松里鳳煌(hoko)
嘗ての往復書簡をコンセプトにMASATO氏と始めた往復小説。2019/8/22:天外黙彊氏も加わり、小説によるコミュニケーションを公開しております。ココでは私のパートを公開。一話完結形式。やり取りした小説を読まずに成立しますが繋がりの小説を読むと受ける印象は変わるかもしれません。その他のパートは 往復小説の統合サイト https://rt-novel.blogspot.com/ にて。
往復小説を除くショート・ショート作品を纏めております。ショート・ショートの魅力は短時間に書ける(読める)、色々なジャンルが出来る、エッセンスが凝縮される等、独特なものがありますね。
随筆をこちらに纏めます。
オムニバス小説、鶴子-つるこ-のシリーズ。
手を伸ばしている若い男性が視線に入った。 スーパーのペットボトル・コーナー。 視線はその二段目。 見ると、セール中とある。 彼は悔しそうに顔を歪めた。 車椅子だ。 腰を浮かし、支える手が震えるほど再び伸ばす。 届くことは無さそうだ。 彼はぐったりと車椅子に身体を預けた。 「これですか?」 声をかけた。 セール品のお茶、五百CC。 彼は驚いたように目をパチクリさせる。 「あれ、こっちでしたか?」 隣のペットボトルに手を伸ばす。 「いえ!・・・お茶の方で
この一ヶ月、体調が悪い中で師の言葉を噛み砕いて何度も何度も書こうと試みたが書けなかった。そのお陰で師が嘗て言わんとした如来の秘密がよくわかる。書くことでマイナスに働く人が大勢想起出来たからだ。余りにも多すぎる。師は「理解出来ないことを気づいていながら言うとしたら、それもまた暴力だよ」と嘗て私に言った。 言葉「言葉」は、その背景と表裏を理解するのが前提にあり初めて伝達する。いきなり全てを理解することは、程度の差こそあれ無理な相談だ。一端 横へ置いておき、その上で一先ず理解出来
仕事柄の癖のようなもの。 誰にしろあるだろう。 真剣に取り組んであれば当然のことに思う。 僕は人間観察かもしれない。 この前、親父に怒鳴られた。 「人ばっかり見て、お前はどうなんだ!!」 つい言いすぎた。 見ていれば自ずと口も出る。 他人事は無責任に言える。 例え事実だろうと欠点を白日の下に晒されるのは誰しも嫌なものだ。 (食事の時ぐらい忘れよう) 食事は必ずといっていいほど人通りの多いところでとる。 いつの間にかそうなっていた。 調査対象の行動履歴が知らず頭にあるのかも
「言葉というものは肝心なことが伝わらないものだなぁ」と実感します。直接的かつ具体的な会話より、何かを媒介にした象徴的なコミュニケーションの方がより深く相手を感じられることがあります。書や絵画、音楽等の諸芸術等はその最たるもの。言葉を使いながら象徴表現であるものに、詩や俳句、短歌等があります。嘗ては手紙のように互いに返し合うものでもありました。そこを発想の起点とし、「小説」を媒介にコミュニケーションがとれたら面白いのでは無かろうか。そのような考えが暫く私の中にありました。それ
よく晴れた夏の日。 世界は力強さに溢れていた。 自然の英気を浴びながら、不意に最後の時を思う。 (死ぬには最高の日。) 先住民の言葉。 「こういう日を言うんだ」と感じた。 姉の所属する交響楽団のコンサートを聴きに親戚一同で訪れたこの地。 誤魔化し難い疲労感を抱えながも精神的には充足感に満たされる。 普段寝たきりの彼にはいい気分転換。 一時的とは言え、音楽は精神を切り替える。 姉は嘗ての教え子に囲まれ、この夏の陽気のような晴れやかな声や笑顔に溢れていた。 (俺は今日この
ある晴れた朗らかな日曜日。 道を歩いていると少年は力を得たと実感した。 花粉症に耐え抜いたご褒美だろうか。 理由はわからない。 実感としてある。 でも、少年は慎重だった。 今の力をもってすれば、くしゃみ一つ、放屁一発で町を破壊出来そうな感覚があるからだ。 「力ある所に責任あり。」 何かのアニメで聞いたことがある。 まず辺りを見渡す。 超感覚で一瞬で把握出来た。 (凄い!!) 同時に怪人はおろか怪獣もいないことがわかった。 困った。 大いなる力を発揮
夕暮れ時、風をきる音。 息が白い。 「またやってる。」 呆れたような声。 少年がバットを振っている。 「ご飯できてるからね。」 疲れた顔の若い母親。 意図せず彼女は侮蔑的視線を向ける。 「うん。」 少年はバットを振っている。 彼女は舌打ちをした。 「才能がない。」 コーチから言われた。 「自分に合ったものが他にあると思うぞ。」 監督に言われた。 (わかっている。) 気持ちがいいんだ。 野球が。 理由はわからない。
ある村で化物が話題になっていた。 闇夜に紛れ、神社へ向かう山道の石段を登るという。 「食われちまうぞ。近づかない方がいい。」 噂はあっという間に広がる。 ある日、諸用で遅くなった村人がその場所を足早に通り過ぎようとする。近道だった。 「こわやこわや」 何かに気づき足を止める。 硬いものが石を叩く音だ。 音は次第に大きくなる。 コツ、コツ、コツ。 全身が硬直する。 大きな闇が石段を登って来た。 恐怖に顔を歪め村人は息を殺す。 闇は登りかけたが足を止める
脱サラして探偵になった。 手に職をつけたかったからだ。 ブラック企業はもう真っ平。 ほとんど衝動的だったが案外馴染んでいる。 こういう職業をやっていると色々な人がやってくる。 人生色々なんだと毎度考えさせられる。 最も印象的な案件が何かと問われたら間違いなくアレだろう。 ”鶴子 ” 女性の捜索を依頼。 偽名だ。 結論から言えば、見つけられなかった。 今でも依頼者の落胆した顔が思い出される。 彼の顔は「絶望」の二字を示していた。 真の絶望を初めて見た
2018年5月27日の日曜日。南浦和の鵞毛堂さんにて練成会に参加する。電車では旅気分を味わい、駅からはスマホのGPSと首っぴき。長閑な景色の中、懐かしさを抱えつつ歩く。外は初夏の陽気で風が心地いい。ロングスリーパーの私にとって三時間の睡眠は堪える。息苦しくならないよう通常15分程度の道のりを30分かけ遅々として歩み目的の会場へ。 今年は草書長条幅4幅を泰永書展にて披露予定。自運は充実感があるが対して今年は羅針盤がある気楽さがある。事前に4幅を1本に巻き3セット。仮にぶっ通し
泣くとは思わなかった。 人が何を思って泣くか、わからないものだと彼は思った。 自分にとっては単なる無意識の行為、習慣に過ぎない。 とても泣くほどのこととは思えないが。 それでも堅い表情に鋭い眼光を宿した彼女は自ら想像だにしなかったほど泣いていたし、その様に彼は激しく胸を動かされる。 彼女は顔を真っ赤にし、何事かと自ら狼狽え、慌てて手で涙を拭う。 彼が癒やされたとも知らずに。 彼女とは言ってしまえば他人である。 仕事上の付き合いとも言えるが、もっとも付き合う前に
「サンタさん来るかな?」 今日はクリスマス。 街は色づき華やいでいる。 娘の父親が失踪して1ヶ月が経つ。 彼は何時もこう言っていた。 「俺は猫みたいに死にたい」 そういう意味だとは思わなかった。 届けは出したけど諦めている。 「俺が被災したら1週間もたないだろうな」 震災の報を聞く度に彼は言った。 映像を見ながら、まるで我が事のように苦痛に顔を歪め、被災中の病人を思い胸を痛めた。 私は彼の苦しみがわからなかったのかもしれない。 どこか怠けているだけじゃ
「秋か」 路上に花が開いていた。 遠目でもわかる。 その様は飛び降りを想起させる。 コンクリートにまかれた脳漿。 手を合わせたい気持ちになる。 飛び降りというよりは落とされたと言った方がいい。 事件だ。 犯人は解っている。 カラスだろう。 主犯だろうが、共犯の可能性も。 今回は目撃していないが、いつぞや目にした。 被害者は「渋柿」。 路上に身を投げた柿はなんとも哀れだ。 埋葬したい気分が湧き上がる。 熊本の祖母宅で見たそれは自然の一部だった。