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第25回:官僚の信頼を勝ち取るには‐コミュニケーションのコツ‐

1.官僚との円滑なコミュニケーションのために

この連載では、官僚や政治家など数々のステークホルダーと皆さんが連携し、一緒になって政策づくりをする方法をお伝えしてきました。これまでご紹介した官民連携の成功事例をお読みになった方であれば、政策を変えていくためにステークホルダーと粘り強くコミュニケーションをとることが、成功の基本であることを理解しているのではないでしょうか。

現場で政策の影響を受けている民間の皆さんの立場から率直に意見を伝えてもらうことは、次の政策のうち手を考える官僚にとっても有益です。民間と官僚との積極的な意見交換はよりよい政策を作るためには必須です。

一方で、官民の間違ったコミュニケーションが時に不祥事となり、紙面をにぎわせてしまうこともあります。

歴史をたどれば、昭和60年前後にはリクルート事件がありました。この事件では、リクルート社が元労働省職業安定局長などに対し、就職情報誌に関する法規制の検討状況を教えてもらうことや、就職情報誌の規制について、その方法を法律によるものではなく業界の自主規制(=法規制よりも緩やかな措置)にとどめてもらうことを目的とし、飲食やゴルフの接待、未公開株の譲渡を行ったとして元局長などが立件されました。(参考資料:1989年11月24日朝日新聞夕刊総合2面)

また、平成5年~平成9年頃には大蔵省金融不祥事事件もありました。複数の銀行が、大蔵省の金融検査担当者に対し、検査の日にちなど、金融検査に関する情報を漏らしてもらうことを目的とし、接待や飲食代金の付け回しを行ったとして、担当者などが立件されたものです。
(参考資料:1998年9月25日夕刊社会1面)

昭和、平成初期の汚職事件として有名な両事件ですが、自社に有利な制度改正を求めたり、行政の立ち入り期日を事前に漏らしてもらった見返りとして、金銭的な利益を官僚に与えるという悪質な事件で、大きく報道されたので記憶されている方も多いのではないでしょうか。

この事件で企業側が働きかけた内容を見てみると、大蔵省金融不祥事事件における検査期日の漏洩などは論外ですが、リクルート事件の提案内容は、業界に対する規制を法改正ではなく自主規制にしてもらいたい、というものでした。

一般的な業界要望としてよく聞く話ですし、業界の自由な発展の観点からは十分に許容されうる提案です。内容としては、おかしなものではありません(むしろ同じような政策提案をされたことがある企業の方もいらっしゃるのではないでしょうか)。

金銭の授受など、違法性がある行為を行なわず、かつ多くの国民に利益がある有意義な提案であることを説明できれば、業界の提案が適法に政策に反映されていたかもしれません。

しかしながらこのような事件の登場人物になってしまうと、官僚側も民間企業にも大きな被害が及びます。

また、最近の事例でも平成30年から令和2年ごろにかけて、総務省の幹部職員らが、利害関係のある事業者などから手土産やタクシーチケットを受け取ったり、飲食の接待を受けたなどとして、利害関係者からの接待などを禁止する国家公務員倫理規程違反により、減給等の処分を受けています。この案件には菅元総理の長男が接待する側として関係していたこともあり、「総理が行政をゆがめたのではないか」と話題となりました。
参考資料 総務省:国家公務員倫理規程違反に関する関係者の処分等について

リクルート事件や、大蔵省金融不祥事事件のように、刑法上の犯罪として立件されるまでに至らなくても、国家公務員倫理規程違反に該当すれば、関わった官僚は処分されます。ネガティブな報道が行われると接待した企業側のダメージも大きいですね。

このような不幸な結果にならないためには、適切な方法で、官僚との関係づくりを行い、長期的な政策づくりのパートナーとして官僚側に認識してもらう必要があります。相手に信頼されるにはまず、相手の価値観を知り、その上でその価値観に反しない行動をとる必要があります。

それでは、官僚の価値観、それに合わせた行動とは一体何でしょうか。
(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)

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