ウマ娘から考える馬の福祉
『ウマ娘 プリティーダービー』という、年間1000億円も売り上げる怪物級のソシャゲを知っているだろうか。
そして、現実の競走馬が、毎年、およそ7000頭前後(※2022年の生産頭数は7,782頭)生まれ、そのうち9割が生涯を全うできず、殺処分されるということを知っているだろうか。
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私は、競馬を始めとしたギャンブルに一切興味がない。しかし、ウマ娘級のソシャゲともなると、ゲーマーとしてプレイしておくべきだろうと思った。最初は、「馬の代わりに女の子が走るってなんだよ。キワモノゲームじゃん」などと思っていた、私は……
一時間もプレイするころには、すっかりメロメロになっていた。
ウマ娘はソシャゲの最高峰である。制作陣に実力があって、かつ、このゲームを愛さなければ、いくらお金をかけてもこんなに良いゲームは生まれない。キャラモデル、シナリオ、ゲームシステム、操作性、どれをとってもハイクオリティである。すべてが、『ウマ娘の可愛さを表現する』という目的にむかって爆進した血のにじむような轍の跡が垣間見える。
そこで描かれるストーリーは、可愛らしいウマ娘たちの努力と挫折、そしてはぐくまれる他のウマ娘との友情、絆……そして輝かしい勝利だ。もう年のせいか涙腺が緩く、プレイしながらウマ娘と一緒に滂沱と涙を流してしまう。アニメのサイレンススズカのくだりなんて、涙なしには見られない……
この、ウマ娘の元になっているお馬さんは、どういう生き物なんだろう。私は本を買ったりして調べ始めた。
そして、惚れた。
馬は、可愛い。
私のスマホの待受はメイショウドトウのお尻である。(キャラじゃなくて本物の馬の方)
馬の動画はいくらでも見ていられる。目が大きくて、知的で、優しげである。ゆるくしっぽを揺らしながら草を食んでいる様子など、平和そのものだ。(※ゴールドシップを始め、気性の荒い馬もいることは知っている)
だがその一方、引退馬の現実は厳しい。
レースで活躍する馬も、4歳頃をピークに引退するが、馬の寿命は20~30年もある。しかも食べる量が多いし、健康を維持するため牧草地が必要なので、維持費として年間数百万はかかる。4歳で引退し、その後16年生きるとしても、彼らは生涯を全うするために、何千万ものお金をどこからか調達しなければならない。
もちろん、引退後、運よく乗馬クラブなどの再就職先が見つかることもある。でもそれはほんの一部だ。
結果として競走馬は、人間の都合でより良い遺伝子のため繁殖させられ、仔馬の頃から辛い訓練を受けて、命を懸けて走らされ、使い物にならないとみるや屠殺される現状にある。
馬好きになればなるほど、競馬や、そのために生まれてくる無数の命を思ってしまい、純粋に応援しようという気になれない。
では馬の福祉のために、何が出来るだろう。
もう競馬自体止めてしまえばいいのだろうか。
だが現実的に、競馬業界には大きなお金が絡んでいる。それを手放したくない人は多いし、ホースマン、馬の世話をする厩舎の人たちはこれで食べているのだ。その人たちが露頭に迷うことは避けなければならない。
馬に関わる人たちの多くは、馬が好きだからこそ、その仕事を選んでいる。厩舎で働くのは大変だ。まず肉体労働で朝早いし、出産が深夜に行われることもある。馬は怪我もしやすい。一番、馬と接する彼らは、誰よりも一頭一頭の馬をいつくしみ、幸せを願っているだろう。
けれども、彼らのお給料がどこから支払われているかというと、競馬という、競走馬を過剰に生み出し、使い捨てていく仕組みからである。ここに物凄いジレンマがあると思う。
ネットフリックスで、馬の福祉を考えるドキュメンタリーを見たのだが、インタビューされる彼らの顔つきは一様に暗かった。精神的にも肉体的にも過酷な職業である。馬への愛情があるから保っているのだろう。頭が下がる思いだ。
それに、早く走る、そのためだけに交配を重ねたサラブレッドを、今更野に放つこともできまい。
馬、乳牛、鶏などの家畜は、人間が神を気取って作り出した生き物だ。
それを今度は人間の都合で絶滅させるのか。
いや、それはダメだ。生んだ以上、我々人間は生産者の責任として、使い続けなければならないと思う。
だから、競馬そのものをきっぱりと止めてしまうことは避けるべきだ。競馬を悪しきものとして0か100かで考えるのではなく、より良い方向に行くことを願って、そのために行動していくしかない。
最大限馬の苦痛が少なくなるようルールを作る。馬の生産は、引退馬を引き取って生涯面倒を見れる範囲で行うよう定める。競馬の利益から、年金のような制度を作ってもいい。このような方向で考えていくことができるのではないか。
実際、利益度外視で、引退馬の保護を行うホースマンは居るという。ただ、利益にならないのであれば、長期的に取り組めることではないだろう。資本主義社会の中では、利益を出しつつ、保護の取り組みを行っていくことが重要だ。
昨今、こうした保護の取り組みや、それを求める声は高まっているという。それは、ウマ娘のブームによって、私のように実際の競走馬に目を向ける人々が増えたからだと思う。
私は競馬界がこのようなジレンマを抱えている中で、あえて競馬にお金を出そうとは思わなかった。一頭の馬を応援し、お金を懸けるというのは魅力的だが、過剰な競走馬の生産に利する行為になると思ったからだ。
また、ウマ娘に対し課金することにも、罪悪感がある。これも短期的には馬の福祉に対し害悪である可能性があるからだ。
ただし、こうしてウマ娘がヒットすることで、関心を持つ人が増え、長期的には馬の福祉に寄与する可能性がある。
実際、額は不明だが、Cygames(ウマ娘の製造元)は2022年、引退馬協会への寄付を行った。
彼らが一度きりの寄付にとどまらず、真に馬の幸福を願い、継続的な寄付や引退馬に対する支援を行っていくのであれば、それを支持したいと思うし、ウマ娘に課金するのも頑張ろうと思う(課金を頑張るとは?)。
とはいえ、Cygamesの開発者が馬を好きじゃないなんて信じられない。多分そんなことはない。なぜなら、彼らの作ったゲームをプレイして、私は実際の馬に対しても強い関心を持ったのだ。それは彼らの馬に対する気持ちが、ゲームにもにじみ出ているからだと思う。
折悪しく(良く?)、Cygamesはコナミから特許権侵害で訴訟を受けた。
うん、ウマ娘のシステムが、コナミのパワプロなどのゲームに似ていることは認める。それ以上のことは裁判所で争ってくれ。よしんば負けたところで、40億円ぐらい問題なかろう。差し止め請求は何とか回避して、システムを問題ない形に改修してくれ。がんばれエンジニア。
尻馬に乗るわけではないが、話題になっているタイミングで、以前初稿を書いて放っておいたこちらの記事に日の目を浴びさせようと思った次第である。
馬も人も、幸せである社会。
これを目指すために、まずは引退馬に対する保護を徹底していくことから始める。そういう未来を私は望んでいる。
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