葬儀用品から見える移り変わり
愛知県尾張旭市の日本トレード株式会社は、ありとあらゆる葬儀用品を販売している会社。矢田石材店も、お寺の本堂で開くお葬式をサポートする事業「お寺でおみおくり」でお世話になっています。長くこの業界に携わってきた松井茂樹社長(54)にお話をうかがうと、葬儀用品を通してお葬式の移り変わりが見えてきました。
月間800基の棺を納品
――葬儀用品というと、どんなものですか。
「いちばん、みなさんが思い浮かべられるのは棺でしょうね。月に平均して700~800基を葬儀会社などに納めております。木製の棺を20種類扱っておりまして、長い箱型の桐の平棺と、表面に白い布を貼った山型棺がオーソドックスなものになります。矢田石材店の『お寺でおみおくり』でも、よく使っていただいています。棺のふたがドーム型になっているものや、刺繡の入ったピンクや紺色などのものもあります。ヒノキやモミノキなど使い、オーソドックスなものの50倍くらいの価格となる、高級な棺もご用意しております」
――棺には規格があるんですか。
「昔多かった土葬ですと、座棺といいまして、体育座りのような姿勢でご遺体を納めるため、大きな立方体のような棺でした。今はほとんどが火葬ですので、ご遺体を寝かせた状態で納める寝棺です。ですので、棺は、火葬場の炉に入る大きさ、というのが基本となります。
火葬場によって炉のサイズは違うのですが、棺の長さは180から190cmが主流で、200cmくらいの大きなものもあります。幅は60cmくらいです。火葬場に着いてから、棺が炉に入らないとなってしまってはいけないので、葬儀会社の方はみなさん、炉の大きさは把握していらっしゃいます」
――棺の選び方で流行はあるんですか。
「安いものを、と金額で決められる方が増えていると感じます。棺を選ぶのは、どういう想いで亡くなった方とお別れをするのか、ということですので、寂しい気もします。好きな色だったからピンクの棺にしたい、とか、最後の旅立ちを豪華にしてあげたい、とか考えて選んでいただけるとうれしいです。コロナ禍もあって、家族だけでされる方が増えて、お葬式が簡素になってきていることが、影響しているのかもしれません」
役立つ事前葬儀相談
――自分では選べないですもんね。
「自分のお葬式のことを考えるのは難しいと思いますし、縁起でもないと敬遠されますが、生前に少しイメージして、ご家族とお話しておいていただけると、自分の思った通りに見送ってもらえるし、残されたご家族の負担も少なくなると思います。
結婚式と違って、お葬式は待ったなしで来ます。矢田石材店はお寺で模擬葬儀をされて、事前に相談も受けているようですし、そういうのを利用して、知識として持っているだけで、いざというときにすごく役に立ちます。棺も、生前にご相談いただければ、オリジナルのものを造ることもできます」
――棺以外には何を取り扱っているんですか。
「白木祭壇やご位牌、それからロウソクなど細かいもの、ご遺体を乗せる取っ手の付いた担架布団など、葬儀に使う道具一式をすべて扱っています。例えば、新しく葬儀ホールをオープンする場合、お任せいただければ必要なものはすべてそろいます。
矢田石材店の『お寺でおみおくり』では、お寺の本堂で執り行うので、祭壇は必要なく、その分、費用はかかりません。
私はこの仕事をして30年になりますが、最初のころは、そうしたすべての葬儀用品を公民館に持ち込んで飾るという、いま思えば、すごい作業をしていました」
かつては公民館や自宅で葬儀
――昔は公民館やご自宅でお葬式をやっていましたね。
「昔の公民館は葬儀が優先されていました。ですが、いまでは地域住民の反対があったり、ご遺体を公民館に入れるというのが嫌がられたりするケースもみられ、とても少なくなったように思います。私がかかわっている間に、葬儀は大きくかわりました」
――どんな変化を感じますか。
「以前は組み上げ式の祭壇を町内で持っていて公民館に保管していたりしていました。それぞれの地域に合わせて葬儀で必要な道具をそろえていました。葬列を組んでお墓へ向かう時に先頭が持つ旗だとか。そういうものを職人さんに頼んで作ってもらっていました。
例えば、矢田石材店の本社がある岡崎あたりだと花かごがありました。出棺の前に、亡くなった方の小銭をかごに入れて振って、落ちたものを形見としてみなさんが持って帰るという儀式をやっていましたが、そういう風習はなくなってきました。
お盆でよく飾る回転灯篭も、愛知県内では葬儀でも飾っていたのですが、あまり使われなくなりました。
ホールでのお葬式がどんどん広がるにつれて、地域による違いはなくなって、どこでも同じように葬儀をするように変わってきました。以前の、地域社会とつながったお葬式もよかったと思います」
人生最後のセレモニーをミスなく
――お仕事をする上で心掛けていることはありますか。
「葬儀って人生最後のセレモニーですから、ものすごく大切だと思うんですよ。それに携わっているんだという意識を持って、ミスのないようにと心掛けています。
棺は、会社に届いた部品を組み立てています。なにかがあってはいけないものですから、絶対に失敗がないように、そして、最後の儀式に使ってもらうのでよりいいものを、と思って、検品やチェックをしています。
それと、僕たちの業界は、横のつながりがけっこう強いんです。お葬式で困ることがないように、お互いに連絡を取り合ってやっているんですが、これからもそうやって頑張っていきたいと思います」
永代供養のついた安心のお墓「はなえみ墓園」。
厳かな本堂でのお葬式を提案する「お寺でおみおくり」。
役目を終えた墓石を再利用につなげる「愛知県石材リサイクルセンター」。
矢田石材店のさまざまな事業でご一緒しているみなさんにうかがったお話をお届けします。
随時、月曜日に更新する予定です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?