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家に誰もいない寒い夜のことだ

 夜空を列車が走つていくのを見てゐた
 家に誰もいない寒い夜のことだ
 花擦ハナズレの云つていたことを思い出す
 心象風景 季節香 旬の花々が発光してゐるのだ
 宇宙にはね いろいろな星があつてね......
 
 寂しさが色づく頃に 産声のあがる東の空
 朝焼けだ あれは確かに朝焼けなのだ
 コスモポリタン四丁目 検索をかけても出ない
 ひつそりとした芸術の家 静けさを謡う

 世界中で発射された銃弾たちは
 誰かを殺してしまう前日に戻りたがってゐて
 公孫樹いてふはその手伝いをして世界中を巡つてゐる
 ホオリヒ・グレヰルに注がれた黄金色の夕焼け
 家族を大事にしてゐる司書鼠
 泣き聲だけが今も帰る場所を持てずにいるんだ

 寂れた町で飲む珈琲の味に似た物語を
 実際に読むのは洋机テヱブルの上の哀しみを
 直視することに他ならないのかも知れないと
 そう思い始めたのは十四歳の頃で
 あの山のひぐまは背丈が八尺もあるそうだ

 季節はずれとしか思えない色の花の名前を
 我々はまだ 調べられていないままなのだ
 口吻だけでは あまりに物足りない
 あの列車はどこに行くんだと思う?
 返事はないまま寝台車は天の川の向かふに消へた

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