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間質性肺炎(9)避けては通れない予後の話

登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
蜂谷:67歳男性。健康診断を契機に間質性肺炎を指摘され、Dr.Yの外来に紹介される。


1. 原因検索から予後予測へ

蜂谷:原因検索が重要である理由のうち3つ目は、予後予測につながるから、という事でした。これについても説明してください。

Dr.Y:はい。予後というのは、その疾患の人が平均的にどのくらい生きられるかといった見通しの事です。厳しい話ですが避けて通れません。

蜂谷:間質性肺炎の原因が分かれば予後が予測ができるようになるのですか?

Dr.Y:はい。もちろんそれだけで決まるわけではないのである程度振れ幅がありますが、大まかな傾向が分かります。例えば、間質性肺炎の中でも特発性肺線維症(IPF)が予後不良であるという事は有名です(1)。

蜂谷:IPFは原因不明の特発性間質性肺炎の一種でしたね。

Dr.Y:そして膠原病による間質性肺炎はIPFに比べると予後良好の事が多いと言われています (2, 3)。

蜂谷:膠原病・・・関節リウマチとか強皮症、皮膚筋炎、シェーグレン症候群など色々あったと思いますが、どれも一緒なのですか?

Dr.Y:鋭いですね。どれも一緒ではありません。例えば強皮症による間質性肺炎は膠原病の中でも比較的予後が良いという報告がある一方で(4)、関節リウマチの中でUIPパターンというCTの画像パターンを示す患者さんはIPFと同じくらい予後不良という報告もあります (5)。

蜂谷:膠原病の中でも色々分かれるんですね。

Dr.Y:はい。過敏性肺炎でも蜂巣肺と呼ばれる線維化の強い所見のある患者さんはIPFと同じくらい予後不良という報告があります (6)。

2. 予後予測の目的は単なる心の準備ではない

蜂谷:でも、できれば予後については聞きたくないです。なんか落ち込みそうで。

Dr.Y:もちろん、無理に知る必要はないです。あえて予後についての情報を聞かないという選択肢をとっても良いです。ただ、治療を決めていく上では重要な要素ですし、患者さんの人生計画にも影響してきます。

蜂谷:確かに、仕事の計画や家族との時間などについて、しっかり考えるようになるので予後について把握しておきたいですが・・・。でも予後不良と言われてしまったら落ち込んで前向きになれない事もあると思います。

Dr.Y:そうですね。ただ、そのような後ろ向きな側面だけではないんです。予後不良だと分かれば、医師も患者も経過観察をせず早期から治療を検討していこうという姿勢になります。

蜂谷:確かに。やれる治療は早期からやっておきたいですものね。

Dr.Y:例えば、抗線維化薬は線維化が進行してから使うのが良いとされていましたが、最近ではより早期から投与していきましょうという風潮になっています。患者さんが予後不良と分かっている場合はなおさらです。

蜂谷:なるほど。

Dr.Y:何より、予後不良と分かれば早めから移植登録に向けて動きだせるという事です。

蜂谷:移植登録と言うと、肺移植を受けるための登録と言う事ですか?

Dr.Y:はい。間質性肺炎は肺移植の対象疾患ですが、移植リストに登録して臓器提供を待つ必要があり、移植手術にこぎつけるまで平均2年はかかると言われています。したがって、特に若年発症で予後不良だと早めに移植登録をしておきましょうという話になるケースが多いです。

蜂谷:たしかに、予後が悪いと分かれば早め早めに色々行動を起こせるという事ですね。

3. 原因検索は時間がかかる!

Dr.Y:今日は診察はこれで終わりにしましょう。帰り際に採血室に寄って、血液検査をして帰ってください。

蜂谷:この血液検査の目的は何ですか?

Dr.Y:これも原因検索に関するものです。自覚症状や身体所見で目立った所見がなくても血液検査で拾い上げられるものが色々とあるので。ただ、その日のうちには結果が出ないので、来週の外来で、結果説明をするという事にしましょう。

蜂谷:かなり時間をかけるのですね。今日一日の診察では原因が分からないという事ですか?

Dr.Y:はい。原因検索には時間がかかります。問診、身体所見、血液検査、画像検査、必要に応じて病理検査なども予定して総合的に判断していかなくてはいけません。

蜂谷:だいたいどのくらい時間がかかるものですか?

Dr.Y:長くて数ヶ月を要する事もあります。

蜂谷:そんなに猶予があるものですか?

Dr.Y:ケースバイケースです。急速に悪化している時などは時間の猶予がないので、原因検索と平行して治療を始めてしまう事もあります。蜂谷さんの場合は、症状もないし慢性の経過なので、急がずじっくり調べる事をおすすめします。

蜂谷:分かりました。今日はありがとうございました。また来週よろしくお願いします。

Dr.Y:こちらこそよろしくお願いします。お大事にどうぞ。



参考文献
1. Ryerson CJ, et al. Prevalence and prognosis of unclassifiable interstitial lung disease. Eur Respir J. 2013;42(3):750-757.

2. Pugashetti JV, et al. Validation of Proposed Criteria for Progressive Pulmonary Fibrosis. Am J Respir Crit Care Med 2023 Jan 1;207(1):69-76.

3. Oldham JM, et al. Characterisation of patients with interstitial pneumonia with autoimmune features. Eur Respir J. 2016;47(6):1767-1775.

4. Su R, et al. An analysis of connective tissue disease-associated interstitial lung disease at a US Tertiary Care Center: better survival in patients with systemic sclerosis. J Rheumatol. 2011;38(4):693-701.

5. Kim EJ, et al. Usual interstitial pneumonia in rheumatoid arthritis-associated interstitial lung disease. Eur Respir J. 2010;35(6):1322-1328.

6. Salisbury ML, et al. Hypersensitivity Pneumonitis: Radiologic Phenotypes Are Associated With Distinct Survival Time and Pulmonary Function Trajectory. Chest. 2019;155(4):699-711.


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