間質性肺炎(2) 「間質性肺炎」と診断されたら
(注)この投稿はフィクションであり、特定の患者さんや症例と関係するものではありません。
■登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
患者S:67歳男性。健康診断を契機に間質性肺炎を指摘され、Dr.Yの外来に紹介される。
1. 「間質性肺炎」の診断だけでは治療できない
Dr.Y: 間質性肺炎は肺の間質に異常をきたす様々な疾患の総称なので、この診断名がついても治療には直結しません。下の図は、間質性肺炎の原因となる疾患の集合図です。
患者S: こんなにたくさんあるのですか。
Dr.Y: これらは代表的なものですが、まだ網羅されていない疾患もあるのであくまで参考です。大事なのは、これらの疾患ごとに治療も違えば病気の進行スピードも予後も違う、という事です。
患者S: 確かにこれだけ多彩な疾患の集合体であるのなら、ただ「間質性肺炎」とだけ診断されても何も始まらないですね・・・。
Dr.Y: はい。ですから、次にしなくてはいけない事は、これらの病態のどこに当てはまるかを考える事。つまり原因精査です。
患者S: でもこれだけあると、どこから疑えば良いのか分かりませんね。
Dr.Y: はい。ただこれらの中で頻度の高いものが3つあるので、それらを中心に調べていく事になります。
患者S: 具体的には何ですか?
Dr.Y: 特発性肺線維症、過敏性肺炎、膠原病です。
患者S: どれも漢字ばかりで難しそうですね。
Dr.Y: 特発性肺線維症は他の疾患を除外した上で診断されるものなので、最後に持ってきて、まず過敏性肺炎から説明しますね。
2. 過敏性肺炎〜鳥とカビに注意〜
Dr.Y:過敏性肺炎は空気中のアレルゲンを吸い込む事によって生じる間質性肺炎です。短期間でたくさん吸い込んで急性に発症するタイプと、長年かけてアレルギー反応がくすぶりながら進行する慢性のタイプがあります。(*)
患者S: 空気中のアレルゲンですか。喘息と似ていますね。
Dr.Y: アレルギー疾患という括りでは同じですが、アレルギーの種類や病変となる場所が違います。
患者S: なんだか難しいですね。
Dr.Y: 喘息はアレルゲン曝露後に即時反応する1型アレルギーですが、過敏性肺炎では少し時間のかかる3型および4型アレルギーというものです。
患者S: アレルギーに種類があるというのは知りませんでした。
Dr.Y: また喘息は気管支がやられて狭くなるので、息を吐く時にヒューヒュー音がしてうまく吐けなくなります。一方で過敏性肺炎では肺がやられて息が吸えなくなります。
患者S: ちなみにどんなものが過敏性肺炎のアレルギーの原因になるんですか?
Dr.Y: たくさん報告されていますが、二大巨頭が鳥とカビと言われています。
患者S: カビは分かりますが、鳥というのは・・・?
Dr.Y: 鳥飼病などと別名がついているくらいですが、羽毛布団やダウンジャケットなどには鳥由来のタンパクがたくさん含まれていて、これが原因になる事があります。
患者S: そうなんですか。鳥が悪さをするなんて、ちょっと衝撃的です。
Dr.Y: 鳥が必ず悪さをするという事ではないのです。何のアレルギーでもそうですが、鳥由来のタンパクがアレルゲンとして反応してしまう人が一定数いらっしゃるのです。
患者S: なるほど。全員が全員羽毛布団やカビに反応を示すわけではないけれど、過敏性肺炎の患者さんの中には羽毛布団やカビが原因になっている人がいるという事ですね。
Dr.Y: その通りです。
3. 膠原病〜リウマチとその仲間たち〜
Dr.Y: 次に膠原病ですが、これは自己免疫疾患とも言われるもので、代表的なものは関節リウマチです。
患者S: 関節リウマチは良く聞きます。
Dr.Y:関節リウマチのような自己免疫疾患は、自分の免疫細胞が暴走してしまって、細菌やウイルスだけでなく自分自身の細胞まで攻撃しだすと起こります。
患者S: 関節リウマチって関節だけの病気ではないんですか?
Dr.Y: 関節痛とか手の強張りなどが有名ですが、これは関節周辺で炎症が起きているわけです。しかし炎症は関節だけでなく肺でも起こります。
患者S: そうだったんですね。膠原病は関節リウマチ以外にもあるんですか?
Dr.Y: はい。強皮症、皮膚筋炎/多発性筋炎、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、混合結合織病、などたくさんあります。
患者S: これらもリウマチと似た病気ですか?
Dr.Y: 病気のカテゴリーとしては一緒ですが、皮膚に炎症が強くでるもの、筋肉に炎症が強くでるもの、唾液腺や涙腺などに炎症が強く出るもの、様々です。どれも肺に炎症を起こして間質性肺炎の原因となりますが、頻度がそれぞれ異なります。
患者S: では、間質性肺炎と言われたら関節が痛くないかとか、皮疹が出てないかとか、色々注意しなくてはいけないですね。
Dr.Y: 鋭いですね。その通りです。従って、肺の病気だからって肺だけ見ていれば良いわけではないのです。また呼吸器内科医だけではなく、膠原病の専門医などとも連携しながら診断・治療をしていかなくてはなりません。
4. 特発性肺線維症(IPF)〜原因不明〜
Dr.Y: 最後に特発性肺線維症、IPFと呼ばれるものです。
患者S: どうしてIPFという名前なんですか?
Dr.Y: idiopathic pulmonary fibrosis、という英語の病名の頭文字をとった略称です。
患者S: あーなるほど。
Dr.Y: 特発性肺線維症は特発性間質性肺炎という分類の中に含まれますが、この2つはよく混同されます。
患者S: どちらも「特発性〜」と似たような響きですね。
Dr.Y: 「特発性」というのは原因不明という意味です。ちなみに、「とっぱつせい」と間違えて読む人がいますが、「とくはつせい」が正しい読み方です。「とっぱつせい」だと「突発性」で突然発症するという意味になってしまいます。
患者S: なるほど。「特発性」は原因不明。原因不明の間質性肺炎に含まれる原因不明の肺線維症という意味ですね。
Dr.Y: その通りです。間質性肺炎の原因について色々調べたけれど過敏性肺炎や膠原病など何も原因が引っかからない時に、特発性間質性肺炎と呼ばれます。
患者S: 原因不明でも、「特発性間質性肺炎」と言われると、何か診断してもらった気になりますね。
Dr.Y: 特発性間質性肺炎の中でも、特定の画像所見や線維化のパターンをとるものを特発性肺線維症、IPFと呼んでいます。
患者S: つまりIPFは特発性間質性肺炎の一種という理解でよいですか。
Dr.Y: その理解で正しいです。
患者S: どうして、特発性間質性肺炎の中でIPFだけ区別しているのですか?
Dr.Y: 最も予後不良だからです。このため、これまで様々な治療法が試されてきましたし、現在もいくつかの治験や臨床試験が走行中です。劇的に効果を得られる薬はまだありませんが、それでも少しずつ進歩しています。
5. 本記事のまとめ
・間質性肺炎と診断されただけでは治療につながりません。
・何が原因で間質性肺炎が起きているのかが重要です。
・特に過敏性肺炎、膠原病が重要ですが、特発性=原因不明の場合は特発性間質性肺炎と呼ばれます。
・特発性肺線維症(IPF)と呼ばれる予後不良の疾患は特発性間質性肺炎の一つです。
(*)病態理解のために急性と慢性の表現をしましたが、現在では線維性、非線維性の区分が一般的になっています。
(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。
参考文献:
日本呼吸器学会 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き2022(改訂 第4版)