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君が見る世界、僕が見る君 #03

恵莉(えり)・ティターニア

 教室が一瞬にして静かになった。誰の号令も口裏合わせも何も無く、ただ目の前を歩くセーラー服を来た銀色の髪の毛の美少女を見て、男子も女子も喋ることを忘れて見惚れていた。
「じゃあ、教卓の上に来て自己紹介をお願いします。あと、黒板に名前を書いてくれると助かる。すまないが先生も最初、聞いた時は頭に入らなかったから。ごめんな」
先生は片手で謝るポーズをとってから、近くにあるチョークを渡した。
「大丈夫です」
小声で目線はやや下を向けられたまま、渡されたチョークを受け取り、黒板に名前を書き始めた。
 名前が書かれる間、黒板にチョークが当たる音だけが教室に響き渡り、誰1人としてヤジを入れることなく、その少女の一挙手一投足を全員が見守っていた。
「初めまして、今日から転校してきました。恵莉・ティターニアです。よろしくお願いします」
 深めのお辞儀をして、顔が見えた瞬間、
「「「うおーー、美少女きたー」」」クラスの男子生徒が合図もなく、揃って叫んだ。
「「「キャー、可愛いいいい」」」女子生徒は、口々に友達の手を握って、叫んでいる。
カオスだ。俺は振り返り、志麻場の顔を見る。
「おい、志麻場、女子予想当たったな」
「まあな、これくらい普通だろ」
メガネの中央を押して、少し得意げな表情をした。
「おいおい、落ち着けーー。男子!座れー、女子!静かにー」
 しばらく、このカオスは治らなかったが、先生も予想していたのだろう。やれやれという表情で落ち着くように何度も声かけをして、徐々に静かになってきた。
「みんな、落ち着いたな。ティターニアさんは、スコットランドと日本のミックスで、名前も日本式で言うと逆の「ティターニア恵莉(えり)」さんになる。今日から転校ってことで、まだ分からないことばかりで、大変だと思うので、みんな仲良くするように」
「ってことで、席はーー、嘉島の隣が空いてるな」
「え、まじか、そうだった」
 中間テスト後に、くじ引きで席替えをして、奇跡的に誰も隣にいないポジションになれた。転校生といえばそういう場所に来るのが定番だ。
「なんだ、嫌か。嫌ついでに、学校の案内も後でしてやれ」
「なんでですかー、学級委員長がいるじゃないですか」
「いつも、授業中外ばかり見てる罰だ、受け入れろ」
 授業中外見るのは、確かにそうだが、知ってることを授業されてもつまらないだろ。
「はーい、わかりましたー」
「ティターニアさん、あいつの横の席へどうぞ」
「はい」小さく頷きこちらへ向かって歩き出す。
当然、全員の視線が彼女を追う、男子はその先の僕に睨みを効かせる。
 彼女を見ていて、気づいたのだが、なぜずっと伏せ目がちなのか。ただ恥ずかしい、シャイなだけなのか、ちょっと気になった。
「失礼します」そう呟いて席に座る。
「そうそう、嘉島、ティターニアさん教科書とか持ってないから、見せてやれ。授業時間はとうに始まってるからな、1時間目はこのまま国語の授業を始める」
 僕は机を動かしくっつける、教科書を出して真ん中に置き、授業を聞くふりをする。
「ありがとう」小さい声で言った。そして「どちらも不正解」と言った気がした。
僕は不意に放たれた言葉に彼女を見たが、何事もなかったように、授業に集中していた。
聞き間違いだったのか・・・。

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