“自律的組織”に関する10の課題感とアプローチ事例|櫻井将さんと考える「自律型人材の育成」
今回のテーマは「“自律型人材”の育成」について。
年間1万セッション以上の「1on1」を実施するエールには、社員に当事者意識を持たせたい、社員の個性を活かしたい…など、自律的な組織を目指す上でのさまざまな課題が寄せられます。今回はその一つ、「自律型人材育成のアプローチ」について、エール代表取締役 櫻井将さんと共に考えました。【編集部 奥澤】
※本記事は、2022年1月25日(火)に開催された、エール主催のセミナー「企業変革を進める“自律型人材”育成のコツ」を元に再編集しています。
まとめ
本人の価値観に根付いた、内発的動機で働く人を増やす
今回は、これまでエールに寄せられたたくさんの「組織に関する困りごと」を紹介しながら、僕が考えている解決のヒントをいくつかお話していきたいと思います。「自律的な組織」を目指す方々にとって、自組織の課題感の解像度が上がり、何か一つでも役立つ情報が見つかったら嬉しいなと思っています。
ではまず最初に、これまでの「行動管理型の組織」とこれからの「自律的な組織」について簡単に説明をしたいと思います。
これまで日本企業の多くは、下図の左下にある「行動管理型の組織」でうまく運営されてきました。外発的な動機付けかつ、行動や考え方を管理するマネジメントで業績向上を実現していた形です。
しかし、それがだんだんと難しくなってきた。個人の内発的な動機付けが重視されるようになってきて、同時に行動や考え方ではなく、人の感情や価値観を扱う必要性が高まっていきました。下図の右上にある状態ですね。現在は、本人の価値観に根付いた、内発的な動機で働く人を増やすというのが、世の中の流れとしてあると捉えています。
「自律的組織」を目指す上で、よく耳にする10の課題感
次に、「自律型組織」を目指される企業の人事・組織長からいただく課題について、10個の課題として分類してみました。あわせて、その課題が語られる中でよく出るキーワードも一緒にお伝えします。みなさん、おそらくどれかに当てはまると思います。ご自身の組織の課題感と照らし合わせながら読み進めていただけると、解像度が一歩深まるのでは、と思います。
「自律型組織」に近づくための、アプローチ事例
「自律型人材」「自律的組織」に対する組織の課題感を認識できたところで、課題解決のヒントになるようなアプローチ事例をいくつかご紹介します。
【事例1】
課題:社員の個性を活かしたい
アプローチ方法:社員を属性で見るのではなく、一人ひとりの個性を掘り下げていく
これは、日本の大手メーカーさんから寄せられた課題です。「社員の能力をどのように引き出したらよいのか?」とお話をされていました。従来、会社で扱っていたのは経歴や資格など「これまで何をやってきたのか?」が中心。そこに対して、新たに“個人をもっと深くみていく”取り組みを実施。「Wil」「Can」「Role」の3つのポイントから、これまで会社では扱わなかったような一人ひとりの個性を掘り下げていきました。
【1】Will(「何をやりたいか?」ではなく、「どうありたいか?」を言語化する)
個に向き合うとなると、一般的に「あなたは、何をやりたいんですか?」が問われたりするけど、そうではなく「あなたは、どうありたいんですか?」を問うんです。自分が自然体で最も力が発揮できる状態ですね。それは、何もゆるく楽に働く話ではなく、自分らしくありながら、きちんと組織に貢献できる状態を言語化していきました。
【2】Can(できる/できないだけでなく、できないものを「伸ばす」のか「手放す」のかを明確にする)
一般的に「Can」の話になると、できる/できないの間に線を引くのですが、この企業では、Cannotの中でも、「伸ばすCannot」と「手放すCannot」を考えていきました。「手放すCannot」に関しては、僕は“健全な依存”だと捉えていて、自分ではできないから誰かに頼る。ここが明確になって言語化できると、チームでシェアできるので、すると組織に「助け合い」が生まれていきます。
【3】Role (仕事の役割を「名詞」ではなく、「動詞」でとらえていく)
これまで仕事の役割は、営業・経理・マーケティング…と名詞で捉えられていた。かなり大雑把なくくり方です。でも、「担っている役割」や「発揮されている能力」から考えると全く違った捉え方になります。
たとえば、営業の仕事でも、語る行為が好き、広く集める行為が好き…などいろいろな側面があります。仕事の役割を「動詞」で語れば、自分自身の“好き”が分かり、どういう人間なのか?がよりクリアに見えてきます。
このケースで重視したのは、一人ひとりの社員を「属性」で見るのではなく、「個」として扱う点。これはダイバーシティ&インクルージョンの基であり、タレントマネジメントの基礎情報の1つとなっていきます。最終的にはこれらの個の情報を人事データベースに蓄積し、プロジェクトに応じて適した人材のアサインができる仕組みを構想されていました。
【事例2】
課題:社員に当事者意識を持たせたい/社員に自社で働く意義を感じてほしいアプローチ方法:会社の想いがつまった方針を、各人の業務とつなげるための時間を確保する
次は企業名を出してご紹介しようと思うのですが、自動車メーカー「トヨタ自動車」でお手伝いさせていただいた事例です。トヨタ自動車では、社長の考えや会社の方針は、オウンドメディア『トヨタイムズ』を活用し、上手にメッセージを発信されていました。しかし、現場では受け取り深める時間はとれておらず、経営層と現場で“会社状況への危機感”に温度差が生じてしまっていた…。
解決策のポイントは、会社の想いがつまった方針を各人の業務とつなげていくこと。そこで、「発信された会社の方針」についてエールの社外人材による1on1で話をする取り組みを実施しました。1on1を受ける前に各人に『トヨタイムズ』のコンテンツを見てもらい、1on1では「どう感じたのか?」「自分はどうしたいと思ったのか?」を言葉にしてもらったのです。
1日かけて研修やセミナーを実施するのではなく、定期的にコツコツと一つずつメッセージを見ては対話をする。自分の言葉にしながら、理解し深めていく。そこから、会社の理念・パーパスと自分の重なりが見つけられたり、会社の危機感を自分事にできたり、と社員の変化が見えてきました。
【事例3】
課題:エンゲージメントを向上したい
アプローチ方法:個人の内的変化と仕事を紐づけ、組織の理念・戦略との重なりを増やす
エンゲージメントを高めていくには、「組織と個人の重なり」を増やしていくことがとても重要だと考えています。もう少し言葉を補足すると、個人の内的変化と仕事の紐づけによって、組織の理念・戦略との重なりが増えていく、という考え方です。
図にしてみます。左の黄色い円が「個人の動機」。右のグレーの円が「組織の理念・戦略」を表しています。
昔の企業体制でいうと、黄色の「個人」が、グレーの「組織」に入っていく状態。社員寮があって同じ釜の飯を食う、運動会や飲み会があって…と同じ時間を過ごす体験を重んじていました。しかしながら、今はそういう働き方は望まれていない。
ではどうすればいいのか?
「個人の動機」を強制的にグレーの円によせるのではなく、シンプルに黄色い円を大きくしていけばいいのです。そうすれば、互いの重なりが大きくなる。図でいうと、黄色とグレーの円が重なった赤の部分ですね。
そして、黄色の円を大きくしていく上で重要になってくるのが、一人ひとりの価値観・感情を扱うことなんです。各人の「どんな状態だと楽しく幸せに働けるのか?」に向き合い、言語化していく。「行動・思考の好き」からもう一歩掘り下げて、「その行動・思考に紐づいた価値観や感情」まで触れられると、組織の理念・戦略との重なりがさらに広がっていくと思っています。
これに関しては数値的な結果もあるので紹介します。エールの社外人材による1on1サービスでは、利用者の価値観や感情にふれる話が中心になるのですが、エールを利用したか/利用していないかでエンゲージメントスコアに大きな差が生まれているんです。
中でも面白いと思うのは、「仕事量は適切か」「成果に対する承認はあるか」「挑戦する風土か」などの項目のスコアが大幅にアップしている点。同じ部署での話ですから、実態としてそこまで大きな差があるとは考えにくい。けれど、スコアには明確な差がある。これが、まさに「個人の内的変化と仕事との紐づけによって、組織の理念・戦略との重なりが増える」状態なのだと思います。
ここまで、全部で3つの事例を紹介してきましたが、全てが役立たなくてもいい、自組織と照らし合わせたときに何か1つでもまねできそう、明日からやってみようと思えるものが見つかればいいなと思っています。
今回の気づき・学び
社員の内発的動機を高めたい、当事者意識を持って働いてほしい、エンゲージメントを向上させたい、社員の個性を活かしたい…それぞれの企業から寄せられる悩みの言葉は違っていますが、解決のヒントとして共通しているのは「社員一人ひとりの感情・価値観を扱う取り組み」なのだと感じました。
感情や価値観にふれる丁寧な対話をくり返す。個人を属性で扱うのではなく、「個」として尊重する。それによって、それぞれが心のうちにある「動機」に気づき、少しずつ明確になっていく。そして、「内発的動機」で働ける社員が増えれば、それが自律的組織へとつながっていくのだと理解を深めることができました。
*エールでは3月1日、「組織体質改善へのアプローチ」をテーマにセミナーを開催します。ぜひ、ご参加ください。