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キャリア45年目もなお進化し続ける奇跡の歌姫、薬師丸ひろ子コンサートツアー2024横浜公演の感動

大桟橋、山下公園、マリンタワー、氷川丸に隣接する神奈川県民ホールは音響に定評があり、この場所を好むアーティストも多い。

18年ほど前にここでキースジャレットトリオを観ましたが、高音ののびやかさと低音の重厚感がしっとりと融和する上品で落ち着きのある音響(特にピアノの音が良かった)、ステージとの距離を感じさせない没入感ある空間が印象的だった。

そんな神奈川県民ホールも開館から50年を迎え、老朽化著しく来年3月には取り壊されるそうだ。すでに取り壊された横浜文化体育館といい、歴史ある建造物が消えていくのは寂しい。

まもなくその役目を終えようとしている県民ホールで36年ぶりに薬師丸ひろ子コンサートツアーが開催される。11,000円というチケット代や先の読めないスケジュールのためチケットは買わなかった。

この連休は少し暑さが和らいだこともあり、母の暮らす横浜の実家に赴き、茫茫に生い茂った庭の草むしりをした。実家でくつろいでいると、小中学生の頃から恋焦がれて買い集めていた薬師丸ひろ子の下敷、ペンケースなどのグッズやパンフレット、レコードや写真集についつい見入ってしまう。

昼過ぎに近くのハードオフで水谷豊やエポや岸田智史の中古レコードを購入、国道16号線沿いのマクドナルドで月見バーガーを食べながら東京に帰る途中で映画でも観ようかとスマホをいじっていた。

開演の二時間前のことである。「横浜 ライブ 本日」と検索すると、薬師丸ひろ子コンサートツアー2024 〜きみとわたしのうた〜が表示された。「そうか、今日だったか」と思い出した。

すぐに、県民ホールに電話した。「当日券ありますか?」と尋ねると「当日券はないと聞いております」ととても丁寧な対応。

仕方なく諦めて、検索トップのリンクにアクセスすると、チケットキャンプという転売サイトだった。転売サービスは利用したこともなく、転売ヤーの悪い噂も聞く。二の足を踏んだが、比較的しっりかしたサイトの内容と、44年前から恋焦がれた憧れの薬師丸ひろ子さんに、故郷の街横浜で会いたいという想いが勝り、即登録、購入することにした。DX革命という言葉の意味を今日ほど実感できた日はない。

同じ横浜とはいえ、私の実家はだいぶ南の横須賀との市境に近い。実家に戻り、急いできちんとした恰好に着替えて京浜急行に乗り込んだ。開演時間の17:00ぎりぎりに到着した会場は見事に私と同世代(50台半ば〕もしくはそれ以上の方々ばかり。とても落ち着いたクラシックコンサートのような客層。開演前の混雑が当たり前のグッズ売場は閑散としていた。

以下、ネタばれにならない範囲での感想。

一、薬師丸ひろ子さんが本格的に歌手活動を再開された2013年以降のこれまでのコンサートツアーのライブ録音は五公演ほどCDやストリーミングで聴いてきました。音質がどれも最高に良いので、レコーディング後にだいぶ操作としているのではないかと思っておりましたが、今回のライブはそのどの録音も上回る最高の音質でした。音質の良さはミュージシャンとエンジニアさんたちの技量の高さゆえです。弦楽四重奏、ピアノ、コーラスとパーカッション、ギター、ベース、ドラム、裏方のエンジニアのみなさん、技量あるプロミュージシャンばかりで安心感があります。

二、薬師丸ひろ子さんのコンサートへの参加は初めてでした。倍音というのでしょうか、薬師丸ひろ子さんは特別な歌声の持ち主です。人を幸せにして、心地よくできるとても綺麗で美しい特別な歌声です。県民ホールでの薬師丸ひろ子さんは特に喉の調子がよく、声に信じられないほどののびやかさがありました。また、夏らしい青い肩の開いた幅の広いドレス、銀色の装飾が散りばめられたお姫様のような白いドレス、どちらも本当に素敵でした。アンコールのグッズTシャツはロングスリーブの白色でとてもよく似合っていました。薬師丸ひろ子さんの歌う楽曲の特徴として、三拍子または8分の6拍子の曲や教会で聴く祈りの歌といったゴスペル調の曲が多いのですが、そうした曲調が薬師丸ひろ子さんの神々しい歌声によく合います。また、曲と曲の間のおしゃべりが上手でクスリと笑顔にさせてくれる楽しいお話ばかりでした。2時間半があっという間でした。

三、今回はコンサートツアーは選曲でかなり「攻めて」います。これまでのコンサートツアーでの角川映画主題歌を基軸とした選曲からはワンステージ上にギアをシフトしています。特に、ラバーズコンチェルトや花図鑑といったこれまでのライブではあまり取り上げてこなかったアルバムに収録された、とても難しい曲にチャレンジされております。花図鑑は純粋にレコードがメイン媒体として発売された事実上最期の1986年のアルバムですが、このアルバムには童謡作家中田喜直さんの作曲された「かぐやの里」が収録されております。今回、40年の時を超えておそらくライブでは初めてその曲を披露されました。歌物語からは「瞳で話して」を選んだことに音楽家としてのチーム薬師丸ひろ子さんの本気度が伺えます。ゴスペル調なアイリッシュのコアーズの名曲ユーレイズミーアップ、中島みゆきの時代などのカバー曲もより洗練されている印象を受けました。

四、横浜公演最大の山場は横浜出身の戦前に蘇州夜曲などのヒット曲がある渡辺はま子さんの「ああモンテンルパの夜は更けて」を披露されたことです。薬師丸ひろ子さん本人曰く、渡辺はま子さんが夢に出て来てぜひ歌ってほしいと伝えたのだそうですが、これは2009年のフジテレビドラマ「戦場のメロディ~108人の日本人兵士の命を救った奇跡の歌~」で渡辺はま子さんを演じる薬師丸ひろ子が劇中で披露した曲でまだCDにはなっていない隠れた名曲です。この曲を薬師丸ひろ子さんはアカペラで歌い切りました。

今回のツアーはまだ始まったばかりです。本気かつ進化し続け輝きを増す音楽家薬師丸ひろ子さんをぜひみなさんもご堪能ください。

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