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クラゲ事件①

災難で本当の人柄が分かる


大変な時こそ、人はぼろが出るというか、地が出るものです。我が家では困った事になると、そこにモトオの特性が加わって更に酷くなるのが常でしたが、これはその昔、婚約中の時の話です。

出会った時から不思議だったのは、モトオが優秀な営業マンということでした。
普段は消極的でおとなしいのに、急に積極的になったり、仕事も出来たり、とにかく意外性の塊でしたが、私はそれを魅力の一つと捉えてしまっていたのです。この時も好成績を上げたということで、海外リゾートでの授賞式に招かれ、私は同伴者として留学先のアメリカから参加させてもらったのでした。コンピューターバブルの時代でした。

まさかこの時、その後の結婚生活に影響する彼の特性が炸裂していたとは知る由もありませんでした。

アメリカに戻って、この話を友達にした時も南国への招待旅行を羨ましがられただけで、『何か引っ掛かる』という私の悩みも贅沢な悩みと片付けられてしまいました。発達障害を知らないとこの『何かが引っ掛かる』は伝わらないのです。

モトオはこの時まだ他人だったので、反省の色を見せてくれましたが、結婚した途端、体裁を繕うことも止めました。これが、モラハラASDの共通点と思います。

離島に着いた早々クラゲに刺された私


私達はホテルから船に乗って離島へのイベントに参加しました。けれど、ガイドについて浅瀬を歩き始めてすぐ、私はクラゲに刺されてしまったのです。感電したかと思うような衝撃と経験したことのない痛みに襲われました。

普通なら婚約者ですから、すぐ手当てに走るものだと思いますが、モトオは違っていました。

ガイドが私たち二人にホテルに戻るか聞いてきた時です。

モトオが「え、まだ何もしてないのに!?」と言って動こうとしなかったのです。ガイドが『彼は何と言ったのか?』という視線を私に送ってきましたが、私も彼が何を言っているのか分からず混乱しました。

私は、モトオのこの不可解な反応をガイドに通訳しなければいけませんでした。
それが何を意味するか。屈辱的でした。ガイドは解せない顔をしましたが、モトオは残る気満々なので、変わった日本人という感じでガイドは離れていきました。

モトオは、人の表情も暗黙の常識も分からない人だったので仕方なかったのでしょうが、一番の被害者は何も知らない私でした。

「ちょっとなら大丈夫」と言った私もまさかその後、そこで何時間も待たされる羽目になるとは思いませんでした。昼も過ぎ、一緒に来ていたカップル達も(皆外国人)皆引き上げていきました。その頃には、クラゲに刺された足の腫れはどんどん酷くなり、焼けるような熱さも増して、私は歩くのもままならなくなっていました。

ビーチから叫ぶも、モトオが気づくことはなく… そもそもちょっとと言ったのに、なぜ何時間も戻らないのか?!クラゲに刺された私を置いてなぜ自分だけ楽しめるのか!?何もかも理解できませんでした。待たせている私に一度も視線をくれないのも疑問でした。周りに私たち以外誰もいなくなっているというのに。

何度も一人でホテルに戻ろうと思いましたが、携帯がない時代で、英語もうまく話せないモトオを一人残していくのは気が引けました。私は優し過ぎるバカだったのです。

特性の問題は彼自身の問題です。彼が特性で自分のことしか頭にない人だと知っていれば、私は自分の怪我の治療を最優先にでき、ここまで酷い目にあわなくて済んだはずです。

モトオは、人のことを極端に考えられない人でした。例え恋人が怪我をしてもそれがどういうことか詳しく説明されないと分からないのです。説明してもらっても、それがどういう意味なのか分からない時もあるくらいでした。

スケジュール変更も苦手だったので、私の都合で突然ホテルに戻らなければならない状況は彼にとって受け入れ難いものだったのでしょう。本人は『オレは着いたばかりで何もしていない』と思ったことを言っただけかもしれませんが、自分の発言の意味とその影響というものが分かっていなかったのです。子供でも家族が怪我をした状況を理解することはできますが、特性のある子供は理解するのが難しいというのと同じです。

時間の感覚も夢中になると無くなるので、時間も私のことも魚取りで完全に忘れていたのです。私の方を見なかったのも人の様子を見てもそこから何も分からないので、人に目を向けるという習慣が元々ないのでした。視力も極端に悪いので見えないということも彼にはあります。

自分の都合だと空腹も感じなくなるので『人は皆お腹が空く』という常識も無くなり、「お腹が空いたよね?」と人を思いやることもないのでした。

自分の都合しか頭になかったのです。

彼は綺麗な魚を生捕りにして、大はしゃぎでした。クラゲに刺された私のことなど忘れていたようで「魚をホテルに持って帰る!(生きたまま)」と言ってきた時は言葉を失いました。


続く。

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