いとおしいあなたへ
沈んだ水底から見る世界は
結晶型に割れていて美しい
透明なのに碧いのだ
目を細めて生命を見る
皮膚や造形や髪ではなく
生命そのものを見つめる
冷たい雨もひかりに当てると
やけに綺麗で抒情的だと
寒い夜は教えてくれることもある
夜の闇の中を並走する列車
この辺りには線路などないと云ふのに
私はそれが行き過ぎるのを眺めてゐた
「ヰンスタントラアメンを
作ってあげやうか?
この前 特売で購つたものがあつた筈だ」
祖母の曲がつた腰に遠慮の言葉を投げ
冷えた足を毛布であたためなおす
あの列車は誰を乗せて何処へ行くのだらう
部屋の裡を行き来するヱレベエタが
兄を運んできた 魚たちと共に
兄は美しい女の話をした
朝日の中で懶げに揺蕩うように笑う
美しい女の話を
隕石たちは密やかに打ち明け話
ぢつは わたしは
ええツ ぢつは わたしも
空はなんだか碧黑ひのだ
水に似たスカアフを首に巻いて
小糠雨の降る道を寒々と往く
お仕事ですか ええ これから
良い日になりますよう お互いに
弦楽器の音 遠くから (8:51)
わんさかとやつてくるあおあおとした
なんだかわからない氣泡の塊のようなもの
ぶうわあと通り過ぎて さいだあの馨り
小さな町で 植物が揺れている
ひかりの午睡の 煌めきに
その呼吸に リズムを合わせて
よく笑い よく学べ
よく愛し よく生きろ
しあわせでいろ