「心理的安全性」をバリューに掲げたけど、ほぼ効果がなかった話
今回は、組織づくりについての話。
現在うちの会社は7期目で、メンバーは業務委託の方を含めると100人近くになりました。
おかげさまで退職率も低く「みんないい表情で働いてますね」と言っていただくことも増えました。心理的安全性も高く、「組織をよくするために自ら積極的に動く」というカルチャーが醸成されていると自負しています。
ただ、ずっと平和でいい感じだったのかというと、そんなことはありません。当初、組織づくりはめちゃくちゃ大変で、起業して最初の2〜3年はずっと組織のことで悩んでいました。
そんな状態から、どうやって今のようになったのか?
同じように組織づくりに悩んでいる人のヒントになればと思い、僕の経験を書いてみたいと思います。
「お前やれるのか?」みたいな空気感
初期の頃、オフィスはシーンとしていて緊張感がありました。
プロフェッショナリティのすごく高い人たちが集まっていて「俺はこんだけやるけど、お前やれるのか?」みたいな空気が流れていて、なんとなくギスギスしていたんです。Slackでも、よく言い合いが起きていました。
それはそれで初期の大変な時期を乗り越えるためには必要だったのかもしれません。だけど、ずっとその状態が続いていたので「なんか、会社にいるのがつらいです……」とか「ギスギスしてて居づらいです……」という人も増えてきて、そのまま退職してしまうこともありました。
ほとんどが中途入社の社員だったので、背負っているカルチャーがまったく違うわけです。「前職ではこうだったんだけど……」「俺のやり方はこうなんだけど……」 とそれぞれが言い始めてぶつかってしまう。
「〇〇君はこう言ってるけど、△△さんはこう思ってて」とずっとやっていた。正直「これじゃ事業に集中できないよ……」と思う時もありました。
「心理的安全性」を掲げたけれど……
もちろん、バリューがなかったわけではありません。
当時のバリューの中には「心理的安全性のあるチーム」と「全員プロフェッショナル」というのがありました。プロフェッショナリズムを持ちながら、心理的安全性もある組織にしたいと思っていたのです。
うちは金融の会社なので、特に心理的安全性は大切だと思っていました。
心理的安全性がないと、問題が隠蔽されて上司に上がってこなくなります。金融の世界で問題が隠されたり、報告が遅れたりするのは致命的です。だから僕は、起業するときから心理的安全性はめちゃくちゃ大切にしようと決めていました。
しかし結果として、このバリューはほぼ機能しませんでした。「心理的安全性」と掲げていても、組織はギスギスしたままだったのです。
「心理的安全性」は結果的に生まれるもの
なぜ「心理的安全性」というバリューが機能しなかったのか?
気づいたのは、「心理的安全性」は「結果的になるもの」だということでした。あくまで「状態」を表す言葉であり「行動」を促す言葉じゃなかった。
心理的安全性というのは、みんなの立ち居振る舞いや行動の「結果」によって醸成されるもの。だから「心理的安全性」という言葉をバリューにしても、みんなどう動けばいいかがわからなかったんです。
体を鍛えたければ「毎日、腕立て伏せを100回しようね」と言うべきですよね? だけど、当時の僕らは「ムキムキになろう」がバリューになってしまっていた。「ムキムキ」は結果としての状態であって、行動規範ではなかったのです。
それどころか「心理的安全性」という言葉があることで、主張を通すための言い訳に使われてしまうこともありました。
本当は上司からの正当な指示だったりフィードバックだったりしても、部下から「それはパワハラだ」「心理的安全性がない」と言われかねない。
これでは、心理的安全性が醸成されるどころか、むしろ逆効果です。
バリューを「お飾り」にしない
僕らはバリューを刷新することにしました。
「心理的安全性」というバリューは3年ほど使っていたのですが、ほぼ「お飾り」のようになってしまっていました。バリューが形骸化してしまっては意味がありません。
刷新するにあたっては「ちゃんと機能するかどうか」を意識しました。
まず「機能するバリュー」とは何かを整理しました。
日々の業務の中で意思決定の拠り所になるか?
日常的に使えるシーンがイメージできるか?
覚えやすいか? 引っかかりがあるワーディングになっているか?
などです。
それらを踏まえて、最初は「ファーストペンギンになろう」というバリューにしようかなと考えました。
「ファーストペンギン」であれば、うちの「未来の不安に、まだない答えを。」というミッションとの整合性もあります。
新しいことにどんどんチャレンジするカルチャーになれば「まだない答え」を出していくことができます。どんどんチャレンジできる会社になれば、自然と「心理的安全性」も担保されるはず……。
だけど、「このバリューで本当に行動に移せるだろうか?」という疑問は残りました。
「ファーストペンギンになりましょう」と奨励しても「ファーストペンギンになろう!」と思うことしかできません。しかも、そもそも心理的安全性のある組織になっていないと、ファーストペンギンが次々に出てくることは考えにくい。
いきなり「ファーストペンギン」を掲げても、またお飾りになってしまうのではないか? もっといい言葉があるはずだ。そう思いました。
ファーストペンギンだけでは世界は変わらない
バリューを考えているなかで、この動画を改めて見てみました。有名な動画なので、ご存知の方も多いと思います。
1人が踊っていて、そのうち2人目が踊り出す。すると3人目、4人目と増えていって、それがムーブメントになっていく。
この動画が示すのは「ファーストペンギンの重要性」だと思っている人もいるかもしれませんが、そうではありません。2番目、3番目に踊り出す人こそが重要だということです。
ファーストペンギンだけだと、ただの「変な人」で終わります。でも動画を見てみると、2人目がまわりに「来いよ」と誘っていることがわかります。フォロワーがいるからこそ、ムーブメントになる。フォロワーこそがカルチャーを作っていくのです。
うちもフォロワーが盛り上げていくようなカルチャーにしていきたい。
誰かが「こういう取り組みをやります!」と手を挙げたときに、まわりのみんなが「いいね!」「協力するよ!」「応援するよ!」と言ってくれる。会社全体がそういう雰囲気に包まれていれば、みんなが新しいことにどんどんチャレンジしやすくなるはずです。
「セカンドペンギン」こそが大切
僕たちは「ファーストペンギン」よりも「セカンドペンギン」の存在こそが大切なんじゃないか? と思うようになりました。
セカンドペンギンがいれば、ファーストペンギンも出ていきやすくなります。応援してくれる人がまわりに増えれば、チャレンジしやすくなる。
手を挙げやすくなって、いろんなところで自然発生的にファーストペンギンが生まれていく。そんないいサイクルが生まれるんじゃないか……。
「それをなんか、いい言葉で言えないかな?」と話をしていると、共同創業者の柴田さんが「シンプルに"セカンドペンギン"でいいんじゃない?」と言いました。
セカンドペンギンを「セカペン」と略せば、キャッチーだし覚えやすい。「日常でも使えそうで、すごくよさそうだね」という話になり、僕らのバリューは「セカンドペンギン」に決定しました。
浸透させるために、キャラやスタンプを作った
バリューは決めたら終わりではありません。組織にきちんと浸透しなければ意味がない。そのための施策もいろいろやりました。
まずキャラクターを作りました。
社内でバリューを発表するときに、「セカペンちゃん」というキャラクターも紹介したのです。「これがセカペンちゃんです!」と言うと、社員のみんなからは 「かわいい〜」と好評でした。
セカペンのスタンプも作りました。Slackで誰かが手を挙げたり発言したりすると、セカペンのスタンプが付くんです。
あとは、経営陣が率先してバリューを使っていきました。普段の会話で「それ、ナイスセカペンだね!」と言ったり、スタンプをバンバン使う。
そうやってセカペンは浸透することに成功しました。
いったん浸透すれば、あとは楽です。みんなが使っているから、あとから入ってきた中途の人も「ああ、こうやって使うんだな」という感じで、どんどんマネしてくれるようになりました。
「セカペン賞」を作った
バリューをきちんと評価することもポイントです。
うちには「セカペン賞」というものがあります。
半期に一度、経営陣が「誰がいちばんセカペンを体現できたか?」を話しあって「セカペン賞」を決めるんです。
ちなみに、最近受賞したのは、誰かがイベントを企画したときに率先して参加してくれるメンバーでした。
そのメンバーは、Zoomで誰かが発言したら毎回リアクションしたり、Slackでの発言にコメントを付けたりして、社内を盛り上げてくれました。
日々の些細な行動ではあるのですが、徹底してやっていたので、文句なしの「セカペン賞」でした。
また、うちでは「ユニポス」という感謝を送るサービスを使っていますが、そこで「いちばん感謝した人」を毎月表彰する取り組みも始めました。
「感謝されるような行動をした人」を表彰するのが普通かもしれませんが、僕らは「感謝した人」も評価するようにしたのです。
すると、まわりの行動に対して感謝することが自然になりましたし、なにか行動すればみんなに感謝されるので、自ら動く人も増えていくといういい循環が生まれていきました。
セカペンが増えることで、ファーストペンギンも増える
いま組織コンディションは、すごくいい感じです。
誰かが「暑気払いやりましょう!」と言ったら「いいですね!」「参加しますね!」とリアクションが返ってくる。
誰かが「バドミントンやりたいですね」と言ったら「体育館とりました!」「バドミントン大会やりましょう!」みたいに声が上がる。
会社の仕組みを検討する「改善委員会」が自主的に立ち上がって「会社をもっとよくするためにはどうしたらいいか?」を考えてくれるようにもなりました。そこでは「ゴミ箱をもっときれいに使おう」とか「植木に水をやる当番を決めよう」などと話し合っているようです。
「セカペン」を評価することで「自ら動く人」も増えました。
会議室の椅子が乱れていたら直す。来客用のペットボトルの水を運ぶ。Slackでレスのない投稿を見かけたら「これはレス先が違いますね」と教えて、会話が再開するきっかけを作ってくれる人もいます。
誰かが指示したりお願いしなくても、自分で気づいて自主的にやってくれる人が増えたのです。
そういった光景を見て、転職してきたメンバーからは「困っている人がいないかなって目を配らせている人が多いですね」と驚かれることもあります。
組織づくりをナメないほうがいい
もし、創業当初の自分に声をかけるとしたら、こう言うでしょう。
「組織づくりはナメないほうがいいぞ!」と。
かつての自分は、それっぽいバリューを掲げて優秀な人材を集めれば、「いい組織」が勝手にできていくものだと思っていた節がありました。
でも、これはある人に教えてもらった言葉なのですが、組織もプロダクトと同じように「よくしようとしないと、よくならない」のです。
ただ人を集めてバリューを当てがっても、よくなってはいかない。そうではなく、機能するバリューを設定して浸透するまでしつこく使い続けること。そしてなにより、経営陣が組織づくりにフルコミットすること。
そういう強い意志を持ってよくしようとしなければ、よくならない。
特に創業時は「事業を伸ばしたい」という思いが強くて、組織づくりを後回しにしがちです。でも組織がグラグラしたままだと、ずっと悩みながら事業を進めることになります。
しかも、組織の課題というのは腹に来るんです。
事業の課題はビンタされてるような感じで耐えられるのですが、組織の課題は「ボディブロー」を喰らっている感じ。ズーンとなります。そこにマインドシェアを持っていかれると、事業どころではなくなってしまう。
だから、組織づくり・カルチャーづくりにリソースを投下するのは、遠回りのようで実は中長期で見るとコスパがいいと思っています。
また、組織課題は「予防」も大切だと思っています。
虫歯になってから虫歯を治すのはつらいですよね? だけど、月1ぐらいでちゃんと検診に行っていれば、虫歯にならずにすみます。
おかげさまで今はコンディションがいいですが、油断しているといつの間にか組織の状態が悪くなっているかもしれない。だからつねに油断せずに、施策をしっかり打ち続けて、いい状態をキープしていきたいと思っています。
ファンズはまだまだ成長途中です。今後もハードシングスがあって、組織にあらゆるストレスがかかるかもしれない。でも、組織のエンゲージメントが上がっていれば、恐れることはないはずです。
確固たるカルチャーを醸成し「根っこ」の強い組織にしておくことで、今後もあらゆる壁を乗り越えられると確信しています。
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