『八本脚の蝶』をゆっくり読む - 5



2001年6月21日

「なにがあるのかについて」は上記論文集の内の、ひとつの論文のタイトルらしい。日記のどこかにあったはずだが、奥歯さんはどこかの哲学科を出ていたはずで、日常的にこのような本や論文を読んでいたのだろう。
 この論文集を買って読んでみようかなと思ったところ、Amazon の在庫が切れていた。ああそういえばと、 Amazon では今食料などの日用品の準備に重点を置くために、それ以外の在庫補充を遅れさせているというのを聞いたのを思い出した。Amazon は本を必需品とは考えないんだなあとぼんやりと思ったりした。


日記の中にはよく家族との一場面が記されており、この日が最初の登場になった。家族のことに関する文章からは、なんとなく強い暖かさを感じる。何気ない一場面であるのだが、それをとても大事なものにしていたような気がする。


日記の最後に「分析哲学的なアプローチ」という言葉が出てくる。ひとまず Wikipedia で分析哲学を読んでみる。彼女の日記に出てくる本の中でも印象的な『論理哲学論考』の著者であるヴィトゲンシュタインが関わっていることが分かる。しかし分析哲学というのが何なのかはよく分からない。

よく分からなかったので、すぐに読めるような記事か何かが無いかと探してみると、名古屋大学の久木田水生という方が分析哲学の歴史についての講義ノートを公開していた。最初の方に目を通してみると良さそうだったので通読する。

(上記リンク先の『分析哲学の歴史(1)』というリンクより pdf が入手可能になっている)

読み通してみたところ、この資料は(このような表現は失礼かもしれないが)Wikipedia で書かれていることをより詳細にしたような内容で、とてもわかりやすいものだった。記号論理や『ゲーデル不完全性定理』については学ぶ機会があり、また『論理哲学論考』は実際に読んでいたので、断片的には知識があった。このあたりのバラバラだった知識が分析哲学という一つの歴史において結びついているとは全く考えていなかったので、個人的にはとても良い資料だった。


本題に戻り「分析哲学的アプローチ」とは何かを考える。奥歯さんは、もうひとつのフライパンを買うということを、「問題を解決するのではなくて解消するという、優れて分析哲学的なアプローチ」と評価している。

まず「解決」と「解消」の違いを明らかにしたい。思ったよりも難しい。まず今回の日記では、フライパンを使った料理をする時に妹と時間が重なった場合にどちらが使うか、というような問題が起きている。
 この問題を「解決」しようとした場合は、フライパンを使う順番をじゃんけんで決めるなどが考えられる。つまり、ある問題が起こった時にそれにどう対応するかを決めておくことが「解決」手段であると考えられそうだ。
 一方で、この問題を「解消」しようとした場合は、日記にあるようにフライパンをもう一つ買うという方法がある。これはつまり、問題そのものが起こらないように対処することが、「解消」手段と言えそうだと考えられる。ではその問題が起こらないようにすることを指して何故「分析哲学的」という言葉を使ったのだろうか。
 上記で紹介した『分析哲学の歴史(1)』では以下のように分析という言葉の意味を考察している。

以上から,「分析(analysis)」という言葉は,少なくとも以下のような方法を意味していると考えることが できる.
1. ある複合的な対象を構成するより単純な要素が何であるか,それらがその対象の中でどのように組み合 わされているかを明らかにする.
2. ある事柄を成り立たせている要因や原理,基盤を明らかにする.
3. ある対象の性質や関係を,より理解しやすく扱いやすい対象の性質や関係に還元する.

- 分析哲学の歴史 (1) 1 哲学における分析 PDF P.3

この中で特に2の「ある事柄を成り立たせている要因や原理,基盤を明らかにする」というのが今回の話にあてはまりそうだ。上記の2における「ある事柄」であるところの問題(※フライパンを使った料理をする時に妹と時間が重なった場合にどちらが使うか)というものの要因(※フラインパンがひとつしかない)を明らかにし、それに対してアプローチをした(※フライパンをもう一つ買う)。『論理哲学論考』について奥歯さんが書く文章から、普段からこのような手続きを用いて哲学的な問題を明らかにしようとしていた可能性が高い。そのため、それと似た方法で問題を解消しようとした母のアプローチに思うところがあり、「分析哲学的なアプローチ」という言葉を使ったのかもしれない。

想像なので合っているかは分からないが。


これは日記とは全く関係の無い話だが、『』というのは大抵の場合本などのタイトルに使われる記号であるが、「」という記号はあまりにも多くの役割がありなかなか厄介に感じる。今回の日記ではこれを論文のタイトルを表すために利用しているが、一目でそれと判断するのは難しかった。自分は note の記事では引用の意味で「」を使っている。
 記号をどのような意味で使うのかは人の勝手だ。しかし、相手に読んでもらう文章では、多くの人が使っているような意味を意識して調べて使うことができると、より読者に親切な文章が書ける。せっかく note という人に読んでもらうことを前提としているサービスで文章を書いている以上、意識しておきたい。


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