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手を伸ばしている若い男性が視線に入った。 スーパーのペットボトル・コーナー。 視線はその二段目。 見ると、セール中とある。 彼は悔しそうに顔を歪めた。 車椅子だ。 腰を浮かし、支える手が震えるほど再び伸ばす。 届くことは無さそうだ。 彼はぐったりと車椅子に身体を預けた。 「これですか?」 声をかけた。 セール品のお茶、五百CC。 彼は驚いたように目をパチクリさせる。 「あれ、こっちでしたか?」 隣のペットボトルに手を伸ばす。 「いえ!・・・お茶の方で
ある晴れた朗らかな日曜日。 道を歩いていると少年は力を得たと実感した。 花粉症に耐え抜いたご褒美だろうか。 理由はわからない。 実感としてある。 でも、少年は慎重だった。 今の力をもってすれば、くしゃみ一つ、放屁一発で町を破壊出来そうな感覚があるからだ。 「力ある所に責任あり。」 何かのアニメで聞いたことがある。 まず辺りを見渡す。 超感覚で一瞬で把握出来た。 (凄い!!) 同時に怪人はおろか怪獣もいないことがわかった。 困った。 大いなる力を発揮
夕暮れ時、風をきる音。 息が白い。 「またやってる。」 呆れたような声。 少年がバットを振っている。 「ご飯できてるからね。」 疲れた顔の若い母親。 意図せず彼女は侮蔑的視線を向ける。 「うん。」 少年はバットを振っている。 彼女は舌打ちをした。 「才能がない。」 コーチから言われた。 「自分に合ったものが他にあると思うぞ。」 監督に言われた。 (わかっている。) 気持ちがいいんだ。 野球が。 理由はわからない。
ある村で化物が話題になっていた。 闇夜に紛れ、神社へ向かう山道の石段を登るという。 「食われちまうぞ。近づかない方がいい。」 噂はあっという間に広がる。 ある日、諸用で遅くなった村人がその場所を足早に通り過ぎようとする。近道だった。 「こわやこわや」 何かに気づき足を止める。 硬いものが石を叩く音だ。 音は次第に大きくなる。 コツ、コツ、コツ。 全身が硬直する。 大きな闇が石段を登って来た。 恐怖に顔を歪め村人は息を殺す。 闇は登りかけたが足を止める