
俳句チャンネル ~句またがり 編~
【はじめに】
この記事では、2021年3月18日にYouTubeの夏井いつき俳句チャンネルにアップされた動画『【いつきの怒り】プレバト!!スタッフと大喧嘩?句またがりを一緒に学びましょう』について簡単にまとめつつ、「プレバト!!」で披露された句またがりの俳句を紹介していきます。
1.プレバト!! スタッフと口論に!
「プレバト!!」の番組初期に、スタッフと口論になったという話しは度々、チャンネル内でも披露されてきました。例えば、
・俳句やる人は着物をきているものだ(夏井:スタッフの発想が凡人)
などは最たる例で、俳句への理解に乏しかった番組スタッフとは番組黎明期にはかなり口喧嘩になっていたようです。
俳句にまつわる部分ならばまだ良いのでしょうが、「添削」を依頼されているプロの側に対して、多少失礼では? という意味も含めて、夏井組長が怒り心頭だったのが、今回のテーマです。
(平場の人が)「先生、五七五になってないです。」
と言われる。「句またがり」というものが分からない層が一定数いる。それは芸能人に限らず、番組スタッフもそうだったようで、
番組の一番最初の頃に、スタッフに相当言われたんです。「先生、五七五で直して下さい」って。その度に相当怒り狂っていましたね。
実はテレビ(プレバト!!)のスタッフ、何チームか居て、毎回同じスタッフという訳ではないそうなんですが、それを知らない夏井先生は、
「なんでアンタら、前 説明したのに学ばないんだ!」
と、前回教えたのと違うスタッフに対して怒っておられたんだそうですww
これはまさに、ディス・コミュニケーションの世界であって、夏井先生は「テレビ」のことを、テレビスタッフは「俳句」のことを、まだ良く理解をしていないから、こういうことが起きたのだと思います。
2.「五七五」は俳句の定型に過ぎない
もちろん、五七五七七の短歌との比較という意味合いで、俳句は「五七五」と国語の授業で教わる訳ですが、何だって定型崩しみたいなのがあります。4分あたりから、「句またがり」について有り難いお言葉がありました。
夏井いつき
「俳句って確かに五七五なんですね。……俳句を指折って作ろうとする人は『五の塊』と『七の塊』と『五の塊』で意味を構成しないといけないと思いこんでいるんだけど、俳句ってもう少し柔軟性があるんですね。」
五七五が基本の型なんだけど、それに固執しなければならないものではなくもっと柔軟性があるものなんだと語ります。(それ自体を認識できていない方が平場に多いというのが現状かと思いますね。)
そもそもじゃあ「句またがり」って何なんだといいますと、5分過ぎで、
夏井いつき
「中七の途中に意味の切れ目があることを『句またがり』、上(かみ)と中(なか)を跨って意味を構成するから『句またがり』と言うのです。」
と仰っています。これも非常に明快な説明かと思います。例えば、音数は17音で、五七五の形になっているけれど、意味の上では「上五で一つの意味を構成していない」パターンというのは案外潜んでいます。そういったものも「句またがり」なのだと認識する必要があろうかと思います。
ここからは、戦前の俳人を中心に名句をご紹介していきましょう。
3.句またがりの有名句
動画内では、正岡子規の「句またがり」の句が紹介されていました。
① 春惜しむ宿や日本の豆腐汁/正岡子規
音数:5+7+5(17音)
意味:8+9 (17音)
これは「春惜しむ」が季語なのですが、上五単体で意味を構成していると言うより、「春惜しむ宿」で一塊であり、「春惜しむ宿や」「日本の豆腐汁」で構成されています。 まさに句またがりですよね。
② 手にあまる茅花よ電車はやともり/木下夕爾
音数:5+7+5(17音)
意味:9+8 (17音)
茅花の画像を追記させてもらいます。これも『手にあまる茅花』と『電車はやともり』でそれぞれ意味を構成しています。以上2カット的な作品です。特に2句目は、自然と生活が非常に清く描かれていて好きになりました。
その他にも、授業で習うクラスの俳句で言うと、
・秋深き隣は 何をする人ぞ /松尾芭蕉
・我と来て遊べや 親のない雀 /小林一茶
・万緑の中や 吾子の歯生え初むる/中村草田男
等も意味の上では実は「句またがり」的なのかも知れないなと思いました。
4.句またがりの句に対する音読の仕方
で個人的には最初どうしても馴染めなかったのが、句またがりの句に対する音読の仕方です。
授業などでは「五七五」であることを分かりやすくするため、先生なども含めて、「万緑の/中や吾子の歯/生え初むる」と意味ではなく、五七五の音数の切れ目に『小休止』を挟んで読むことが一般的かと思います。
(一般)「ばんりょくの_なかやあこのは_はえそむる」 △
しかし、意味の上では「万緑の中や」と「吾子の歯生え初むる」で分かれるので、俳句では5音などにとらわれず意味の切れ目で読むことが多いです。
(俳句)「ばんりょくのなかや_あこのははえそむる」 ○
どっちが正しいとかではないのでしょうが、俳句の世界では後者(意味の切れ目)で読むことが多いようなのです。これも「プレバト!!」で、声優・銀河万丈さんのナレーションに違和感を覚える方がいる様です。
個人的にはリズム感が馴染むので、前者と後者の中間で読むことが多いのですが、周囲に合わせた方が良いでしょう。
(Rx的)「ばんりょくの_なかや_あこのは_はえそむる」
5.字余りと同様「句またがり」は効果的に
ただ、これは「字余り」と同じことが言えるのですが、やたらめったら「句またがり」にすれば良いかというとそうではなくて、『意図をもって』『効果が見込まれる時に』(のみ)句またがりにすることが必要です。
技やテクニックが無いから五七五に仕上げられず……というのは本来の姿ではないのです。すなわち、
夏井いつき
「一つの情景を語るのに、たった5音では(表現するのが)難しい、そんな時にこの『句またがり』の型を知っていると情景を描きやすいんですよね」
「句またがりという技法を一つ覚えておくと、出来ること(=手)が増える。技術を一つ持つだけで、簡単にやれるようになるので、
句またがりの句を探してみ……て句またがりを分類してみる。やってみて欲しいですね、これを。」
6.「句またがり」は手札の一つ
家藤正人
「表現したいことがピッタリ五七五だとうまく収まらないけど、この句またがりという手法を自分の手札に持っておくと、自分の表現したかったことが表現できる場合もある。手札として持っておく。」
夏井いつき
「色んな手札もっていて損はないもんね~」
使う使わない(ポリシーとしても含む)は別にしても、使える技を多く持っていること自体は悪いことではないと思うので、ぜひ「五七五」にキッチリ当てはめる俳句だけでなく、「句またがり」や「字余り」なども作品に触れることで、使える技(RPGの呪文・魔法や剣術のイメージ)を増やすことは怠らない方が良いかなと思いました。
7.(注意)夏井先生は句またがりを推奨している訳ではない
家藤正人
「夏井いつきは句またがりを奨励している」とか色々言われるじゃないですか、「ピッタリ五七五になってないのを奨励してる」とか、そういう訳じゃないですよね?
夏井いつき
「はい。手の一つです!(大声)」
添削する上で、定型にハマらないから『五七五』の形から外れているに過ぎず、決して積極的に「句またがり」を奨励している訳ではないことを申し添えておきます。
だって、先生は常日頃から、「やっぱり五七五が一番安定している」とか、「やっぱり俳句は五七五」とか仰ってますからね、はい。
【おわりに(その1)】
ここまで「句またがり」の初級編についてお話ししてきましたが、動画内にあったとおり、「句またがりの作品」を調べて勉強したり、句またがりへの観点から「プレバト!!」を視聴する事を夏井先生本人が推奨していたので、次の記事では、句またがりの作品を実例と共に紹介していこうと思います。