『別れと知らず』名嘉恵美子第3歌集

○初読とくに印象的だった歌を記します。

小さき会すずしく座せば窓ゆ来て爆音    
 過去も現在(いま)もこきまぜる
すでに基地おまへがVIRUSのやうなものWARNINGの札ぶらさげて
遠海にある台風と思ひつつ風にいきかへる服を干してる
人権は戦死者にもあるのだと具志堅さんはハン・ストに入る
戦争の死者たちの骨出でてきて顎骨なくて叫ぶことなく
復帰してよかつたのかと問はれ呼ぶ永い放浪のやうな答を
寒風に荒るる手で頁たぐり思ふ骨あらふ古き女たちの手を
沖縄のガンジーと誰か言ひたりき阿波根昌鴻さん伊江島(いえ)のたたかひ
箝口令かたく敷かれて対馬丸撃沈の悲はながく届かず
何度でもなんどでも言ふ対馬丸の子どもたちの死不戦はそこから
庭先に群れるセイロン弁慶草いくさの朱(あか)の記憶と聞きぬ
母の死後わかる迂闊さ「タケアラカー」とは「高江・新川」山原の村
ヤンバルの山の尾根道ススキ草今生の別れと知らず別れきと
爆撃をゲームのやうに山で見きと笑ふ十五を照子姉さん
だいたいは低くなるこゑ島人としての意見を言はうと立てば
冷凍の魚のやうなぐしやぐしやの記憶があるねひめゆり戦記
千の花うつむくダチュラ其処のみが動かず揺れず今日沖縄忌

○伊江島の土地闘争、「タケアラカー」の捕虜の歌など、初めて具体的に短歌で読み知ることばかりで簡単に評することができない。改めて評を書き加えたい。

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