右往左往
(私が大学でTAをしてる講義で出された「左と右」というテーマのエッセイ課題のサンプルとして書かせていただいたものを載せてます)
————————————
どこを向いても同じ色をしている、死後の世界のような場所にいた。そんな虚無空間だった私の内部は、知らぬ間にあなたの存在によって彩られた。正直まだ慣れない。このまま一生慣れない方が、ピュアな気持ちのままでいられて可愛げがありそうだけど。あなたはどう思うんだろう。
「どうして君はいつも僕の右側にいたがるんだい?」
『理由が曖昧なほど、なぜか強く信用してしまうことない?それに惹かれるから。』
日曜日の夜23時13分、終電ひとつ前の電車が最寄駅を通過する音。
相変わらず私は抽象的な回答で返す。
素直になれずに本音を拒む私に返した、
彼の眠気混じりの掠れた声が今日はやけに色っぽく感じた。
一人でいる時に感じる孤独より、あなたといるのに感じる孤独は耐えられないから、私は心臓をささげるように自分の左腕をあなたの右腕に通した。それは、自己肯定感は低いのに承認欲求だけは強い自分を肯定できる唯一の方法で、そんな私を何も言わず受け止めてくれるあなたにいつまでも縋っていたいと思ってしまった。梅雨がもたらす湿気がお互いの肌を余計に密着させて離さない。
続けてあなたが言う
「マンネリ化とかいう言葉はなんて馬鹿馬鹿しいんだろう、ね」
先走り癖のある私は、これをプロポーズだと思ってしまう。もう君は僕の一部だよ、離れないでと言われているようで、心が満たされてたまらなかった。
あなたは寝相が悪いから、私の右側で寝た。
私の部屋のベッドはマンションの北側の壁と部屋の角に合わせくっつけるように設置されてあるから、あなたはベッドから落ちないように壁に向かって寝た。たとえあなたの寝相の悪さが見え隠れしても、結局私の元に来てそのままでいてくれるからどうでもいい。
あなたは寝覚めが悪いから、私の左側で寝た。
大学の1限がある日の朝、ベッドから滑り落ちるように体重を左にかけ、床に落ちたときに感じる衝撃で目を覚ませるように、前日の夜は私の左側で寝た。変に破天荒なあなたが朝からいとおしく思える。
そして、あなたは私の左側で寝ていてほしい。
いつの間にか重ねていた回数のせいなのか、直感のせいなのかはどうでもいい。ただそれが私にとって心地よくて、そうじゃないと違和感がある。あなたが私の左側にいることで、私は初めて左と右を認識できる。
恋人として過ごす時間の進み方は思いのほか早くて、そのスピード感についていけないとき、どこを向いて前進すればいいかわからなくなる。でも今日もまた、ただでさえ自分で認識することができなかった1人の未来を2人で見ている。あなたという光が足元を照らしてくれているおかげで方向がわかる。
今まで行き場のなかった自分の感情たちを心臓ごと委ねることができるからあなたは私の左側にいてほしい、という気持ちをいつか口に出して伝えてみたい。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?