「これ {が・は} 俺からの挨拶だ」
始めるのが激遅だった書類書きに1日を捧げていますがこちらの日記も忘れずに。
突然のビンタからの一言
プロレスの記者会見で宮原健斗選手が中嶋勝彦に不意打ちのビンタをしました。そして一言,何と言ったでしょうか。聞いてみてください(0:20ぐらいでビンタです)。
公式Twitterでは「これが俺からの挨拶だ」と書かれています。でも,たぶん「これは俺からの挨拶だ」と言ってます。
これは音声を聞いてそう判断したのもありますし,もともとツイートを見たときに「が?」となったので気になって動画再生したということもあります。では何が引っかかりだったのか。これを知るには「は」と「が」の使い分けを知ることが必要です。
「は」と「が」
「は」と「が」の使い分けには多くの研究がありますが,まとめたものとして野田尚史『「は」と「が」』があります。
これによると「は」と「が」の使い分けで特に重要と思われる原理が5つ取りあげられていますが。そのうち関わりそうなもの2つを紹介します。
1. 新情報と旧情報
「は」はすでに知られている旧情報に付き,「が」はまだ知られていない新情報に付きます。
私は山田と申します。総務課の佐々木さんをお願いしたいのですが。
私が総務の佐々木です。今日はわざわざありがとうございます。
来訪者はもうすでにそこにいるので旧情報になります。なので名乗るときは通常「は」を使い,「山田」と名乗ります。それに対して,「佐々木」という名前は知られている(=旧情報)けど,目の前に現れた人が誰だかは分からない新情報になるので佐々木さんが名乗るときは「私が」になります。
「これ {が・は} 俺からの挨拶だ」だと,「これが」だと「これ」は新情報となります。「これ」は「ビンタ」ですから,すでに知られているはずの情報です。それを考えると合わなくなります。
2. 現象文と判断文
「が」は現象をありのまま写した文で使われるのに対して,「は」は「は」の付いたものに対して,その後で判断を下す場合に付きます。
雨が降ってます
それは毒だ
「雨が降ってます」は目の前のものをそのまま記述しています。それに対して,「それは毒だ」は「それ」が何なのかを「は」の後ろで「毒だ」と評価しています。
「これ {が・は} 俺からの挨拶だ」だと,なぜ突然宮原選手がビンタをしたのかという謎に対して「挨拶だ」と評価しているのでマッチします。
おわりに
このように,新情報・旧情報,現象文・判断文という考え方を使うことで,「は」と「が」の本当にちょっとした引っかかりが解決できました。ちなみに「は」と「が」の話は拙著『ようこそ! ことばの実験室(コトラボ)へ!』でも紹介していますので,もしよければぜひ…