小説 開運三浪生活 51/88「祈りと実り」
浪人生に夏休みはない。八月に入っても文生は広島に居続け、夏期講習を受けに川相塾に通う日々だった。
それにしても、初めて過ごす広島の夏は暑かった。まず、東北とは日差しの力からして違った。朝八時を回ったばかりだというのに、文生の背中にはじっとりと汗が噴き出していた。
塾への道すがら、横断歩道の信号機が切り替わるのを待っていると、ふいにサイレンが鳴った。文生は少しビクッとなって、すぐ気が付いた。
――ああ、これが広島の八月六日か。
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