マーケティングとは”仕掛け”である!
「仕掛学」(松村真宏著)を読んで、とても共感する点が多く、触発されたので、自分がマーケティング=仕掛けとして考えてきたことを整理してみたいと思う。
私自身は、マーケティングとは、人を動かすことである、と考えてきた。
人を動かすために提案する、仕掛け、仕組み、考え方と学生にも伝えている。仕掛けとは商品やサービスなどマーケティングで実行するアウトプットそのものであり、仕組みとは、それをうまくやるための戦略、組織になり、考え方とは、発想法とでも言えるかもしれない。
人は簡単には動かない、慣性の法則に支配されているから、昨日と同じことをやって過ごせるなら、できるだけ無理せずそのままにしておきたい生き物である。だからこそ、そんな人を動かすためには、仕掛けが必要なのである、と考える。
私が前職でマーケティング職をしていたライオン(株)では、かつて、こんな仕掛けをしていた。1970年代に絶大なる人気を誇ったドリフターズの「8時だよ全員集合」という番組をスポンサー提供していて、そのエンディングの歌に載せて、カトちゃんに「風呂入れよ」「歯磨けよ」と連呼させていたのである。土曜の夜、まさに9時前にこう言われた小学生たちが一斉に歯みがきをしたであろうと想像する。
もちろん、歯みがき習慣と「8時だよ全員集合」の因果関係が証明されているわけではないが、この時期から、日本人の1日の歯みがき回数がほぼ1回/日だったのが、徐々に増えて、2回/日に増加していることは、厚労省の歯科疾患実態調査結果でも明らかなのである。
まさに、歯みがき習慣普及に向けて、ライオン(株)が画策した”仕掛け”であると言える。youtube「8時だよ全員集合エンディング」
マーケティング的仕掛けについて、もう少し事例を見ていく。
➀「HOPESOPE」 これは、2013年頃に報告されたもので、衛生環境が劣悪なため毎年多くの子供たちが、チフス、下痢などで貴重な命を落としている南アフリカの貧民街でのプロジェクトである。感染症予防には手洗いが非常に有効な予防手段であることは(コロナ禍で我々も身に染みて理解したが)自明なことではあるが、貧民街の子供たちには、手を洗うという習慣がほとんどなく、なかなか手洗いが習慣化しないという課題があった。WHO(世界保健機関)は、ただ石けんを配るだけでなく、ある工夫をしたのだ。それが次の写真である。
石けんの中にミニカーやキティーちゃんのフィギュアなど、子供たちが喜びそうなおもちゃを埋め込んだのである。この石けんを配るようになってからは、子供たちが、頻繁に手や顔、体もその石けんで洗うようになったそうで、その結果、なんと貧民街での感染症の発症率は70%も減少したとのこと。まさに命を救った”仕掛け”である。
➁うんこドリル 平成29年にヒット商品番付にも載ったのでご存知の方も多いが、うんこで全例文を作っているユニークな学習ドリルである。勉強嫌いで机に向かう習慣がつかない小学生に向けて、大好きな?”うんこ”で作られた例文だから、面白がって夢中になれる、「結果として」机に向かう習慣が身に付くという商品である。
➂看護師の制服 これは、熊本地域医療センターの取り組みであるが、病棟勤務の看護師は2交代制(日勤・夜勤)のシフト対応をとっているが、業務方で残業が多く看護師の退職も続いていたそうで、終業間近の人が新たな仕事を頼まれるといった事がよく起こっていたとのこと。そこで、日勤と夜勤とで制服の色を変えることで、仲間からも先生からも分かりやすくすることで、「結果として」残業が1/7に減ったのである。
3つのケースを見てきたが、これらの”仕掛け”のスゴイ所は、単に注意や啓発や呼びかけで終わらせていない点である。
一歩先を読んで、びっくりする解決法にたどり着いている。そのための思考や発想には、一つのパターンがあると考える、それが下図である。
左下の象限で、まず課題を発見、気付いたとして、そのまま、HOW(どうやって)を考えると、注意や啓発レベルで終わってしまい「結果として」解決しないのである。手を洗った方がいい、勉強した方がいい、残業しない方がいい、なんて、分かっているのだ。分かっていて出来ないから課題なのである。
そこで、課題発見から、一度、左上の「WHY」何故?を考えるフェーズに移動するのである。出来ない背景や理由を考える、少し抽象化して問題を捉える視点も求められるゾーンである。何故を考えると、課題の本質に迫れる。「我々が提供すべきは、本当のところ、何なのか?」を考えるのだ。
そこまで来ると、視点が広がるので、発想の転換が可能となり、”仕掛け”に近づくことができる。「WHAT」のゾーンである。
そして、初めてどうやっての「HOW」を考えるのである。遠回りをすることで、「おもちゃ入り石けん」や「うんこ例文ドリル」「制服の色を変える」といった”人を動かせる”アイデアにたどり着くのである。
なかなか動かない人を動かす、ために近道はない。WHY⇒WHAT⇒HOWという遠回りが必要なのだ!!