見出し画像

都市型農業(#38 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

社会経済の変化・都市型農業の成立(営農団地)

政策ニュースには、製造業を中心とした産業の飛躍的な成長の陰で、旧来型の産業、農業、漁業等の一次産業や、手工業を中心とした工芸技術が、斜陽化していく過程が記録されています。

その時代を理解するための重要な基本文献である、「高度成長」吉川洋著では、消費者物価指数と卸売物価指数を例に、生産性の伸び率の違いが高度成長期の大きな特徴であると指摘しています。

図8

市場にある数くの物の価格の平均的な動きを捉えるものが、物価指数です。卸売物価指数は、現在は企業物価指数ですが、金属、石油、化学製品など、原材料や工業製品の価格を示す指数です。それに対して、消費者物価指数は、一般消費者が購入する商品などの価格を示します。そのうちの過半数が、食料費、つまり農産物など一次産業の価格です。

この図で見るように、これらは、高度成長を通して著しく異なった動きをしており、昭和26(1951)年から、東京オリンピックが開催された昭和39(1964)年までの13年間で、卸売物価は4%しか上昇していません。しかし消費者物価は、年率4%以上、13年間で6割上がっています。
これは、一次産業自体が生産性の増加が低く、その分を物価に反映させざるを得ないということを意味しています。
日本における一次産業の生産性の低さは、現在でも大きな課題であり、産業の衰退や後継者不足などに繋がって行きます。

一次産業の生産性を上げるための施策として、例えば農業では、営農団地、農業団地があります。
これは簡単に言えば、農用地の集まりで、特に農業機械作業の段階で耕作の作業が中断されずに継続させることが可能な構造を持った設備を指します。
日本では、昭和32(1957)年に、農協の主導で始められ、作目ごとに集団産地を造成することで、農業生産の集団化を行い、加工流通を統一することを内容としています。これによって生産性の向上と規模拡大によって農業所得の上昇を目標とするものとされています。

川崎の政策ニュース映画では、川崎市麻生区岡上の営農団地が取り上げられています。
日本には多くの農業団地がありますが、ほとんどが地方のものです。まとまった農用地の確保自体が困難であることから、このような都市型農業の営農団地は珍しいようです。

岡上の営農団地は、昭和49年9月24日「造成すすむ岡上営農団地」と平成元(1989)年10年15日「味の味覚を収穫-岡上営農団地」の2回、取り上げられています。

前者は営農団地自体の建設に関するもので、後者(秋の味覚を収穫-岡上営農団地)は、その成果の報告といった内容です。
どちらも経済成長を終えた後であり、特に平成のものは、昭和2,30年代のものとは、表現の仕方も全く異なっており、カラーであることも含め、同じ地域の記録とは思えません。

昭和49年の方では、営農団地づくりそのものがテーマです。

図9

「柿の産地として知られる川崎市岡上で、営農団地作りが進められています。これは、限られた土地を効率よく使って農業経営を行い、市民に親しめる農業作りが目標です。総面積35ヘクタールのこの団地では、柿のほか、季節のものや温室野菜が作られることになっています。こうした、市民生活に密着した営農団地の誕生は、川崎の新しい都市農業として、大いに期待されています。」

このように、都市型、近郊型の農業は、消費地と近いということ自体がアドバンテージになるため、作物の品質をより高度化するといったアプローチが取られることが多く、当初からそういった意図で開発されたということがわかります。
川崎の政策ニュース映画には、そもそも農業をテーマにするものが余りないのですが、工業化がひと段落して、新たに「都市農業」という概念が注目されてきたようです。

さらに平成になると、リンゴの栽培実験などの他、家族連れに向けたさつまいもや落花生堀り体験など、新しい農業の在り方が明確になって行きます。
都市部における戦後の住宅不足などによって、地域はどんどん宅地化されていきました。

図10

岡上の営農団地は、現在でも都市農業の特性を生かして、観光地として運営されています。「川崎の最後の秘境」などとも呼ばれているようですが、観光案内などで見る限り、風情はこのニュース映画に記録されているものと、殆ど変わりません。

工業化に向かっていった高度成長を終え、さらに80年代後半の日本全体を覆った土地投機の時代を乗り越えた、岡上の営農団地は、存在自体が戦後社会のレガシーと言えるかもしれません。

※トップの画像は、山崎貴大さんの「農業」の写真をお借りしました。どの産業であれ、人がそれを支えます。なぜか、農業だけは夫婦が似合います。
素敵な写真に、お礼申し上げます。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?