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剥がす痛みを知っている大人はかさぶたをつくらない。

 朝ドラ『おちょやん』の主題歌、秦基博の『泣き笑いのエピソード』。
 毎朝テレビから流れる歌を聞いていて、「かさぶたが消えたなら」というフレーズがひっかかってました。

 「かさぶた」?あまり歌詞には使われない言葉。いいイメージがない。なぜだろう。子供の頃ころんで擦りむいた膝の傷にできたかさぶたが気になって、剥がしちゃダメだってわかっているのに、このぐらいならいいかなってべりっとすると、まだ治りきらない皮膚から血が滲んで、またかさぶたができてしまう。の繰り返し。積み重なる小さな後悔。

 そう、誰の心にも傷があって、心が壊れてしまわないように、無闇に触れないようにかさぶたができる。もういいかなって剥がしては、傷をぶり返し後悔がつのるってありますよね。傷がいえて「かさぶたが消える(向き合えるようになる)」には時間がかかります。 

 かさぶたが消えたなら 聞いてくれるといいな
 泣き笑いのエピソードを

 朝ドラ『おちょやん』は、まさしくこのフレーズのように、登場人物たちのかさぶたが治っていく時間を描いていて、それが泣き笑いのエピソードとして語られる未来への物語になっています。目が離せません。

 「カサブタ」と言えば、千綿ヒデノリの歌う『金色のガッシュベル!!』のオープニング曲。

 つまずきながらも転がりながらも
 カサブタだらけの情熱を忘れたくない

 つまづいたり転がって、カサブタだらけになることもいとわなかった頃ってありましたよね。そういえば、最近、カサブタを気にしなくなったけど、それはカサブタができるような無茶を避ける術を知っただけのこと。あの「カサブタだらけの情熱」からは遠いところにきてしまいました。

 中島みゆきは『糸』で、

 なぜ 生きてゆくのかを 迷った日の跡のささくれ

と歌っていますが、カサブタをつくらなくなった大人たちも、未だにささくれはつくってしまう。大きな後悔を小さな痛みに変換する術を知っている。いや、迷うことも回避して、ささくれ すら避けるようになってしまうのかもしれません。

 その昔、鬼束ちひろは、『月光』で

 おわりになど手を伸ばさないで
 あなたなら救い出して あたしを静寂から
 時間は痛みを加速させていく

と歌いました。すごい歌だなと思います。カサブタで心を守ることも、ささくれに変えて矮小化することも許さず「痛みを加速させていく」あがき。

 2021年3月22日、NHK総合で放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明スペシャル」を見ました。ああ、この人はカサブタだらけになることを厭わない人なんだ。さらに、「自分の命よりも、作品」なんて言える人は、いくつものかさぶたやささくれを作って、それをムシってしまうんですね。『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を見ながら、もしかしたらこの人の心を守っているのは、締め切りなのかなとも思いました。締め切りがないと、永遠にかさぶたを剥がし続けかねない。
 いいんですよ。もうさよならを言っても。

 剥がす痛みを知っている大人はかさぶたをつくらない。
 でも、かさぶたを恐る生き方じゃあなぁって思いつつ。

2021年3月25日



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