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深夜のエスコート猫【私と黒猫2】

ある夜、私は深夜の住宅街を徘徊していた。

夜な夜な遊び歩いて放蕩の限りを尽くし、疲れ果てて徘徊していた――訳ではない。

むしろ私は当時、仕事に狂っていた。
長時間勤務、残業上等、会社を出たのは一時過ぎ。

肉体的、精神的にハードな仕事のせいで半ば自暴自棄になった私は、最寄り駅の二駅前で終電だと駅を追い出され、徒歩で自宅に向かっていた。

深夜や早朝、嵐の日。

私は人のいない町が好きだ。誰にも見られていないと、自分が本当に自由で、安全で、快適に感じる。

その日歩いていた薄暗い住宅街にも人の気配は無く、疲れはさておき私の機嫌は上向いていた。

そこに響く「みゃあみゃあ」高い声。

Googleマップを見ながらちんたら歩いていた私が顔を上げて辺りを見渡すと、塀の上に毛並みの良い黒猫がうずくまり、好奇心いっぱいの目で私を見下ろしていた。

私は猫と数秒見つめ合い、目をこすった。

なぜこんなところに猫が?

思ったが、やたらと毛並みの良い猫なので、もしかしたら迷い猫かもしれない。野良猫は警戒心が強いから鳴いて来ない気がするし。

後で迷い猫掲示板に書きに行こうかな、などと思いつつ、私は猫を通り過ぎて歩みを再開した。

しばらくあるくと、「みゃーお」とまた可愛い鳴き声がする。

別の猫? と思い見上げると、先ほどの猫がまた塀の上で見ていた。

見上げながら歩いてみると、猫はトトトと塀の上で追いかけてくる。私が立ち止まるとぴたりと止まり、お行儀良く塀の上に座った。

私は混乱した。

二十数年生きてきて、猫について来られた経験は初めてである。しかもこんな真夜中に。

この猫の意図はなんだろう? お腹がすいてるのか、それとも迷い猫で困っているのか?

威嚇している感じではないので、単に興味があるだけなのかもしれない。

私はカバンの中に猫のエサになりそうなものが無いか探したが、何も無かった。役に立たないカバンである。

私がそっと近づくと、猫は逃げるわけでもない。恐る恐る手を伸ばすと、猫は頭を下げて撫でさせてくれた。それはふわふわで、さらさらで、温かく、まさに至福の感触である。猫は嬉しそうに「みゃ、みゃ」と鳴いた。

天使かな?

溜まったストレスが浄化されていくのを感じる。

機嫌が良くなった私は、猫をお供にまた歩き出した。彼(彼女?)はみゃーみゃー鳴きながらついてくる。私も猫を見上げ、「良い子だねー」とか「にゃー」とか適当なことを喋りながら歩いた。

思いもがけない深夜のお散歩である。

このまま家までついてきたらどうしよう? と一抹の不安を覚えたが、そうしたら実家に連れて行って飼ってもらうのもいいかもなーなどとちょっとした夢を抱いた。

これだけ人懐っこくて毛並みが良いので、家猫の可能性が高そうだから、いずれにせよ難しそうだけれども。

そうやって歩いて、大通りまで出ると、いつの間にか猫の姿は消えていた。振り返っても、夜の闇に紛れて黒猫の姿は見当たらない。

猫の意図は最後までよく分からなかったが、結果的に振り返ると、なんだか夜道をエスコートしてもらったみたいになっちゃった。

「ありがとうね、猫ちゃん」

私は前回言った通り黒猫に思い入れがあり、少しの間一緒に歩けたことで胸が暖かい。

少し歩いてもう一度振り向いたが、やっぱり猫の姿は見えない。それでも帰路の間ずっと、胸が弾んだ。

後日振り返り、うーん、そうだな、正直、これは不思議な出来事と捉えることもできるかもしれない。前の記事で書いた「くろちゃん」が生まれ変わり、私を心配してついてきてくれたんだ、とか。

あるいは仕事に疲れすぎて幻覚を見たとか。

たまたま近所の黒猫が家出していて、助けを求めていたのかも、とか。

実際何が起きていたのかはよく分からないので、なんとでも捉えられるものの、私としては、前述の「くろちゃん」のことを思い出して良い気分になり、そう、とても嬉しい、良い出来事だったと感じている。

何にせよ、それだけで十分だった。これは私と黒猫のご縁の思い出であり、それが何であれ、幸せだったのだから。


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YeKu@エッセイとか書いてる
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