【マンガ感想】怪奇ブロマンスという新たなジャンル|光が死んだ夏
日本では、夏といえばホラーだ。蒸し暑い中、心胆寒からしめる怪談で涼を取る。しかし最近は冷房の効いた部屋にいれば済むこと、ホラーなど不要なのだろうか。いや、そんなはずはない。肌までべたつくような日本の夏には、じっとりとしたホラーこそ調和する。
「光が死んだ夏」は夏の閉鎖的な田舎を舞台にしたジャパニーズホラーをベースに展開されるブロマンスだ。
宝島社が刊行する『このマンガがすごい!2023』にてオトコ編の1位を獲得したことで話題になったので、ご存知の方も多いとは思う。
このマンガの魅力の1つに、繊細な筆致で描かれる美しい絵がある。カラーイラストになると、すさまじい色使いのセンスが発揮されていてさらに素晴らしい。イラスト展があるなら必ず行きたいと思ってしまうぐらい、見る人を引き込む魅力がある。
この作品では、化け物となった光とよしきという二人の少年の心情や関係性を丁寧に描写しながら、彼らを取り巻く謎や田舎特有の伝奇的なホラー展開をストーリーの主軸に置いている。
よしき
よしきと光は他に年齢の近い存在がいない中、幼馴染としてかけがえのない関係を築いていた。特によしきにとっての光は、単なる幼馴染を超えた、閉塞的な田舎でたった一つ光り輝く綺羅星のごとき存在であることが描写から伝わってくる。
その光が死んで、化け物にとって代わられた光を前にした時、よしきは化け物を怖がるよりも何よりも、光という唯一の希望が失われたことに涙し、絶望した。そして、形だけは元のままである光を諦めと共に受け入れたのだ。
その暗澹とした絶望と、それでも生きていかなければならないという惨さが、作品を通してよしきを覆っている。
化け物になった光は、彼に残された希望の残滓めいたナニカだ。もし、化け物となった光までもが消えたら、彼は自死を選ぶのではないかと思う。
光
生前の光はよしきの気持ちに気づいていたフシがあるが、あくまで一定の距離を置いて付き合っていたようだ。
成り代わった後の光は、生まれたてのヒナのようによしきを慕う。慕いながら化け物であるが故に、数々の忌まわしい出来事を引き起こす。それでも「よしきのことが好き。必ず守る」という強い意識を持って行動しているから、よしきに対する言動はいたいけで献身的なフシさえある。
でも化け物だから正体に気づいた人間を殺すのに躊躇はない。このアンビバレンツな人格の危うさに面白みを感じる。
光に成り代わった化け物が山から下りて来た影響なのか、様々な怪異がよしきやその周りを襲う。この語り口が素晴らしい。
日本の田舎、夏。
極端に描写される激しいセミやカエルの声。田舎に行くと、それらの大合唱で他に何も聞こえないぐらいになる経験は誰にでもあるだろう。物語を追ううち、読者の経験を元にうるさく響いていたその音は、怪異が現れる時、一斉に止まる。
この演出が、ホラー映画を見ているようでクセになる。
やっぱり日本の田舎の夏が持つ独特の雰囲気は得難い。少し角を曲がると、神隠しや怪異が飛び出してきそうな感じがあるのだ。
マンガを読んでいるのに、行間を読む余地があって、マンガで描かれる以上のものが脳内で再生される秀逸な作品だと思った。
2023年6月現在、3巻まで出ているが、今後も続巻を追っていきたいと思う。
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