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ワタシが中小企業の財務戦略づくりを支援する理由

2018年の夏、私はインドの郊外にある倉庫にいました。木材がうず高く積まれた、空調のない倉庫。室内の温度は40度を超え、手渡されたペットボトルの水も、すぐにぬるくなってしまうような暑さ。インド人に囲まれ、ワイシャツにしみる汗を拭いながら、倉庫を視察していました。

私はその時、とある日本の金融機関の社員。
インドの成長企業を見つけて、成長資金を出資するビジネスをしていました。

たくさんある投資先候補の中から見つけたその会社は、インドの経済成長とともに成長することが確実だと思われた、物流用の資材を提供する会社です。

当時、社内で最も人気の高かった、海外投資部門に異動希望を出し、狭き門をくぐり抜けてから、もう5年が経過していました。

元々は、経理部にいたんです。でも、毎日机に座って、事務作業をしていることに耐えられなくなりつつありました。

決算書を作る仕事より、決算書や会計知識を使う仕事がしたかったのです。投資のことはよく知らなかったのですが、まずは飛び込んで見る、というのが私の流儀。何度か痛い目に会いましたけど・・・。

外から見る華やかなイメージとは裏腹に、新興国での投資は想定外の連続でした。予期せぬトラブルの連発と、部署全体が試行錯誤してきた5年間。

今度こそ、自分たちの足で稼いだチャンスをモノにして、新興国の成長に寄与するというミッションを達成したい。そのために、足を運んで資材倉庫を見に来たのです。

率直な感想は、ただの木材をネジで止めたパレット。日本のホームセンターでも売っているような木材で組んだ物流用のパレットが、ドン・キホーテみたいにうず高く、トコロ狭しと積みあげられています。

フォークリフトでモノが運べるようにする物流パレット

資料で想像していたより、ずっと地味だし、ITを使ってすべての資材の場所を管理しているというのも、マユツバか・・・。

しかしそこで、同社の創業社長の話を聞いて、私は人生が変わるほどの衝撃を受けたのです。

「物流では荷物を運びやすくするため、パレットの上に荷物を載せなければならない。これは万国共通で、インドにもグローバル企業が進出してきた。

ところが、グローバルの常識はインドでは通用しない。プラスチックは高くて使えないし、木材は湿気でボロボロになってしまう。定期的なメンテナンスが必要だが、そんなことはユーザーである物流会社にとってはノンコアで、面倒くさくてしょうがない。

だから物流倉庫が集まるところに、自社の倉庫を作り、すぐにパレットを入れ替えられるようなパレットのレンタルビジネスが不可欠なのだと。

私は現地社員1号。現地の事情をいくら話しても、数年で本国に帰るグローバル企業の社員は耳を貸さない。そこで私は自分の会社を立ち上げ、物流企業をひとつずつ口説き、会社をここまで育ててきた。

パレットのことなら誰よりも詳しい。誰にも負けない。パレットがインドの成長を支えるのだ。

いやいや、なんの変哲もなく、DIYでもできそうな木材のパレットなんですよ。すごく地味で、手間のかかるビジネスです。

でも、その創業社長の情熱に圧倒されてしまったのです。インドを支えるには物流が大切。物流の発展にパレットは欠かせない。パレットの在庫管理、メンテナンス、いかに適切なタイミングで供給できるか。木材の発注網、加工業者。営業や業務、倉庫管理の社員教育。全部自分が作り上げてきたのだと。

扱っているものがどうこうじゃない。自分が何に意義を感じ、何にエネルギーを注ぐのか。

私は、この社長のビジネスに賭ける情熱にほだされたように、詳細調査を進めていきました。とはいえ、インドではニッチなビジネスで、業界に詳しい専門家もいません。結局、コンサル(名前は伏せますがグローバル系)からまともなレポートが出てこなくて、全部私がシナリオを作り、それをサポートする資料を指示して集めてもらいました。

いよいよ!というところで、同社の決算書から、グレーな取引が見つかりました・・・。新興国ではよくあることで、同国では特に問題はなのですが、これで散々煮え湯を飲まされてきた当部門にとっては頭の痛い問題です。議論を重ねた結果、投資を見送ることにしました。

その後もインドの壁は厚く、いくつか成長企業が見つかりましたが、投資に至らないまま、新型コロナがインドを席巻し、渡航自体が不可能になってしまいました。

海外に行けないどころか、家からも出られない。2020年の春からずっと在宅勤務です。

あのパレットの会社のことは、何度も思い出しました。
あの、仕事に賭ける創業社長の情熱が忘れられなかったのです。

昔の私は、経理や会計の仕事なんて全然面白いと思えなかったのです。仕事だからやって来たし、社内でも評価されてきましたが、自分ではちっとも面白くないんですよ。

もっと、大きい仕事がしたいと思って、異動希望を出したのです。

でも、違ったんですよね。
つまらない舞台があるのではなく、つまらない役者がいるだけ

目の前の仕事の意義を突き詰めて、自分のモノにするという気概が無ければ、どんな仕事だって、やらされ仕事なんですよ。

コロナで在宅勤務をしながら、そんなことを考えていたのです。とはいえ、給料はそこそこもらえるし、おかげさまで周りからも頼られ、評価していただくことが増えていたので、このまま我慢していれば、やがて昇格して、また給料も上がって・・・。

あれ?
このままだと、今までと同じじゃない?

そして2020年9月、45歳の誕生日を期に、私は決断をしました。

20年近く勤務した大手金融機関を退職し、中小企業の経営支援をする会社へ転職したのです。自分が培ってきた、会計と成長戦略を結びつけた、経営計画作りと、その実践支援をすることにしたのです。

本当にやってみたいことを軸に、仕事を選んでみよう。
あとで後悔しないように。

おかげさまで、好きではなくてもしっかり取り組んだ会計の知識をベースに、投資業務で培った会社の見立て、成長戦略の立て方などがすべて絡み合いました。コンサル部門の責任者として、大小60社ぐらいの顧問先をフォローすることになりましたが、スムーズに業務に入ることができました。

転職するときは本当に不安でしたが、結果としては大吉でした。
人間関係にも恵まれた良い社風で、暖かく迎えていただき、毎日仕事のやりがいを感じながら過ごす日々が始まったのです。

中小企業支援で目にしたものは、過度な分業です。
税金の話、融資の話、補助金の話。本当は一体で考えなければならない財務の話は、バラバラに論じられ、全体を取り持つのは経営者にゆだねられます。ところがその方法は論じられることはなく、その責任の重大さを説明する人もいません。

専門領域を持ち、そこで膨大な業務を抱える士業の先生ではカバーしきれない課題が、ここにあるのです。

私なら解決できる。今までの経験を生かして、他の人にはできないことをやってみよう、と思い立ち、独立起業することにしました。

私は、中小企業を成長軌道に乗せるための経営計画を、経営者と一緒に作り、その実践を支援します。ただの計画ではなく、足元の経営状況を踏まえた成長ストーリーの立案と、組織でその実行を分業するための設計図としての経営計画。今までの長い道のりは、まさにここにつながっていたのだと思います。

ちなみに・・・

投資ができず、日の目を見なかった、パレット会社の成長性を調査したコンサルレポート。あの資料はその後、パレットビジネスの将来性に目をつけた現地の投資機関がそのまま買いました。そのとき私がやりとりしていたコンサル会社のマネージャーは、その功績が評価されて昇格してました。イヤイヤそれは私が・・・笑。

インドで投資はできなかったですが、事業の見立ては正しかった。これも、新しい環境に飛び込む勇気になりました。その頃には、インド以外の投資先への成長戦略の見立てもご好評いただくことが多く、海外へ出たことも無駄ではなかったのだと思います。

いくつになっても、仕事に意義を感じて毎日を過ごしたい。
そう思うのなら、仕事のやり方を変えてみる。環境を変えてみる。
すごく怖いし、今の環境を捨てるのは勇気の要ることですけど、最後は、どちらを優先するか。もう、踏み出すしか無いんですよ。

頭の中で考えることなんて、限界があると思うんですよね。
仮設を立てたり、準備をすることは大切ですけど、時間は有限。準備に何年もかけられる年齢ではないので、思い切って決断しました。

考えるのは、踏み出したあとでもできる。
経験は無駄になりません。

まだまだこれからですが、何をしたいかを軸に生き方を変えたことは、とてつもなく魅力的な日々をくれたのではないかと、今は思うのです。


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