見出し画像

【保存版】財政赤字で国や円は破綻するのか?

 国民民主が躍進した衆院選が終わり、BOJ(無風)・FOMC(0.25%利下げ)・米大統領選(トランプ再選)という目まぐるしいイベントが終わったタイミングで、次の争点となる「財政赤字」について考察してみる。日本だけでなく、トランプ政権や英国でも財政赤字が注目され、足元の長期金利上昇に繋がっている。
 さて、国民民主の「手取りを増やす!」という公約は実質的に減税効果が大きく、となると「その財源は?」という思考回路となる。従来の政党であればもちろん国債である。国民民主の場合、税制改革(所得税や消費税の見直し)、社会保険料の軽減経済成長促進による税収増高所得者層への課税強化などが挙げられている。

 今回は、「財政赤字により国や円が破綻するのか?」という問いに答えるかたちで記事を書いてみる。

 結論から先に述べると、「日本の場合、財政赤字で破綻しない」。 

 しかしながら、国に対する信用不安から、通貨安(円安)を受けた輸入物価の上昇(コストプッシュ型インフレ)や、国債安(金利上昇)を受けた住宅ローンや借入金利の利払い増加により、結果として企業や個人家計が痛むかたちとなるため、放置はできない。結局、次世代の負担増に繋がってしまう。子を持つ親であれば、安易な政党公約に乗るべきではない!というマインドが醸成されるはずです。


はじめに:財政赤字とは?

 財政赤字とは「歳出>歳入」の状態。つまり、政府が税金やその他の収益で得られるお金よりも多くのお金を使っている状態。

 以下、財務省のHPを参照する。

 基本的な構造は『歳出が税収を上回る状況が続いており(財政赤字)、その差の多くは国債(借金)によって賄われている』というもの。

一般会計歳出【113兆円】 vs 一般会計税収【70兆円】 
→ 不足【43兆円】は国債発行で調達
青線【歳出】 vs 赤線【歳入】 
→ 不足を棒ブラフ【国債】で調達

1.財政赤字が続くとどうなるのか?

 上記の通り、政府は赤字を埋めるために国債(借金)を発行する。これがどんどん増えていくと、借金の返済が困難になる可能性が出てくる。

 ここで、足元の国債(借金)の積み上がり方を確認する(下図)
 日本のGDPが500兆円(年間)に対して国債は1000兆円(累計)と約2倍。年間の返済原資である一般会計税収は70兆円のため、このまま国債が増えなければ15年で返済ができるというざっくり計算

話はそれるが、銀行が企業に融資をする際の債務償還年数はMAX10年が目安。国という信用があるため15年でも信用供与されているという解釈もできる。さて、あなたであれば何年まで日本という国に信用を与えますか?

筆者の独り言
日本のGDPが500兆円(年間)に対して国債は1000兆円(累計)と約2倍。年間の返済原資である一般会計税収は70兆円のため、このまま国債が増えなければ15年で返済ができるという皮算用。

 教科書的には、財政赤字が国家に与える影響は以下のものがある

  • インフレと通貨価値への影響
    → こちらはコロナ財政赤字で多くの人が痛みを伴いながら実感したはず。コロナ補正予算で国債増発し、結果として円安となり、輸入物価が上がり、それを商品に価格転嫁することで、コストプッシュ型のインフレを引き起こした。

  • 信用不安と金利の上昇
    → 市場からの信頼が失われると、国債の買い手控えが発生し、国債の市場価値が下がり、金利が上昇する。その結果、国債発行者である国の利払い負担も当然増えるが、法人個人も同様に利払いに苦しむことになる。だからこそ、日銀が新発国債を買うことで需給バランスを調整していたが、日銀も足元のインフレ上昇を鑑み、金融緩和縮小モードとなっているため、市場での国債買い手不安が燻っている。

政府(異次元の国債発行)日銀(市中銀行等から国債購入→市場にマネー供給)によるアベノミクスは、円安誘導から企業業績改善し、設備投資を喚起し経済を回復させる狙いがあったが、成熟期である日本経済においては、設備投資等の資金需要を喚起することができず、結局有価証券などにマネーが向かい、ピケティの資本論通り、実質経済の成長を感じることなく資本家のみ潤う社会となった。さらに、過度な円安からコストプッシュ型のインフレを引き起こし、家計の食費が嵩み、エンゲル係数(家計消費支出に占める食糧費の割合)が高まり、株式投資の波に乗れなかった多くの国民の幸福度が下がった。我々国民は、この事実をしっかり理解してうえで、どの政党に投票すべきか公約を読み、選挙で意思表示していくことが大切です。

筆者の独り言

2.財政赤字と破綻の関係

破綻とは何か?

 国家の「破綻」とは「債務不履行(デフォルト)」に陥る状態と言える。つまり、国が自分の借金を返せなくなること。

会社の場合は、借入が返済できなくなると”期限の利益”を喪失し、直ちに借入金を全額返済することになります。もちろん、現金がないことが原因で借り入れが返済できなくなるため、不動産等の担保物件の差し押さえ、競売という流れで資産の現金化が行われます。

筆者の独り言

歴史的事例の分析

 ブラジル、アルゼンチン、ギリシャなど、過去に財政赤字が原因で経済的困難を経験。

  • ブラジルの財政破綻(1980年後半)
    原因: 1980年代、ブラジルは高いインフレと急速な経済成長を追い求める中で、外資で多額の借金を積み重ねた。さらに、金利の高い外貨借款に依存し、ドル建ての債務返済が困難に。石油ショックや国際経済の低迷も影響し、経済は不安定に。
    結果: 1980年代末、ブラジルは債務不履行(デフォルト)に直面。政府は新しい通貨を発行し、インフレを抑えようとしたが、経済は深刻な停滞とハイパーインフレに苦しむ。最終的に、1990年代に経済改革を進め、安定を取り戻した。

  • アルゼンチンの財政破綻(2001年)
    原因: アルゼンチンは1990年代に経済自由化を進め、アメリカドルとペソの固定相場制を採用。しかし、固定相場制によりペソの価値が高過ぎて、輸出競争力が低下。さらに、政府は多額の借金をドル建てで調達し、経済成長が鈍化すると、借金返済が困難に。
    結果:2001年、外貨準備が底をつき、政府はデフォルト(債務不履行)を宣言。これにより、アルゼンチンは深刻な経済危機に陥り、ペソの価値が急落。

  • ギリシャの財政破綻(2010年)
    原因:ギリシャはユーロ圏に加盟してから財政赤字が拡大し、政府の歳出が増大。リーマンショック後の世界的な金融危機が影響し、税収が減少する中で借金が急増。特に、過大な公務員給与や年金支出が問題視された。また、ユーロ圏内での金融援助を受けるために信用格付けが低下し、借り入れコストが増大。
    結果: 2010年、ギリシャはEUとIMFからの支援を受けることになり、緊縮政策が強制されましたが、経済は長期にわたって低迷。ギリシャは財政改革を進める中で、デフォルト危機を回避したものの、深刻な社会的・経済的影響が続いた。

 お気づきの通り、財政破綻には共通点があります。それは「外貨での資金調達」です。財政赤字が進むと通貨安になることは先述の通りですが、ドル建て債券を発行していると、返済原資である国内の税収は自国通貨建てのため、為替リスクが発生します。自国通貨安が進むと、当初よりも返済債務は膨らみます。国内経済が輸入物価のインフレで苦しんでいる状況では、個人消費も控えられ、企業業績も低迷し、法人税も減少します。では、ブラジルやアルゼンチンも自国通貨建てで発行すればいいではないか!という意見も聞こえてきそうですが、買い手である投資家がその通貨を信用していなければ発行できないという事情もあります。ペソよりもドルの方が換金性が高く買いやすいというのは肌感覚でありますよね。
 日本の場合は、外貨建ての国債の割合は「1%未満」のため、財政破綻リスクは低いと言われてます。円貨で発行して、返済原資の税収も円貨であるため、為替リスクがないためです。不足分はまた国債を円貨で発行して国債の元利金返済に充ててます。これが続く限り、国家はデフォルトせずに存続することが可能です。ただし、「発行する」ということは「買い手がいる」ということ。国債の買い手がいなくなる時、このロジックは破綻します。では、国債の買い手のラストリゾートは?・・・もちろん日銀です。言い換えると、日銀が財政破綻しない限り、国家はつぶれないということができます。では、日銀が破綻する可能性は?・・・このように連想ゲームをしていくことがトレーダーの思考回路です

筆者の独り言

日本の状況(★結論)

 日本の場合、外貨建ての国債の割合は「1%未満」であり、国債の保有割合もほぼ国内という状況。つまり、日本政府は円建てで国債を発行しており、外国の通貨に依存していないため、理論的には「円を刷って返済する(国債を発行する)」ことが可能。

 「財政赤字で国や円は破綻するのか?」という最初の問いに対する結論となるが、「国債の債務不履行は理論上起こらない=国や円は破綻しない」ということになる。

 しかし、足元の金融政策正常化の中、金利上昇により利払い額が嵩み、財政赤字が加速することはありえる。真っ先に国債を売る足の速いプレーヤーは海外投資家である。この海外投資家も全体の12%程度であることから、極端な金利上昇も避けられる構造となっている。

 参考:日銀 2024年第2四半期の資金循環(速報)

https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf

①国債の残高推移と保有者内訳:
残高は右肩上がりで増加
②保有割合前年比:
海外保有率は12.7%(2024年6月末時点)
③国債保有者構成比:
2012年アベノミクス以降日銀の割合が増加し足元50%程度

3.金融政策正常化を続ける中での国債の買い手は?(ややマニアックな内容のためスキップ奨励)

 ここまでの話で、理論上は日本は「通貨発行権」があり、国債の元利金返済のために円を刷れば(=国債を発行すれば)破綻しないことは理解できたと思うが、問題はそれが永久にできるのか?ということになる。その答えは「国債の買い手次第」である。
 アベノミクス前は日銀の保有割合は10%程度であったが、足元50%まで膨れ上がっているため、その受け皿は基本的にはメガバンクをはじめとする市中銀行ということになる。

 日銀が市中銀行にヒアリングした議事録があるため共有する(債券市場参加者会合(第20回)2024年7月)

https://www.boj.or.jp/paym/bond/mbond_list/mbond240719.pdf

日銀から市中銀行へのヒアリング内容

  1. 国債買い入れ減額の幅やペース

  2. 減額のガイダンスの示し方

  3. 残存期間別の減額の進め方

市中銀行からの解答

  1. について
    ・成長通貨の供給のための国債買入れという姿に戻るべきであり、国債買入れ額を大きく増加させる前の1~2兆円程度を目指すことが望ましい。
    海外中銀のQTの事例などを踏まえると、2~3兆円程度までの減額が望ましい。
    投資家の保有余力等を勘案すると、量的・質的金融緩和導入前の3兆円程度が一旦のめどとなるのではないか。
    ・IRRBB 上の制約等を踏まえると、国内銀行の債券購入ニーズは限定的と考えられ、4兆円程度までの減額が適当と考える。
    ・5兆円程度までの減額を一旦行い、その後は国債需給などの状況をみながら、さらなる減額を検討していくことでよいのではないか。

  2. 3.は割愛

ヒアリングを踏まえた2024年7月金融政策決定会合(BOJ)

  • 政策金利
    0.25%に引き上げ(従来0.1%)

  • 国債買い入れ
    足元の月額5.7兆円から、毎四半期4,000億円ずつ減らし、2年かけて月額2.9兆円まで減額する方針を発表。
    → ヒアリング内容の「海外中銀のQTの事例などを踏まえると、2~3兆円程度までの減額が望ましい」、「投資家の保有余力等を勘案すると、量的・質的金融緩和導入前の3兆円程度が一旦のめどとなるのではないか」を採用した格好。

https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2024/k240731b.pdf

政策金利:
利上げ0.1%→0.25%
国債買い入れ:
アベノミクス前水準の月額2.9兆円(足元5.7兆円)まで2年かけて減額方針

参考:アベノミクス以降の国債金利推移(2012年~)

金利推移:2年国債、5年国債、10年国債
金利推移:20年国債、30年国債、40年国債

まとめ:財政赤字で日本は理論上破綻しない。しかし、通貨安を受けた輸入物価上昇によるコストプッシュ型インフレや、国債需給バランスの緩みを受けた長期金利の上昇により、住宅ローンの返済利息が増加し、国民の生活は苦しくなる。減税で相殺以上の効果を期待できるか、が今後の政治を見るうえでのポイント。できないのであれば、将来へツケを回すことなく、痛みを伴いながら財政を正常化すべきである。


いいなと思ったら応援しよう!