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ホワイト・シルバー・ダイブ(2)

これまでのあらすじ

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 「サウナ部メンバーで集まって、北の聖地こと『白銀荘』へ行こう!」ということで、北の地に集まったおれ(大阪)とヤスミ(東京)とA吉(愛媛)の3人。定番のすすきのニコーリフレでととのい三昧の夜を過ごし、夢うつつの間を揺れ動きながら白銀荘へのモチベーションを高めていた。ニコーリフレをさしおいて「北の聖地」とまで言われる場所とは一体なんなのだろうか? 朝10時にダラダラ起きてレンタカー屋の前に集合したおれたちは、さっそうと車に乗り込み富良野を目指した。

遥かなり、ふらの

 さあ白銀荘にいざゆかんと、シャキっとカーナビを立ち上げた我々であったが、まずその距離に面食らった。

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 に、2時間46分...!! 北海道は広大であるから、あまりナメた移動プランで挑むと痛い目に遭うというのは何度となく聞いた話ではあったものの、いやちょっとこれはさすがに...桃鉄だったら10数マスくらいの距離だったような気が...「こりゃほぼ移動で一日終わるな」と頭をかいて、高速道路にのる。グングンと速度を出して前進していくものの、さっぱり座標は移動しない。各駅停車の旅みたいな時間の中で、音楽を流して、とりとめのない雑談をしながらひたすら、東へ...

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 道中で旭川ラーメンを食べたり、夜のごはんを買ったりしていて、白銀荘目前まできた頃には午後3時過ぎたくらい。日照時間がクソ短いため、写真のとおり空はぼんやり薄暗い。11月とは思えないなぁと驚きながら、車に買った食料を載せていく。

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 「11月だし特に雪が降る予想もなかったけど、本当に雪の中にダイブできるんかいな?」という不安はあったものの、山奥に進むにつれて視界はどんどん白くなっていった。フカフカの雪~という感じではないけれど、これなら雪の上に寝そべるくらいの事はできそうだ! 期待とともに胸が高まっていく。「北国でサウナって感じのサウナソングを流してよ」とヤスミに促され、俺は意気揚々とカー・ステレオから郷ひろみのGOLD FINGERを流した。「アーチーチー アーチー...これは、歌舞伎町のサウナだな」と言われてしまった。いやきみ、そもそも北国でサウナって感じのサウナソングってなんや?

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そうして山をずんずんのぼり

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ついに到着! 白銀荘である!

~ヒバの楽園へ~

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 白銀荘には簡単ではあるが和室があり、温泉旅館のようにはいかないものの、そこで宿泊をすることができた。荷を下ろして一息。ようやくやってきたんだな...という感慨とともに感極まった我々は、「北の国から」のテーマ曲を高らかに歌い上げてしまった。あ~あ~ あああああ~ あ~ う~う~ ううううう~~~~~~(もはや入る前から恍惚は最高潮に達している)日が落ちる前に風呂場に行かなきゃ! といって、いそいそと浴場へと向かった。

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 浴場に入り、湯気とともに鼻孔を木の香りがいっぱいに広がってくる! 白銀荘の浴槽はヒバの木で作られているとのこと。うんうんヒバね、ヒバってなんだ? というぼんやりとした事を考えながらワシワシと身体を洗い流す。窓の外に目をやれば、そこにはそびえる大雪山の列...これはとんでもなく気持ち良い外気浴になりそうだぞ! と期待を膨らませ、サウナ室に入った。

 定員6、7人程度のやや狭めのサウナ室。ちいさなテレビからは北海道ローカルの番組が流れている。ヒーター式のごくオーソドックスな構成ではあるものの、やはりここでもヒバっぽい感じの香りが満ちており、じんわりとリラックスできる。(ヒバの香りってなんだ?)

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 ゆっくりと汗をかいてサウナ室を出ると、すぐ真横の水風呂の蛇口から水がじゃばじゃば出ており、蛇口にはコップがひっかけられていた。A吉は「感染症対策的にちょっとあれですね」と訝しむも、おれは能天気に「洗えばいけるだろ」といって水をグビグビ飲んだ。これがマジでうまい。山々に濾されたであろう、清水である。極寒の大地でキンキンに冷やされた水が身体にしみわたってゆく! こりゃあむしろ健康になるいっぽうだな!

 そして念願の! 外気浴である。降雪はなかったものの、鋭い北風がふきつける。入念に水風呂に入り寒暖差がないようにしていたものの、まだ一層強く全身が冷却されていく。奥の露天風呂に震えながら向かうと、そこには一足先に雪ダイブを終えていたヤスミとA吉がベンチで完全にキマった状態で座っていた。

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 「水風呂とは悠長だな!」みたいなことを言われながら、指さされた先には降り積もる雪! これだけの積雪量なら雪ダイブできるぞ~! と思ったものの、なんかまぁカチカチだったらイヤだなぁと思ったので、そっと奥の方まで進んでいく。まぁまぁ雪は柔らかい。「行け!」という声に背中を押されて、俺はあられもない姿で雪の中に倒れ込んだ。

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 「ボフッ!」というよか、「ズズズ...」という感じで雪に全身が沈んでいく。まあ当たり前なんだけどめちゃくちゃ冷たい。「アアッ! オアッ!」という声が出る。これが気持ちいいかどうかといえばよくわからない。 「からだを裏返すんだよ」と言われて、今度は背中の方を雪の中に沈める。魚の両面焼きっぽい。冷たさと共に失われていく身体の感覚。ととのうっていうかこれ、逝くやつじゃねえのか? 冷凍されるマグロもこんな感じか?

 カチカチに凍えた身体をひきずるように雪のエリアを抜け出て、ひんやりしたベンチに腰を落とす。もはや先ほどまで感じていた寒さも曖昧になったとき、「キュウウ!」と全身が一瞬引き締まり、そのあと穏やかに開放されるような一連の伸縮のような感覚が全身を駆け巡った! こ、これはなんや...今まで感じたことのない、まさに生命活動の危機を察知した時に起こる急激なショックのような身体反応は???

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 刹那におとずれる強烈なととのいウェーブ! まだ先ほどの雪ダイブの名残でピクピクと痙攣する筋肉が全身にパルスのような刺激を与える。なんというかこう、リラックスというよりかは久々に本能に訴えかけるようなパワフルなととのい感である。「これ、気持ち良いな...」と感想が漏れ出る。「しきじを超えるナンバーワンサウナかも」という評まで飛び出した。大自然のふところに飛び込むことによって得られる荒々しい快楽の渦に、俺たちはすっかり魅入られてしまった。

 露天風呂で身体をあたためなおしながら、A吉は「1泊といわず、こんどはもっと大人数で、2泊~3泊くらいして存分に楽しみたいっすねえ」と口惜しそうに語る。そのとおりだなぁ。でも今はこんなご時世だし、それ以上にみんなそれぞれの生活があって、ひょっとしたら3人でだって、二度と集まれる場所かどうかといえば結構微妙な場所なんだよなあと思うとたまらなく寂しい気持ちになってしまって、目をぱちぱちさせながら、世闇と靄で見えなくなった山々の向こう側をじっと眺めていた。

 とにかく、今こうやって集まってともにサ活できたことに感謝の気持ちをめいっぱい感じながら、3セットをキメて浴場を後にした。ありがとう白銀荘、ありがとう北海道! ありがとうサウナ部! 世界にはまだこう...素晴らしいことがいっぱいあるんだなあという感動にひたすら打ち震えた。「この自由さ、独身ならではかもな」と思えばこそ、また大きく一歩と婚期が遠のくクソでかい音が聞こえて、おれはぶんぶんと首を振った。おしまい。


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 サウナ後に、食堂でもつ鍋を作って食べました。サッポロクラシックとともにいただく鍋最高! サウナ部は、北海道を愛しています。

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