本の棚 #145 『聖の青春』
「心を燃やせ」
煉獄さんの言葉を人生をかけて体現した
そんな人物ではないか。
松山ケンイチさん主役で映画化もされたから
ご存知の方も多いと思う。
村山聖さん、将棋界最高峰である
A級棋士としてその生涯に幕を閉じた。
29歳という若さでの死。
そのなかにぎゅっとつまった青春物語。
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将棋は病院のベッドで生活する少年にとって、限りなく広がる空であった。
幼いときにネフローゼという腎臓の病気に、
そしてガンとの戦い。
誰しもが人生というストーリーをもつ。
なめらかな波のような優しいストーリーもあれば
尖った、津波のような、激動のストーリーもある。
どれがいいというわけではないが
人の心にささるストーリーは
いつだって後者のように思う。
村上聖さんの人生はまさにそんな人生で
その中心軸となっていたのが「将棋」だ。
軸のある人生はどれだけ大きな波がきても
耐えられる。
彼のなかで将棋という軸は
出会ってから命が尽きるまで
ずっと人生を支えてくれるものとなる。
「谷川を倒すには、いま、いまいくしかないんじゃ」
名人になるための逆算思考。
奨励会に入り、卒業し、プロになり、
5つのリーグ戦を突破して
名人に挑戦できるまでの最短コースを考えると…
10年ほどかかり、そのときには自分は23歳。
遅い、今からでも遅いくらいだ。
中学1年生にして自分の人生を
自分できりひらいていこうとする
その強い意志。
目標をもち、突き進んでいく強さは
命は有限である、という認識を
だれよりも感じとっていたからではないか。
そこから幾重にも重なる苦難を乗り越え
目標であった谷川さんに
10戦目にしてようやく勝利することになる。
高い高い壁に対して、うちひしがれながらも
一つ、また一つと石を積み上げていく。
勝った瞬間、壁を超えた瞬間に見えた風景は
どんなものだったろう。
その後も羽生善治さんをはじめとする
将棋界の一時代を築いた強者と
名勝負を繰り広げる。
将棋はスポーツのような体の動き、プレーで
魅せるものではない。
思考の深さ、巧みさ、発想のうつろいなど
目には見えない部分がおもしろい。
それが目に見えるようになったら
もっとおもしろいかもしれない。
思考が映像化されたり、文字化されたり…
6月15日。村山は29歳の誕生日を迎えた。
まさかまさかの誕生日が同じだった。
それはおいておいて…
その日にガンの肝臓への転移を知らされる。
もう残された時間は少ない。
そうはっきりとわかったとき
人は何を考え、どう動くのだろうか。
そして、その声は「2七銀」で突然に止まった。
寝ても覚めても、どころの話ではなく
あの世にいく直前まで将棋のことを考える。
夢中になる、没頭する…
極めることの美しさと儚さを
この瞬間に感じる。
誰かのためではなく、自分のために
一生を懸けて突き進んだ人生。
心を燃やせ。
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