『八本脚の蝶』をゆっくり読む - 8
2001年6月24日(日)
この日は都議会議員選挙が行われていたらしい。奥歯さんが行ったのはこれだと思われる。髪を染めたのは、たまたまこの日に髪を染めただけなのか、もしくは投票という場に対して相応しいと考える髪の色にするべく髪を染めたのだろうか。選挙については当然詳しくは書かれていないが、髪を染めるという行為によって選挙への意気込みを感じる一文になっている。
奥歯さんは非常に幼い頃から本を読み続け、その頃の本の世界への強い没入感を日記のどこかで書いていたと思う。そういった頃と比べて、大人になるにつれて、その感覚を経験する頻度が減っていることの悲しさを感じる。また、自殺が近づいてきた頃の日記の中でも、楽しい夢から醒めて現実世界に戻ることの辛さや恐怖感を語っていることもあった。眠る時に見る楽しい夢の世界と、その世界へ没入できる本を読んでいる時の世界での、その時の恍惚感というのは非常に似ているのかもしれない。
丁度今読んでいた『看護のための精神医学』という本の中で知ったことだが、うつ病を患ってしまった人が自死を選択してしまう原因の一つに、楽しい夢から醒め現実に戻った時の落胆がある可能性があるらしい。奥歯さんがうつ病だったかどうかの根拠は無いためたんなる一般的な話になるが、現実への強い恐怖などを感じている人にとって、楽しい夢から醒めた時の絶望感というのは普通の人には想像もできないものがあると感じる。
そういったことを考えてみると、自分が大人になるにつれて没入できる本が少なくなることに対する悲しみと、奥歯さんが感じていたものの間には質の違いがあったように思える。自分の場合は、そういった悲しみを感じつつも、大人になるってそういうことだし仕方がないなというような折り合いを付けれてしまうのだが、奥歯さんにとっては、そのことに対する強い恐怖が共なっていたのではないかと感じる。
最初この30分の1という数字を、30冊に1冊という意味で考えていたが、これは30日に1日という意味だ。奥歯さんは多い日は8冊を越える数を読んでいることもあったようなので、本の冊数で考えれば100冊に1冊とかそういった次元になっているかもしれない。そんな量の本を読む彼女が「夢から醒めたような気持ちになる本」として挙げているのは以下の3冊。単に直近にそれを感じた本の名前として挙げられているだけなので、彼女が読書した本の中で特にという意味でなかったと思うが、読んでいる本の量から出てきた名前としてはとても興味が出てくる。以下の3冊は読んだことが無いので近い内に読もうと思う。
全く知らない単語だったが、調べてみるとボルヘスやマルケスの名前が出てくる。あの雰囲気の本たちの世界は、自身がいる世界と基本的には同じ作りでありながらもいくつかの不思議な何かが共存していることが多く、まさに「日常にあるものが日常にないものと融合した作品」(上記wikiより)だということが分かる。そういった本の世界は夢に見る世界やもう一つの世界のように感じるため、本の世界に浸れることが多いように思う。「読み終えた時に夢から醒めたような気持ち」になれる本という話の中で、このマジックリアリズムという言葉が出てきたことに納得ができた。
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