三菱重工、NEC…企業変革に向き合う挑戦者の苦悩と葛藤に迫る|『ONE JAPAN CONFERENCE』レポート (前編)
大企業の若手・中堅社員を中心に約55もの企業内有志団体が集う実践コミュニティ『ONE JAPAN』が、2021年10月31日、「ONE JAPAN CONFERENCE 2021」を開催しました。各界のトップランナーや有識者、大企業経営層などが集い、申込者は2500人以上! 注目のオンラインイベントとなりました。
そのセッションの1つに、エール株式会社取締役 篠田真貴子さんがモデレーターとして登壇。埼玉大学 准教授 宇田川元一さん、三菱重工業株式会社 シニアフェロー平野祐二さん、日本電気株式会社 カルチャー変革本部長 森田健さんのお話を伺いながら、変革を推し進める企業現場の葛藤とリアルに迫りました。【編集部 奥澤】
*12月14日、エール無料セミナー「個の力を引き出す組織づくりと1on1」を開催します。文末に詳細掲載。お申し込みお待ちしています。
業績が伸びていたとしても、「慢性疾患」は静かに進んでいる
—―まずは、三菱重工 平野さん、NEC森田さんから、それぞれの企業・組織が直面していた課題について。大企業が抱える「リアルな悩み」をお聴きします。
三菱重工 平野さん:私は三菱重工に入社して40年間、名古屋地区で「民間航空機の構造をつくる事業」に携わってきました。『Boeing787』の主翼の開発・製造というと、イメージしていただきやすいかもしれません。
この航空機事業は長い間売上が伸び続けていて、40年前と比べると10倍ぐらいの売上になっています。海外旅行だけでなく国内旅行の移動でも飛行機の利用が増え、私が管掌する部署も右肩あがりで成長を続けていたんですね。しかしながら、“量”を追われる場面が多くなると、“品質”における問題も増えていく。数年程前から組織に課題を感じる場面が増え、「事業部の体制」を見直していく必要があると考えていました。
—―そして、2020年には新型コロナウイルスによって状況は一変。人の行動が制限される中で、航空機製造事業の売上は、これまでの半分ほどになったと言います。
三菱重工 平野さん:もともと組織課題を感じていて風土改革を…と動き出していた中ではありましたが、コロナによる環境の変化によって急激な売上悪化に直面。これまで以上に、組織変革の必要性を感じるようになりました。
埼玉大学 宇田川先生:平野さんのお話を受けて、「企業変革の時期・タイミング」について少しお話できればと思います。
“企業の変革”という言葉を聞くと、一般的には「V字回復」のような抜本的な変革のイメージが強いかもしれないのですが、これはすでにかなり落ち込んだ状態での話。多くの企業はそうなる前に向き合う課題があると考えています。
下の図でいうと、赤いゾーンに当たります。少しずつ業績が下がっている、なんとなく調子がわるい状態を意味しています。このグラフでは右肩下がりのところを指していますが、成長フェーズでも、組織内の連携がうまく行かなかったり、仕事の必要と組織の能力の乖離から様々な問題が生じることがあります。スタートアップ企業や成長フェーズの事業で起きます。これも慢性疾患状態と呼べます」
そして、ここで重要なのは青いゾーンの「急性期」に入る前に、「慢性疾患」とも呼べるような症状に気づき、悪化する前に日々セルフケアをして「慢性疾患の寛解」を目指していくこと。赤い矢印の曲線を描くことがポイントになってきます。
三菱重工 平野さん:確かに宇田川先生がおっしゃるように、「慢性疾患」に気づかないで来てしまったというのはあるように思います。日々同じ仕事をしていると、「少しずつ悪くなっている現状」に気づきにくくなっていますから。
――そんな中、三菱重工が日々のセルフケアとして実践したのが、社員との対話。平野さんと事業部のメンバーがしっかり話をする場を設けたのだといいます。
三菱重工 平野さん:2019年頃から部内の取り組みとして始めました。1回に10名ぐらいの社員を集めて、部の課題について、日々感じていることに耳を傾けていく。だいたい30回程実施したかと思います。時間もかかるし、アンケートはどうか?という話もあったのですが、私は生の声が聴きたかった。社員一人ひとりがどのような思いや考えを持っているかを聴き、そこから課題を考え組織を立て直していきたいと思っていたんです。
大企業病、無駄な仕事が多い…。社長との対話から見えた社員の本音
—―続いては、NECの森田さんのお話です。森田さんが自らの経歴を語る中で、特に印象に残っているのは「私はもう辞めようと思ってたんですよ」という言葉。変革を推し進める以前は、会社の将来が全く見えない状態だったといいます。
NEC 森田さん:今から10年前ぐらいのNECは、本当にボロボロでした。株価も落ち込み、会社として本当に厳しい局面にあったと思います。私自身も、ONEJAPANのキャッチコピーにあるように、辞めるか、染まるか、会社を変えるか…と悩んでいて、最終的に選んだのは“会社を変える”選択でした。
どうにか変革してやろうと経営企画本部に飛び込み、あらゆる取り組みをしてきました。その中で、一番変わったのは、「経営者と社員のコミュニケーション」です。これまでのように経営者が一方的に語るのではなく、経営者との対話、サーベイによる対話などを通じて、経営者が社員一人ひとりと対等に語り合う関係性を重視し、実践してきました。
きっかけとなったのは、2018年の中期計画説明会です。幹部だけでなく社員全員を集め、社長自らが“なぜ会社を変革しようと思っているのか”“自分はこうしていきたい”という本気を社員にぶつけたんです。それに対して、社長がそこまで本気なら…と社員も本音を伝え始めた。「言わせてもらいますが、NECは大企業病だと思います」「無駄な仕事が多いです」「スピードが遅い」「過剰プロセス」など…それはもう耳が痛い言葉がその場でずらずらと出てきたんです。
社長はここまでリアルな本音を聞いたことがなくて相当ショックを受けていたのですが、そこから、一気に動き出しました。プロジェクトを立ち上げ、社員の声を「経営力の再構築」「オープンで分かりやすいコミュニケーション」「プロセスと仕事のシンプル化」といった6つに分類し、ありとあらゆる施策を実施していったんです。
――そして、NECの「社長と社員が本音で語り合うセッション」は、この1回では終わりません。社員から「もっとやってほしい!」という声が多く集まり、半年で30回の開催。国内だけでなく海外拠点も回りながら、「社長と社員の対話」を重ねていったといいます。
エール 篠田さん:三菱重工のお話は平野さんが管轄されている事業部での取り組みで、一方、NECのお話は社長を含む会社全体での取り組み。巻き込む範囲は異なりますが、組織として抱えていた課題は同じで、「社員の自発性を引き出す難しさ」だと感じました。
そして、その解決のヒントは「トップが社員と対話すること」にあるように思います。2つの企業とも、社長や事業部長との本音の対話、サーベイによる対話…「社員の声を聴く」ためにさまざまな取り組みを実践されている。こういったコミュニケーションの場をつくる中で、少しずつ企業が変わっていったのではないかと捉えています。
――ここまで三菱重工とNEC、それぞれの大企業が抱えていた組織課題への取り組みについて話をお聴きしてきました。後半では、これらの取り組みから見えてきた変化についてレポートしていきます。ぜひこちらもチェックしてください。(後編に続く)
【ご案内】12月14日開催のエールのセミナーでは、本記事で議論された組織課題への取り組みをさらに深掘りするべく、篠田さんが「個の力を引き出す組織づくりと1on1」をテーマに、日本たばこ産業の古川将寛さんと、ヤマハモーターエンジニアリング株式会社の村松浩義さんにお話を伺います。ぜひ、お越しください。録画視聴のお申し込みもお待ちしています。
(=本イベントは終了しました。追ってこちらのnoteにてご報告します!)