ポケモンの悪質なパロディ『パルワールド』ついに任天堂に訴えられる【ニュース感想】
皆さん、『パルワールド』というPCゲームをご存じでしょうか?
2024年1月18日にポケットペアというインディーゲームスタジオによってSteamでリリースされて以降、全世界で大きな話題を呼び、1日で200万本の販売本数を記録したとも言われる人気のオープンワールド・サバイバルクラフトゲームです。
売上はなんと約700億円に及ぶと推定されるそうです。大変景気が良いですね。
そのコンセプトは、「パルと呼ばれる100種類以上の生物を捕まえたり、戦わせたり、働かせたりしながらサバイバル生活を送る」というもの。
うーん、どこかで聞いたような内容ですね? しかも、このパル。
以下の記事のスクショを見て欲しいのですが……『何か』に似ていませんか?
これって私たちも良く知っている、あのゲームじゃないですか?
そう、『ポケモン』です。
パルのデザインがあまりにもポケモンに似ているということで、比較図を作ってくださる方もいたりして。
上記の画像を見ていただければわかる通り、パルを見ていると『似たようなのがポケモンにいなかったっけ?』という思いが脳裏をチラチラと過ぎります。
むしろ見れば見るほどポケモンです。
しかし、『パルワールド』ではポケモンには存在しない、動物虐待的な要素を取り入れています。
嫌がるパルを奴隷として農作業や工場労働で使ったり、パルを盾にして敵の銃弾にさらしたり、パルに銃器を取り付けて戦わせたりすることが出来ます(開発元いわく、パルに残酷な行為を行うかどうかはプレイヤーの自由。そうしない自由もあるそうです。へぇ~)。
また、腐肉食性のパルによる共食い表現があったりします。
うーん、残酷ですね。
とはいえ、残酷なゲームが悪いと言いたい訳ではありません。
グロやゴア、現実世界では犯罪行為となるような残虐行為が行えることを『自由度が高い』と表現するゲームは数多あり、ゲームだと割り切って楽しむ分には特に問題ないと思います。
でも……それをわざわざポケモン(世界的に愛されている他社の著作物)のデザインを模倣してやりますか?
やりたけりゃ自分の完全オリジナルデザインでいくらでもやれよ。
まあ、本家でも一部のポケモンが食用されているような記述がこっそり図鑑に書かれていたりしましたが、明確な描写はなく、あくまでも「不思議で可愛いお友達」なんですね。
これではまるでポケモンに親しみ、一緒に成長してきたファンの愛着を嘲笑うようです。
ポケモンに興味がない人でも、自分が好きなIP(知的財産≒コンテンツ)でこれをやられていい気はしないでしょう。
例えば、キティちゃんやミッキーやドラえもんもどきが共食いするゲームが出来る。そしてそのクソパクリ作品が約700億円も売り上げ、世界中で大ヒットしている。ファンとしては穏やかな感情ではいられません。
・明らかにポケモンのゲーム性や世界観、デザインを彷彿とさせる
・約700億円という大きな売り上げを得ている
(※二次創作の慣例的許容範囲を超過)
・奴隷、解体、共食い、強制労働など、嘲笑的な改悪を施している
(※本家に対するリスペクトが感じられない)
一つ一つはさておき、三つ重なるとかなり悪質であると感じます。
待望の提訴
私はこのゲームに関するニュースを聞くたびに違和感を覚え、早期の法的対応を待ち望んでいました。
昨年末くらいでしょうか。
最初にこの『パルワールド』を知った時、「はぁ?」と顔をしかめ、なんて下品なんだろうと思いました。しかも、なんと開発元は日本です。こうした悪質な模倣を行うのは中国企業のお家芸だと思っていたのですが、もう古い偏見なのかもしれません。不明を恥じるばかりです。
ポケモンの権利は任天堂に帰属するものです。こんな悪質なパロディで大儲けされて泣き寝入りなんて、天下の任天堂法務部(※訴訟に強いことで有名)の名が廃ります。
ただ、引用したツイートにもある通り、デザインが似ているだけで完全なコピーではないため、明確な著作権侵害には当たるかどうかは微妙なところです。誰がどう見てもパクッてるのですが、デザインの類似によって提訴するのは難しいようです。
だからでしょうが、今回、任天堂は特許権侵害で提訴しました。
全私、「ようやく来た!」と歓喜の声を上げました。
本ゲームを楽しんでいるプレイヤーもいるとは思いますが、せめて権利者である任天堂がどこまでを許可するか、しないか明確にして欲しいです。こんなもん許してたら何でもありになっちゃうでしょ。
開発元の対応は?
さて、提訴されたポケットペアがこの記事を書いている(2024年9月21日)時点でどう反応しているかというと。
公式サイトに声明が出ているので、引用します
この声明文も香ばしいですね。
つまり、「日本人だよ」「これは大企業からのイジメだよ」「大目に見てね」と言いたいのでしょうか。
一本のゲームに開発費10億円をかけ、約700億円売り上げている小規模なインディーゲーム開発会社ですか。小規模とは、人員の話ですか? 人件費がかさまない分、利益が大きくなってより幸せそうですね。
ああ、インディーゲーム開発者をこの問題に巻き込まないで欲しい。インディーゲーム開発者がみんなこんなに良識に欠ける模倣行為を行っている訳ではありません。
そもそも模倣自体が悪い訳ではない
ゲームに限らず、アニメ、漫画、ドラマ、映画など、ほとんどの文化的なコンテンツは何かが流行ればそれに類似した作品が大量に作られます。先人から学ぶのは人間の大きな強みであり、それが豊かな文化を牽引する側面があります。
ゲームの文化においても先行作品の模倣はしばしば行われています。
例えば「ローグライク/ローグライト」と呼ばれるゲームジャンルは、1980年頃に発表された『Rogue』と呼ばれるゲームに似た要素を持つゲームジャンルです。
『ドラクエビルダーズ』は『マインクラフト』のヒットの影響を受けていると思われますし、そもそもマインクラフト自体も『Infiniminer』という古いゲームの影響を受けていると思われます。
ポケモンの「モンスターを捕まえて仲間にする」コンセプトも、『ドラゴンクエストV』の方が先であり、(ポケモンが影響を受けたかどうかは分かりませんが)完全に新規性があるとも言えません。
こんな調子でゲーム界隈の模倣は枚挙にいとまがありませんが、インディーゲームにおいてはさらに緩く模倣の波が行きかうものです。
例えば、少し前に『8番出口』という脱出ゲームとも謎解きゲームともつかないゲームが流行りました。すると、途端に教室やエレベーターやN番出口から脱出する『8番出口』ライクなゲームが数十本公開されました。
もはやこうなると二次創作に近いです。こうことが起きるのは「面白がって」「今出せば売れるから」「求められているから」という理由があるでしょう。フォロワーゲームが遊ばれれば、結局元のゲームも遊ばれるので相互に利益がある側面があると思います。
ただ、今回の『パルワールド』に限っては、ポケモンという巨大IPに乗っかって一方的に巨大な利益を享受しているように見える点が非常に問題であると感じます。
「ポケモンをパクっていない」という反論は出来ないはずです。ポケモンが無い世界にこのゲームが生まれて来たかと言うと、否でしょう。そもそも、社名の「ポケットペア」って(笑)。『クラフトピア』(同社の前作)からこの展開を見据えていたのでしょうか?
二次創作もゲーム実況も厳密には著作権侵害に当たりますが、あくまで元の作品に対するリスペクトの上に成り立つファン活動の一環と見られるため、著作権者が多目に見ている背景があります。
他人の著作物のイメージを利用して商業的に大きな成功を得ている上に、ポケモンが持っているイメージを毀損するような改悪を施す。オリジナルに唾を吐くような行為です。
これを「自由な発想」とは面白いですね。インディーゲームだから何をやってもいいわけじゃないでしょう。そもそもインディーズの商業規模じゃないんだし。
最後に
そんなわけで、『パルワールド』は以下三点の相乗効果により一線を超えていると感じます。
・明らかにポケモンのゲーム性や世界観、デザインを彷彿とさせる
・約700億円という大きな売り上げを得ている
・奴隷、解体、共食い、強制労働など、嘲笑的な改悪を施している
※あくまでも、模倣やそれに伴う商業的な成功の全てを否定するわけではありません。インディーゲームの開発者や二次創作、ゲーム実況を否定するわけではありません。
これらの問題は発売当初からあったのですが、提訴に至ったのは、引用した記事にもあるように、パルワールド自体がIP展開(つまりグッズ展開、アニメ化、漫画化、ソシャゲへの横展開など)を行おうとしたことがきっかけではないか? と言われているようです。
ポケモンのアニメが流れている裏で、ポケモンみたいな生き物が残酷に解体されてるアニメが流れるんですか? それって……悪夢ですね。
この後どういう流れを経るか分かりませんが、とにかく野放しになっている状況が改善されそうで安心しました。
任天堂が人々に愛されているIPをこれからもしっかりと守っていってくれることを願います。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
以下は蛇足です。
本編に入りきらない苛立ち:そもそもこの記事。前作クラフトピアが100万本以上売れたのに対し、パルワールドが1日で200万本以上も売れた理由が「私がウェブ業界出身だったことが大きい」って何なの。
パルワールド自体がゲームとして優れていて開発者に実力があることは確かなんだろう(そうじゃないとこんなに高評価が取れない。PCゲームの世界はそんなに甘くない)が、売れた要因として大きいのは、ポケモンを使って話題作ったからでしょう。
今回の任天堂の提訴によってさらに話題性が出て知名度を上げるであろうことに忸怩たるものを感じる。提訴の行方がどうなろうと、収支としてはポケットペアの勝ち逃げで終わるだろう。しかし、私自身ははポケットペアのゲームを一生購入しないと誓う。