マガジンのカバー画像

編み目をたぐる日

37
水野さんとのマガジン「編む*」と、その裏面
運営しているクリエイター

2019年1月の記事一覧

夜の影は、穴みたい

編む* たましいのともだちへ

編む* たましいのともだちへ

そういえば中学生くらいの時に、ソウルメイトって言葉を聞いて、印象に残っている。たましいのともだち。運命の人とか、そのままの意味では今は考えていないけど、なんとなく、同じ大樹の下に護られた友人やパートナーのイメージである。

昨日結婚式をした幼馴染は、たぶんそうだろうし、あの人も、今は連絡をとってないけどあの人もそうだろうし、なんて想う。年齢も、性別も、まったくバラけているが、共通しているのは、恋と

もっとみる

編む* シトラスピールとシュガー

眠れぬ夜の夢を追いかけて

あなたの背中のくぼみに触れる

鼻先を押し付け

その黒々とした大きな水面に浸かろう

そうして愛を叫ぶのだけど

どうして くぐもってしまって仕方がないが

だんだんと 眠りが明け方の

うすいカーテンを染めるように

水面が震えて青く澄むように

思えるのだ

編む* 家を起こす

しばらく忘れてしまっていたことだが、朝、目を覚まし、布団から出て階段を降り、キッチンで湯を沸かし、コーヒーを淹れたり朝食を作ったりする前にしなければならなかったのは、ちゃんと家のひとつひとつに声をかけ、あさよ、と起こしてやることだったんだ。
そうして呼びかけた私の声に呼応するように、家はだんだんと震えて起き上がる。緩やかな音楽が流れ、雨戸が開けられる。冷気が吹き込み、少し身を縮める。コーヒー豆は粉

もっとみる

編む* 夏蜜柑は冬を越して、初夏にならねば甘くはならぬ。

冬の白日が、柑橘の葉の隙間を抜けて、あなたの額を照らす。木には満月のようにまんまるく、大きな実がいくつもなってはいるが、今はまだ、口に含めば涙がにじむ程に酸っぱい。窓から手を伸ばし、その実を撫ぜる。表面はすべすべとして、小さな丘と谷がいくつもある。風にふかれてひんやりとしているが、芯にはぼんやりとした、柔らかな夏が抱かれているようだった。
旅立った日の夏の野を思い出した。遠くまで来たような、よくわ

もっとみる

編む* 絡んだ愛してるをとかして

髪の毛をとかしてほしいとあなたが言うので、渡された安物のプラスチックの櫛を、細いその髪にあてている。
抜け毛が多いことを気にしているけれど、私の手にしたその櫛は、するすると滑って、あなたの髪を纏めてくれた。
ひと櫛ひと櫛のその間、私は何度も愛してると思い、そしてそれを言葉に出来ずに少しだけ、唇をかんだりしていた。
もっと良い櫛を買おうよって言ったけれど、あなたは応えない。
迷子になった私は後ろから

もっとみる

編む* 湖みたいな人だったって、

わたしは湖のようになりたいって思うの。そうすれば、あなたが水をのみに来てくれるでしょう?柔らかな声でおはようと啼いて、わたしに降り立つ羽ばたきで、わたしの湖面ははためくの。天気の良い日は友人も連れてきたり、たまたま居合わせた顔見知りと冗談を言い合ったりして。
そうして、すこし元気になって、またねって軽やかに飛び立っていくのを見送るのが好きなの。
あなたが何思うか知らないけれど、わたしがいなくなった

もっとみる

編む* 今朝、君のことを考えてばかりいるから、

南の雨戸を開けると空は白み
夜はもう木の葉に隠れていた
西の雨戸を開けると
明るい月がおり
君を思い出した
今朝はまだ眠っているだろうか

先週くらいに
君はいなくなって
水槽は空になった
前を通り過ぎるたびに
その中に目をやって
もう居ないのだと
いつも新しい気持ちで気がついている
そうやって繰り返し
言葉を失う

見送られる玄関で
君は両手をはっきりと広げるので
僕らはゆっくりと抱擁を交わして

もっとみる

編む* そうよ、いつも僕の負けなわけ

わたしを褒め讃えてよって、君は言うけれど
そうゆうのが一番苦手なんだって知ってるでしょう?
曖昧にも適当にも形容できないこの気持ちにまごついて
君の頬を両手で包んでいると
ほらほら言いよどんでるなんて言いなさる
じゃあ僕を褒めてみなさいよって
やり返せば
あなたは世界一!
最高!
なんて、屈託なく言うもんだから
そんなのなんにも答えてないのと同じじゃんよ!
なんて、応えるしかなくて
悔しいけれど、

もっとみる