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じいちゃんが死んだ

2019年の8月。じいちゃんが死んだ。
最後に話したのが2ヶ月前でちょうど入院したときだった。

「働きすぎて倒れちゃったんだなぁ、この歳になってまで無理するもんじゃねえさ」

って笑いながら電話かけてきた。
20歳のとき、親と喧嘩をしてしまい縁を切られてから、血が繋がってる人とはじいちゃん以外に連絡をとっていなかった。

「今何やってんか?」
じいちゃんがそう聞いてきたので、大阪まで歩いたこと、仕事仲間に裏切られて金を取られたこと、新しい仕事が足場屋で面白いこと。
とにかく色々な話をした。

「昔から、なんというか無駄に忙しいさね」
と俺が言うと
「それでも腐らないで、頭回してどうにかしてんのは才能さ」
なんて言われた。

じいちゃんの話はいつも通りで
米軍基地で散髪屋をやってるので、新しくきた外国人に剃りこみ入れたら喜ばれただの、働いてる弟子が不器用だの、いつも通りの会話だった。

1つ違うとすれば。

「そういや、お前って親戚で誰かと話してるヤツいたっけ?」
と急に話が始まったことだ。

「いないけど?じいちゃんだけだよ」
「おーん。そうかぁ」

ちょっとだけ沈黙

「それがなぁ。歳も歳だからこの気に財産関係の話をまとめたくてな。弁護士の人がうるせえんだ。お金どうすんのか、土地どうすんのか、店どうすんのか。ってさあ」

「じいちゃん、そういうの苦手だもんなあ」
「頭使いたくねえのに弁護士雇ってんのに、頭使わせてくるんだよぉ、知り合いの息子だから多めにみてるけど、普通なら海に落としてるさ」
「それはやりすぎたよ笑」

またちょっと沈黙。どうやら弟子が服を持ってきたらしい。

お弟子さんとも少しだけ話した。
わざと聞こえるようにじいちゃんが厳しいと言っていた。
じいちゃんはそれに反応して「半人前は厳しくしないとダメ」と笑ってた。

話が戻って。

「それでな。財産関係お前に全部頼んでもいいか?理由はわかってるだろ?」

理由はわかってる。
じいちゃんは家族とあまり仲がよろしくない。
主に理由が長男にあって、4年前家族で集まったときに長男をボコボコにしてしまって、それからみんな寄り付かなくなってしまった。

ちなみにじいちゃんに子供は8人。
男5人で女3人。俺の育ての親は三男坊である。ちなみに長男が実の父である。

ボコボコにした理由は特に知らない。

まぁ、なんにせよ。それから誰もじいちゃんに連絡しないらしい。
連絡を取ってるのが俺ともう1人だけらしい。じいちゃんが言っていた。

「まぁ、特になにも変わらないんなら別にいいけど?」
「そうかそうか。お前ならそう言ってくれると思ってた!詳しい話は適当に書いて管理しておくから!なにすぐは死なないから大丈夫」

と残して電話切られた。
まったく急にどうしたんやら。

相変わらず面白い人だな。そう思った。

2ヶ月後、お弟子さんから電話がきて死んだことを知った。
脳梗塞だった。

病院は1週間くらいで退院して、なぜかそのあとはお弟子さんにお店を任せていて、ある日突然訃報が届いたとのこと。

俺は電話を切って仕事に行った。
足場屋でこき使われながら、じいちゃんは何があったんだろうと考えた。

考えて考えて。
それはもうひたすら頭回して。

「わかんねえもんは仕方ねえ」
ってじいちゃんがよく言ってたのを思い出した。

たぶん、なんとなく死期を悟ったのか。
たまたまタイミングが悪かっただけなんだろう。

そう割り切ることにした。

あとは弁護士から電話が来た。
財産関係はすべて俺に任せるとのこと。

遺書もちゃんとあって、中身を確認してほしいとのこと。

送ってもらうのもしのびないで開けて読んでもらっわた。

簡潔に言うと。

お店はそのまま弟子にあげてくれ。
お金関係は寄付でもしてくれ。お前が使ってもいい。でも、出来れば寄付してくれ。
家は適当に売って、残ったもんは燃やすなりしてくれ。
葬式に来んな。お前に死んだ顔は見せたくない。来たらぶっ飛ばす。呪ってやる。

あとは個人宛に手紙が残されてて、それはなんとなく送ってもらった。

手紙には
実父のことを黙ってたことに対する謝罪。
親父(三男坊)と俺の状況のこと。

あとは俺の性格のこと。
たまには肩の力を抜きなさい。
他人と自分の世界を分けすぎないこと。
親戚の中でじいちゃんの悪口いう人がいても怒らないこと。

たぶん、頼んだことしたらみんなお前を恨んだり、妬んだりするかも知れないけどごめんな。

と最後に一言書いてあった。

じいちゃんの予想通り、すべて言う通りに実行したら
親戚の何人かはお店に罵詈雑言浴びせるわ。
俺に対してもめちゃくちゃ言ってたらしい。

お弟子さんは知らぬ存ぜぬ。で通してくれたらしい。
魔女裁判並みだから、当分は見つからないようにした方が良いと言っていた。

俺の容姿はじいちゃんの若い時に似ているらしいので、墓参りに行こうものなら「生き返った!」と噂になるかもなので、当分はお墓参りにも行けそうにない。と思った。

まぁ、やっとと言いますか。
本当にいなくなってしまったんだな。って実感することが多くなりました笑

やたらと昔の話を思い出すことが多くなりましたし。
元気かなぁ。と思うこともなくなりましたね。

天国なんてもんがあるかは知りませんが。
ばあちゃんに会って、また楽しい生活を送ってもらえればとは思ってます。

できれば現世には留まっていてほしくない笑