あえて、起業家がマーケティングを理解するべき理由
マーケティングは広告や宣伝だけではない
マーケティングと聞いて、どんなことを思い浮かべるでしょう?
それは「Webマーケティング」かもしれません。あるいは、広告や広報全般のことかもしれません。ダイレクトマーケティング、SNSマーケティング、ポストモダンマーケティング、One to Oneマーケティング、BtoBマーケティングなど、山のように世に出ては消えていく「ナントカ マーケティング」のどれかを思い出したかもしれません。
昔、団塊の世代やその少しあとの世代のビジネスマンにマーケティングとは?と聞くと、マスマーケティング、あるいは市場調査(マーケティングリサーチ)を口にする人も多かったようです。
実際のところ、マーケティングについては、人によって解釈が異なるケースが多いのです。ただ、一つ言えることは、「広告」や、顧客とのコミュニケーションのことだという理解が多数派だということです。これは全く間違いではありません。
しかし。
2024年、日本マーケティング協会が34年ぶりに、マーケティングの定義を更新したと発表しました。それによると、マーケティングとは以下の定義に基づくことになります。
少なくとも広告や広報、顧客とのコミュニケーションと言った、一般的なイメージとは大きく異なるのだろうということはわかります。ただ、正直なところ、「マーケティングとはなにか」と質問して、この文章が回答として返ってきたら戸惑うのではないでしょうか?
え? どういうこと?
そこで、「近代マーケティングの父」、「マーケティングの神様」とも呼ばれるアメリカの経営学者、フィリップ・コトラーに頼ることにします。
これをもっと端的に言うと「売れる仕組みづくり=マーケティング」だといえるわけです。
価値ある商品、サービスを生み出し、それが顧客のニーズと欲求を満たす。すると、商品やサービスが売れる。その利益でさらなる商品やサービスが生まれていく。それが顧客の新たなニーズ、欲求を満たしていく。このサイクルが「マーケティング」なのです。
起業そのものがマーケティングである
高度経済成長期、どんどん人口が増え、つまり市場が拡大し続けていた時代。ものは作れば売れていきました。その頃、よく聞かれたのが「いいものを作れば売れる」です。これはいいものを実直に作っていれば、何もしなくてもいつか市場は、顧客を理解してくれる、見つけてくれるという考え方です。
ところが、80年代あたりからこの雰囲気が変わってきます。当時は「飽食の時代」と言われていました。ものは足りているのです。黙っていては、ものは売れなくなってきました。ここで活躍したのが「広告」です。中でも、「マスマーケティング」と呼ばれるものです。テレビ、新聞、ラジオ、雑誌の4大メディアを使ったマス広告で認知度を上げること。これがものを売るための大きな手段になりました。そこから広告媒体が拡大し、インターネットの普及で大きく環境が変わりました。
いま、ものを販売する主要な場所はインターネット上に移行しつつあります。顧客とのコミュニケーションの場もインターネットが主戦場になってきています。ですから、マーケティングとは?と聞かれて、Webマーケティング、SEOやリスティング広告、XやFacebook、YouTube広告を連想することそのものは、当然なのです。
しかし、フィリップ・コトラーの言葉を借りると「マーケティングとは、「宣伝して販売する」という古い意味ではなく、顧客のニーズを満足させるという新しい意味によって捉えられるべきである」のです。
実際に、マーケティングを学ぶと必ず通る道があります。もしもマーケティングを学んで次の言葉を聞いたことがなければ、それは学ぶ場所を間違えたと言っても過言ではありません。
マーケティングの4P
これがマーケティングを支える4つの基本要素です。
売る商品、サービスはなにか。
いくらで販売するのか。
どうやって顧客とコミュニケーションを取るのか。
どこで販売するのか。
いわゆる一般的なマーケティングのイメージは、3つ目の「Promotion(プロモーション)」だけを指していることになります。
注目するべきは、起業家が考えることがすべてこの4つのPに入っているという点です。
多くの起業家は、社会課題の解決を意識しているでしょう。
困っている人にその課題を解決するような製品やサービスを提供したい。
この思いは、まさに「Product(製品)」を考えることそのものです。そしてそこで考えた製品サービスをいくらで売るのか、どこで売るのかも、起業家が考える重要なことです。
まさにマーケティングとは、ビジネスそのもの と言ってもいいのです。
えてして起業家は使命感を中心に思考しがちです。
「こんなことで困っている人に、こんな商品を提供すればきっと売れる」
ここにマーケティングの思考を導入してみましょう。
いくらで売るべきなのか。
どこで売るべきなのか。
どうやってコミュニケーションを取るのか。
これらはすべてつながっています。
ただ、課題解決ができる製品やサービスを作るだけでは、社会は変わらない。
起業家は、自分のアイデアに誇りを持っているのです。
そのアイデアはきっと素晴らしいものなのです。
しかし、それだけでは、マーケティング、「売れる仕組み」の一部だけなのです。
きちんとマーケティングを理解することは、起業家として足を踏み出していくために不可欠なことだと思っています。
次回以降、もっと、起業家のためのマーケティングについて、掘り下げていくことにします。