月またぎレビュー「11月→12月」
このレビューも今年の1月から始めたてなんとか1年間、今回で12回目となりました。そんな風にいうと振り返りたくなりますが、それはまたの機会にして、遅くなりましたが今月分です。
「東北画は可能か?」や「ブルーシート」は本当は月初めまでやっていたのですが、現時点では終わってしまいました。。。しかしいずれも1回限りのものではなく、これからの展開を待てるものなので、頭の片隅に置いておいてもらえればと思えます。
また今月購入した本うち『読んでいない本について堂々と語る方法』(ピエール・バイヤール)で語られる読書への向き合い方からはとても得るものが多かったです。もともとほしい本もいっぱいあったのですが、積読上等という気分もはたらき、11月は本をたくさん買ってしまいました。
【アート】
「SHUNGA 春画展」 @永青文庫
2013年に大英博物館でも開催された「春画展」。日本国内ではどこも引き受け手がなかったところを、細川護煕氏の英断により永青文庫での開催が実現したそう。時代の幅も思いの外広く、とても充実した展覧会でした。エロがメディアの可能性を拡げるとよく言われるように、印刷技術の向上や様々な工夫も合わせて追うとおもしろいです。
また4,000円という価格を高く感じさせないボリュームのカタログも購入。デザインは、『SHUNGA 春画』や『HOKUSAI MANGA 北斎漫画』で日本美術の斬新な見せ方を手がけた高岡一弥さんでした。12月23日まで。
「東北画は可能か?」 @東京都美術館
「第4回都美セレクショングループ展」に選出されたグループ展。東北芸術工科大学で、教員である三瀬夏之介さんらによって立ち上げられた課外活動で、これまでも各地で活動を続けてきているそうです。ぼくが彼らの活動を最初に見たのはこの春、京都市美術館の「三瀬夏之介展」の一角で展開されていたとき。そこから比べても、会場はきちんと章立てされていて、作品ひとつひとつの情報量が多く、表現の幅も十分に広い、とても見ごたえのある展覧会でした。しっかりとしたカタログも作っていて(しかも無料!)すばらしい。今回は12月6日に終了。今後の展開にも注目したいです。
【音楽】
たまたま見た「タモリ倶楽部」空耳アワー、奇跡を目撃しました。前週に続いてジャンパー出たやつ。
【ライブ・舞台】
岡田利規「God Bless Baseball」
上演は日本語、韓国語、英語の3ヶ国語ですが、原文⇔翻訳という単純な対応関係ではありません。戯曲を読むと字幕の出し方にも指示があり、それぞれがその言葉である意味を重く背負っていることがわかります。複数の言語からなる戯曲といえば平田オリザのリアリズムを思わせますが、ここではより深い虚構性と象徴性を感じました。
そして舞台美術は高嶺格さんが手がけます。素材の選び方とその生成変化がもたらす効果にうなりました。
戯曲は『新潮 2015年 12 月号』に掲載されています。公演は終わってしまいましたが、戯曲を読んで再演を待ちましょう。
飴屋法水「ブルーシート」
2013年にいわき総合高校の生徒が上演した「ブルーシート」。当時はいわきのみでの公演でしたが、2015年版として待望の東京公演。しかし、岸田戯曲賞をとった際に出版された戯曲本の最後にも注釈があるように、出演者の個人的な経験によって戯曲は変更が可能なものになっています。そのため今回も単なる「再演」にはなっていません。初演の出演者を引き継いだ上で、この2年間の時間経過が織り込まれていて、より厚みのある作品になっているように感じました。
こちらも再演を待ちましょう。その時はまた「新作」になっていることでしょう。
【本】
『NAKED』 東谷隆司
90年代から00年代にかけてのアートシーンを駆け抜け、2012年に惜しくも世を去った無二のインディペンデントキュレーター・東谷隆司の著作集。美術のアツさで駆動する文章がさらにアツくあふれ出しています。
特に奈良美智の作家論では、一方では「かわいい」という受容が進んでしまっている絵画に対して、パンク・ロックや夭折の画家たちを引き合いに、死や残酷さといった深淵を読み解いています。
また「概論・変態とは何か」も収録(未発表?)。もちろんタイトル通りの変態論ではなく、パロディにも悪ふざけにもアカデミックにも見えるアクロバティックな論?文に筆の自由さが満ちています。
『現代思想 2015年12月号 特集=人工知能 -ポスト・シンギュラリティ』
人工知能は今年のバズワードの一つだと思いますが、『現代思想』でも特集が組まれました。寄稿は石黒浩、茂木健一郎、竹内薫、ドミニク・チェンなど。「思想」的には課題は既に「ポスト」シンギュラリティへいっているのか、と。さらに12.1発売の『WIRED(VOL.20)』も特集が「A.I.(人工知能)」。第三次ブームのただ中、ディープラーニングにより歴史的ブレイクスルーを遂げたという人工知能はビジネス的にも期待(とそして不安と)を寄せられているようです。