは効能が違うのですか?
Dr.Y: 炎症を抑えるという大まかな方向性は一緒ですが、炎症の中身や、担当している免疫細胞が病気によって様々なので、それらに合わせて免疫抑制薬が使われます。特にステロイドと併用して使う事で、より強い炎症抑制効果が期待できます。
患者S: なるほど。では間質性肺炎の背景にある膠原病がきちんと証明されていれば、こうした免疫抑制薬による追加治療が可能になるわけですね。
Dr.Y: 免疫抑制薬だけではありません。何より、膠原病だと生物学的製剤が使えるという点は非常に大きいです。
患者S: 生物学的製剤というのは?
Dr.Y: 炎症を起こしている分子を、よりピンポイントで狙い撃ちして抑制する薬です。高額ですが大きな効果が期待できます。関節リウマチ一つとってみても、エタネルセプトやセルトリズマブといったTNFα阻害薬や、トシリズマブのようなIL-6阻害薬、アバタセプトのようなT細胞の活性化に関わる信号を阻害する薬など、様々な薬が使えます (1)。
患者S: 膠原病は、本当に色んな治療選択肢があるのですね。
Dr.Y: はい。膠原病があるのに見過ごされている間質性肺炎と、膠原病があってきちんと診断されている間質性肺炎では雲泥の差です。これは過敏性肺炎でも同じ事が言えます。
2. 生活環境を整えないと薬が効きづらい過敏性肺炎
患者S: 過敏性肺炎でもステロイドと抗線維化薬以外の薬があるのですか?
Dr.Y: 過敏性肺炎の場合は薬物療法ではなく、抗原回避といって生活環境を整える事が治療になります。
患者S: 環境を整える・・・ですか。
Dr.Y: 過敏性肺炎は空気中のアレルギー物質を持続的に吸入する事によってアレルギー反応を示す肺炎だという話をしました。
患者S: という事は、そのアレルギー物質を環境中から排除する事が治療になるということですか?
Dr.Y: そのとおりです。例えば自宅にあるカビが悪さをしていると考えられればカビのクリーニングだったり、リフォームや転居をしたりします。自宅にある羽毛布団やダウンジャケットが悪さをしていると考えられればこれらを羽毛を使っていない製品に変える。これを抗原回避と呼びます。
患者S: きちんと抗原回避をしないとどのようになりますか?
Dr.Y: 抗原回避が不十分のままステロイドで治療していても効きづらく、炎症が遷延して線維化につながってしまうと言われています (2)。下の図を見てください。
患者S: これは・・・
Dr.Y: これは有名なアメリカのメイヨー・クリニックから2022年に報告された論文です。過敏性肺炎と診断された患者さんの中で、抗原回避をした人としなかった人での生存率の差を見ています (3)。
患者S: こんなに差があるんですね。
Dr.Y: 当然、過敏性肺炎と診断されなければ抗原回避はできないですから、非常に重要です。しかし過敏性肺炎は疑ってかからなければ簡単に見過ごされやすいです。
Dr.Y: 本当は過敏性肺炎なのに原因不明の特発性間質性肺炎とされているケースは少なくありません。結果、先ほどの図のような生存曲線の差が生まれてしまうのです。
3. 喫煙関連間質性肺炎は禁煙のみで改善する可能性あり
Dr.Y: 間質性肺炎の中には、剥離性間質性肺炎(DIP)や呼吸細気管支炎を伴う間質性肺炎(RB-ILD)と呼ばれる疾患があります。
患者S: 漢字ばかりですね。これらは?
Dr.Y: いずれも喫煙関連の間質性肺炎と呼ばれています。
患者S: これらは診断されるとどのような治療上のメリットがあるのですか?
Dr.Y: これらは、禁煙だけで改善が見込めます。つまり、きちんと禁煙できれば追加治療どころか薬物治療は不要な事が多いです (4)。
患者S: なるほど。これだけ治療が異なってくるのであれば、やはり原因も含めてきちんと精査しないといけないですね。
Dr.Y: はい。ただ間質性肺炎というだけでは必要な治療の半分くらいしかできないわけです。
患者S: 逆に、特発性間質性肺炎というのは、原因不明という事ですから、治療の選択肢はやはり少なくなってしまうのですか?
Dr.Y: その通りです。「特発性」に区分されてしまう事は、間質性肺炎の専門家にとって一番嫌なことであると言って良いでしょう。
(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。
参考文献
1. 日本呼吸器学会 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針
2. Costabel U, et al. Hypersensitivity pneumonitis. Nature Reviews Disease Primers. 2020;6(1).
3. Petnak T, et al. Antigen identification and avoidance on outcomes in fibrotic hypersensitivity pneumonitis. Eur Respir J. 2022 Oct 6;60(4):2101336.
4. Margaritopoulos GA, et al. Smoking-related idiopathic interstitial pneumonia: A review: Smoking and interstitial lung diseases. Respirology. 2016;21(1):57-64.