奇跡を起こす場所

電光掲示板に映し出される3組3着のタイム、その瞬間に喜びがあふれた。

夏の最終戦

2020年のインターハイ中止が決まった。
いろんな言葉が聞こえてくるけど、この大会がなくなったことの生徒たちの喪失感は計り知れないし、かける言葉は見つからない。

ただ、陸上競技を嫌いにならないでほしいし、切磋琢磨した仲間との思い出は宝物にしてほしい。
そして、この1年が別の形で最高の1年になることを切に願っている。

インターハイ。
3年生の時の大会は、自分が走らなかった大会で1番思い出に残っている大会だ。10年以上たった今でもよく思い出す。

高校生は何かと勢いがある。甲子園など他のスポーツを見ていても感じる。
その勢いが時に奇跡を起こし、時に空回る。
私達のチームはそのどちらも経験した。

フライング

私達の代は、過去1番遅いチームだった。
3年生で個人種目で全国に進んだのは女子で1人だけ、男子はリレーで2種目で出場したが3年生の個人はゼロだった。

その女子選手の予選レース。
フライングで失格になった。
監督は猛烈に抗議して、覆そうとしたがかなわなかった。
フライングの抗議はルール上できるが、競技が進行していくなかで、走れなかった選手が救済されることはあるのだろうか。
あの2つ目のピストル音がした時の緊張感は耐え難い。

当時のルールは組内で2回目以降にフライングした選手が失格になる。
初めての全国、盛り上がる会場、平常心ではいられない。
こうして、私達3年生の個人レースは終わった。

マイルリレー

入学してからずっと仲間で言っていたのは「3年の時に全国で優勝する」
1年の時からずっと言っていた。

しかし現実は、活躍する先輩方が抜けて、大きく戦力は落ちていた。
突き上げてくる後輩たちは頼もしかったが、キャプテンの調子はなかなか上がらないままインターハイを迎えた。

インターハイ前のマイルリレーのランキングはたしか20位だったはず。とても優勝できるようなチームではない。
みんな地方大会後はバトンを持って全ての練習をして、バトンと一緒に寝た。
リレーにマイルリレーに全てをかけていた。

準決勝3組2+2

予選は無事に通過した。
勝負はインターハイ最終日のマイルリレー準決勝と決勝。ここで落ちるわけにはいかない。

最終日。
右手の拳で選手達を招集所に送った。
そして、すぐに応援席へ。合同合宿をやってる高校の予選で破れてしまった選手達も集まってきてくれた。

準決勝3組2+2
私達のチームは2組だった。
ピストル音とともに各校の応援が会場を包む。
あの良い意味で音量重視の、鬼気迫る応援は高校生ならではだと思う。

応援席にいる、私は声を出すことしかできない。
主務としてチームをまとめて声を1つにすることしかできない。
ラストの直線で、仲間がどんなに苦しい顔をしていても変わることはできない。ただ仲間を信じて声を出すしかない。

結果は組3着。プラスに望みをつなぐしかない。
主務の私に迷いはなかった。
決勝を走るために、氷や水の手配をすぐに指示した。もう一本必ず走る。
迷う必要などなかった。「仲間をただ信じた。そのためにやってきた。」と言えばカッコいいが、他に残ってるレースが無いので、ダメなら撤収して帰ればいい、という消去法もあった。

仲間を信じる。次は必ずある。

応援席でタイムが表示されるのを待った。大会前より記録を4秒更新した。高校生の勢いはすごい。
それだけタイムを伸ばしても、1組目が速かったので、その時点でプラスの2番目のギリギリだ。
3組の結果しだいだった。

陣地にはすぐに戻らなかった。
第四曲走路にあるマラソンゲートにいた。
電光掲示板が見える陣地に1番近い場所だ。

3組の正式タイムが発表されるまでの時間は長かった。
3組の1,2着のタイムは私達より速かった。緊張が高まる。
そして、3着のタイムが表示される。

勝った。

決勝を走るぞ!

今思えばここで私が浮かれすぎたのかもしれない。
「優勝しよう」そういい続けていたけど、現実をみんな見ていた。
私のいた高校はインターハイの入賞者がいない年はない、私達が不名誉の第一号になる可能性が高かった。
だから、ランキングを覆してそれを回避できたことで安心してしまったのかもしれない。

優勝には遠いチームだったけど、もっと冷静に決勝に向かっていたら、最後の一本はまた違っていたかもしれない。

あの夏はいつまでも心に残っている。
胸の高鳴り、フライングの悪夢、そして歓喜。
そして、夏に向かった仲間との日々も忘れることはない。常に上を目指し戦った日々を。

あの日のことは自分を奮い立たせる思い出だけど、一緒に戦った仲間の存在はそれ以上に今でも私の背中を押してくれる。

最高の夏に向かった、熱い3年間だった。

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