よろず雑文 『津軽海峡冬景色』の韻
よろず雑文 『津軽海峡冬景色』の韻
はじめまして。
雑文を残すために開設してみました。
ツイッターやフェイスブックに載せるのはちょっと違うよな、
と思う日々の妄想を残してみようという試みです。
というか、今回の内容を書いておきたくて開設したようなものなのです。
それは石川さゆりの名曲『津軽海峡冬景色』(作詞:阿久悠)の歌詞について。
何となくリズムと韻が気になって考察してみたのです。
私は音楽はド素人なので、完全なる自由研究です。その点ご了承ください。
むしろ、情報があれば教えていただきたいくらいです。
三連符の語呂の良さ
『津軽海峡冬景色』の冒頭は「三連符」と呼ばれる(らしい)リズムから始まります。言葉が三音ずつのまとまりになっています。こんな感じに。
「うえの/はつの/やこう/れっしゃ/おりた/ときか/ら」
続く「青森駅は~」の部分は三連符ではなくなり、七五調に変化します。
(タイトルの「津軽海峡・冬景色」からして七五ですね。)
三行目はふたたび三連符で、
「きたへ/かえる/ひとの/むれは/だれも/むくち/で」
という感じです。
この三連符部分をふと声に出したときに、
ある快感を覚えました。
「なぜか知らないが口が気持ちいい!」
私はヒップホップがけっこう好きなんです。
中学時代にキックザカンクルーやリップスライムが流行したためです。
コアに聞きこんではいないのですが、カラオケに行けば毎回ラップを入れたくなります。
ラップの楽しさは韻の面白さや、リズム感、そしてそれを発語したときの「口の気持ちよさ」にあります。(もちろん他にもいろいろあるでしょう)
『津軽海峡冬景色』の歌詞に、その「気持ちよさ」を感じたわけです。
韻を避けている??
韻には色々な種類がありますが、一番わかりやすいのは「母音」だそうです。
母音をそろえることで、リズム感やまとまりを演出するわけです。
三連符部分の母音はこうなります。
まず一行目。
「うえお/あうお/あおう/ええあ/おいあ/おいあ/あ」
三行目は。
「いあえ/あえう/いおお/うえあ/あえお/ううい/え」
となります。
さて、押韻の観点から見てみると、ちょっと面白いことが分かります。
一行目の「おりた時から」の部分の「おいあ/おいあ/あ」のほかは、
全てが異なる母音3文字で構成されているんです。
言い換えると、「おりた時から」以外は全く韻を踏んでいません。
これはたまたまの偶然なのか、それとも意図したものなのか。
ちょっと気になったので続きの歌詞をみてみます。
再び三連符が登場するのは、
決め台詞の「ああああ~~~ 津軽海峡冬景色ィ~~」の直前です。
「おおえ/おうあ/あおえ/いうえ/あいえ/いあい/あ」
となります。
これまでに使った組み合わせは、
一行目「うえお/あうお/あおう/ええあ/おいあ/おいあ」
三行目「いあえ/あえう/いおお/うえあ/あえお/ううい」。
おお!やはり母音はカブっていません!(「おりた時から」以外は)
しかし母音5文字の組み合わせは125通りもありますから、
18回くらいでは偶然かもしれません。
(「おりた時から」は韻踏んでいるし・・・)
2番も見てみます。
果たして結果は・・・
2番の三連符部分の母音は以下の通りでした。
一行目「ごらんあれが竜飛岬~」
「おあん/あえあ/あっい/いあい/いあお/あうえ/お」
三行目「息でくもる窓のガラス~」
「いいえ/うおう/あおお/ああう/ういえ/いあえ/お」
サビ
「あえお/おおあ/うえお/ううう/あえお/ああい/い」
以降は繰り返しの歌詞のみです。
さて、母音の組み合わせはどうなっているでしょうか。
一覧にすると、こんな感じです。
1番
一行目「うえお/あうお/あおう/ええあ/おいあ/おいあ」
三行目「いあえ/あえう/いおお/うえあ/あえお/ううい」
サ ビ「おおえ/おうあ/あおえ/いうえ/あいえ/いあい/あ」
2番
一行目「おあん/あえあ/あっい/いあい/いあお/あうえ/お」
三行目「いいえ/うおう/あおお/ああう/ういえ/いあえ/お」
サ ビ「あえお/おおあ/うえお/ううう/あえお/ああい/い」
結果はこちら。合計36か所のうち・・・
「いあい」「いあえ」「うえお」「おいあ」が2回、
「あえお」が3回、登場しました。
残念ながら「押韻を意図的に避けたとは言いがたい」結果となりました。
しかも、「あっい」や「おあん」のように、撥音と促音も入れるとなると、
そもそも組み合わせは125通りではなく、
5×7×7=245通りです。
(※「ああっ」など3文字目の促音もアリとした場合)
36か所を30通りの組み合わせで構成していることになります。
となると、「押韻を意図的に避けた」というのは無理がありそうです・・・
ちなみに、それぞれの該当の歌詞はこちら。
「いあい」…1番「(泣いて)いまし(た)」、2番「(竜飛)岬」
「いあえ」…1番「北へ(帰る)」、2番「(ふいて)みたけ(ど)」
「うえお」…1番「上野」、2番「胸を(ゆする)」
「おいあ」…1番「おりた」「時か(ら)」
「あえお」…1番「誰も」、2番「風の」「泣けと」
となります。
こうしてみると、1番と2番でカブっているケースが多いようですね。
試しに1番のみ、2番のみでのカブりに限定すると、
「おいあ」…1番「おりた」「時か(ら)」
「あえお」…2番「風の」「泣けと」
の2か所がカブっていました。
もしかすると、1番の中、2番の中それぞれで、
あまり押韻してしまわないように、できるだけ色々な組み合わせを使ったのかもしれないとは思いますが、
やはり「意図的に押韻を避けた」とは言えないと思いました。
気持ちよさの正体は?
ちなみに、一文字での押韻を考えた場合、
この歌詞は巧みに韻を踏んでいます。
とくに一番です。
「うえの」「はつの」「やこう(発音はおに近い)」
「おりた」「ときか(ら)」
「こごえそうな」「かもめ」「見つめ」「泣いて」
などです。
さらに、三連符が、意味上の切れ目を跨がないように作られています。
冒頭は「上野発/の」ですが、意味としては「上野/発/の」と考えても違和感がないですよね。
「夜行列車」も意味の切れ目は「夜行/列車」と考えて差し支えありません。
二番も「竜飛岬」などの固有名詞を入れつつ、
いわゆる「ぎなた読み」にならないように配慮されています。
これが意図的であるのはほぼ間違いないのではないでしょうか。
例えば、2番の「息で/くもる/窓の/ガラス」は、
「窓ガラス」ではなく「窓のガラス」として語調を整えているように思えます。
当初の仮説は否定されてしまいましたが、
「意味上無理のない三連符×一文字での押韻によって、気持ちの良いリズム感が作られている」とは言えそうです。
おわり