全体と他の要素との相互関係
大量の画像から、「猫」の概念を理解したディープラーニングが話題になり、10年前くらいから第三次AIブームが起きている。
つまり、人間が概念を定義しなくても、AIが<世界>から概念を獲得する方法を見つけ、シンボルグラウンディング問題を解決した。
東大の松尾豊教授は、これで人間は「目」を手に入れてたといい、今後は、耳や鼻、手や足、身体を手に入れ心的概念も獲得するという道筋を示された。
しかし、その後どうなっているのだろうか?
私は全くこの分野の人間ではないので、わからないが、一般的なニュースとしては、あまり進展は聞かない。
私は一つ、気になる側面がある。
このディープラーニングのやり方は、人間が言語を学ぶ能力を真似したものだと聞いたことがあるが、大きく見落としているものがあるのではないか?
それは、ある概念を学ぶときには、対象から直接パターンを見出すのではなく、全体や他との差異との関係で、対象を把握するという点だ。
これは、ソシュールの価値という考え方にある。
「ソシュールの体系は、何よりもまず価値の体系である。そこでは、自然的、絶対的特性によって定義される個々の要素が寄り集まって全体を作るのではなく、全体との関連と、他の要素との相互関係の中ではじめて個の価値が生ずる。しかも、ラングなる体系は、自然の潜在構造の反映ないし敷き写しではなく、人間の歴史、社会的実践によってはじめて決定される価値の体系、換言すれば既成の事物がどう配置されどう関係付けられているかというのではなく、もともと単位(ユニテ)という客観的な実体は存在しない体系なのである。」(丸山圭三郎「ソシュールの思想」93頁)
猫の概念を獲得した方法はまさに「単位(ユニテ)という客観的な実体」的なアプローチであるように思える。
全体や他との差異で、ある対象の価値が決まるとくことであれば、計算処理速度やデータの制限など大きくブレイクするーできる可能性があるのではないか。
全く、思いつきのアイデアだが、このソシュールの言語観は本質をついていると思う。(まさに、このソシュールの「逆説的真理」というのがいまだにはっきりしない概念なのではあるが)
ウィトゲンシュタインの家族的類似性や、心理学のゲシュタルトなどという概念も同じ次元の問題意識に思える。
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