kiayame730

前田康子@塔 体調不良にて療養中…いろいろご迷惑おかけしています…

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最近の記事

『春の幾何学』武藤義哉第1歌集

鳥たちの小さな脚をあたためて春の舗道は木漏れ日のなか やわらかな花野であれば傷ついたレコード一枚しずかにのせる たんぽぽの綿毛の球を吹きくずし風の仕事をひとつ奪った くるくると風力計はまわっても測りきれない風の淋しさ 風よりも遠くから来るものがある風車はいつもそう思ってる ○パステルカラーの絵を見ているような優しい読みやすい歌。1首目細やかな視線。風の歌3首、いくらでも作れそうな想像力がある。 ゴンドラに乗ったわれらは順々に空に紹介されて下り来る 渡り鳥渡らせたあと空はもう

    • 『別れと知らず』名嘉恵美子第3歌集

      ○初読とくに印象的だった歌を記します。 小さき会すずしく座せば窓ゆ来て爆音      過去も現在(いま)もこきまぜる すでに基地おまへがVIRUSのやうなものWARNINGの札ぶらさげて 遠海にある台風と思ひつつ風にいきかへる服を干してる 人権は戦死者にもあるのだと具志堅さんはハン・ストに入る 戦争の死者たちの骨出でてきて顎骨なくて叫ぶことなく 復帰してよかつたのかと問はれ呼ぶ永い放浪のやうな答を 寒風に荒るる手で頁たぐり思ふ骨あらふ古き女たちの手を 沖縄のガンジーと誰か言

      • 『靴紐の蝶』畑中秀一第1歌集

        ○歌集のタイトルが魅力的。初読の感想を記します。 単身の赴任先へと離陸して斜めになった座席の小窓 週末にアイロンかけて静めおりさざなみのごときワイシャツの皺 ひとり居の部屋に笑えばその声も笑顔も壁に吸い込まれゆく ○1首目下句、当たり前だけれど「斜め」に不安定感、期待など含まれている。2首目も「さざなみ」が美しく倒置や「静めおり」がいい。 アスファルト押し上げてゆく街路樹の根のやうに為す深夜残業 ○長い比喩だが、押しつぶされそうになりながら無理矢理にでも持ち上げ仕事をこな

        • 『カドミウムレッド』田中淳子第1歌集

          ○初読の感想を記します…。 ありつたけの色しぼりだし画布に塗る自己主張できぬ少年のごと ○歌集のタイトルにインパクトがあって、こういう歌がすんなりと入ってくる。油絵のたくさんの色が見え下の句に勢いがある。 出品の絵に縛られし数か月解き放たれたる寂しさもある ○動詞が効いている。どんな創作活動にも共通する想い。 「一歩一歩よね、山は」といふこゑ竹藪に朽ち葉ふみつつ耳に入りきぬ たつぷりの水分ふくみし樹々の中われも緑の分子とならむ ○1首目のせりふや、2首目のような健やかさ

          『あるはなく』千葉優作第1歌集

          ○初読の感想を記します。 春はもうぼくを忘れてしまふからとてもしづかな倒立だらう ○どこかねじれた感じの文体に説得されつつ読む。倒立から逆さまにこの世を見つめている眼を感じるが、すべてを打ち消すような行為とも読める。 チャリを押すおれと押されてゆくチャリの春は社交(ソシアル)ダンスの距離に ○単純に見立ての面白さを感じた。 くちびるをゆがめてひとはくるしさを冬の柱のごとく言ひたり ○上句には曲線のうねりがあり、下句には直線的な重力が押し寄せてくる。 ワイシャツを脱げば

          『あるはなく』千葉優作第1歌集

          『うすがみの銀河』鈴木加成太第一歌集

          ○以下簡単ながら初読の感想を…。 夜空にも貸し会議室はあるだろう簡素な鍵をかたりとかけて ささやかな焚き火へ木屑足すように色鉛筆の香を削りおり 立ち上がる一瞬野性を閃かせコンロに並ぶ十二の炎 ○Ⅰ部の連作から新しい世界がふわっとひらけたように読み進む。一首目、上の句の設定だけでも面白いがさらに下句の丁寧な質感が手元にリアルな世界を連れてくる。 「あ」の中に「め」の文字があり「め」の中に「の」の文字があり雨降りつづく 「路」を「露」に「下」を「雫」に変えてゆくあめかんむりの

          『うすがみの銀河』鈴木加成太第一歌集

          『風を待つ日の』野田かおり歌集

          ○2021年発行。 触れたればひんやり安心するやうなナイフになりたし春風のなか 野のむかうまで帰らうとして葬列のひとつのやうに文字は並びつ 雨ののち廊下をゆけば窓の影ひとつひとつが光の棺 ○落ち着いた文体×斬新な発想だけれどどこかいい意味でオーソドックスな歌でもある。 目の昏さ思ひ出づればゆふぐれにガクアジサイは自照してゐつ 指ばかり見てしまふ午後まひるまの月のしろさを探すふりして ○ガクアジサイが自照しているという表現がいい。白に近い青のような色のアジサイを思った。指ば

          『風を待つ日の』野田かおり歌集

          『冬のつばさ』大塚洋子第5歌集

          ○2021年刊、大判で2首組のせいもあり、ゆったりと運ばれながら読む。 足で足を洗ふ心地よさ古里の井戸端の匂ひふつと顕ち来ぬ ひそやかに割れてゐるなり家のうらに空鉢なれば気づかれもせず 筑波山のふもとに嫁ぎて十二年たつた十二年妻でありしよ ○井戸や鉢…の歌、なつかしさ、手触りが心地良い。 原発の事故をも知らず私達給水の列にマスクもせずに 洗ひたるシャツの温かさ気持よさ改めて知る震災ののち ○強くさけばれた歌ではないが震災の歌としてリアルに伝わってくる。 木犀の根つこ地面

          『冬のつばさ』大塚洋子第5歌集

          『雪岱が描いた夜』米川千嘉子第10歌集

          ○再読。雪岱は小村雪岱。ネットで見てみると〈グラフィックスデザイナーの先駆者〉〈東京モダン〉などの言葉があり日本画でありながらどこか現代的ですっきりとした粋な画風である。この歌集の装幀にもなっている。 一生は一本の川 主婦として森田童子は死んだと書かれ おばあさんはまた娘(こ)がたまに来てしてくれること少し自慢すわが母のやうに 湯豆腐を食べればだれかわがうちに温とく坐りまた去るごとき 老いをうたひやがてほんたうの老いに入るほんたうの場所を誰も知らねど ○湯豆腐のうた…身体の

          『雪岱が描いた夜』米川千嘉子第10歌集

          『小鬼田平子』岡本智子第4歌集

          ○ヤママユ所属の歌人の歌集。 若き日の本のすべては売り払ひ入隊せしと父はつぶやく 戦地より持ちて帰りしカーキ色の父の毛布がわれの毛布に 親の死の知らせが届き乗るはずの戦闘機に父乗らざりしとふ 生きをれば父も百歳大正の九年生まれは戦死者多しと ○どの歌もいまの時代に重く響いてくる。 癌化してま白になりたる肺胞の胸はアトムのごとくは開かず どう老いてゆけといふのか死に近き夫のある身に入院、手術と ○夫の病、介護、死、自身の病、お子さんの病など人生の辛苦が次々と詠まれるがどこか

          『小鬼田平子』岡本智子第4歌集

          『鳴禽』外塚喬第13歌集

          ○本棚を見ていて再読。 ためいきを吐くはにんげんと決めつけてをれば吐くなりときをり犬も 雨降りの日が好きになるしつとりと翼の濡れた郵便がくる ひとり歩きしてたましひは夜の更けに野の花の香をまとひて帰る ○2.3首目のような柔らかさ瑞々しさにひかれる。 ネーミングよきものにわれの手は伸びる〈完熟マンゴー・日当りバナナ〉 水にごり風にごりする春の日に西根尾川の橋ひとつ越ゆ 女日芝の穂に降る雨のなかを来て修道院の扉を押しつ 切り返しいくたびもして出てゆける車のやうな生を尊ぶ ○

          『鳴禽』外塚喬第13歌集

          『茶色い瞳』今井聡第一歌集

          一枚の玻璃を挟みてそれを拭く男とわれと生計(たつき)ちがへり ○何でもないシーンたが結句でぱっと広がる一首。 坂道をくだりくる夜のテニスボールたかくはずみてわが傍を過ぐ ○夜という設定がいい。どこから?誰から?ともわからないテニスボールの出現。 メキシコの土より生まれし南瓜なれ遠き日本でカットされ売らる 菊の花朽ちて花器にはスターチスのみ残りをり紫色(ししよく)深みつつ 値やすき松葉牡丹の種なれど芽吹ける までの時濃かりけり ○後半に植物が結構詠まれている。身近な感じ、寂

          『茶色い瞳』今井聡第一歌集

          『青い夜のことば』

          ○馬場さんの全歌集から再読、第17歌集。 われよりも海は苦しむ傾きて吹雪ののちの海は起ちたり 日当れば冬芽つやめく木のそばに思案深まるごとく猫ゐる 知らないうちにだまつて咲いて鉄線につれなく過ぎた時間のやうな ○季節とともに訪れる感情の捉え方。激しさと繊細。 オリーブを竿に落してゐる二人紀元前からずつとかうして 花と死とどこか似てゐてしんみりと椿咲く日の土のつめたさ 稽古茶の茶銘はいつも「初昔」(はつむかし)むかしこひしきその初昔 高速路に霜の寒さを匂はせて夕日は花のごと

          『青い夜のことば』

          『飛天の道』

          ○馬場さんの全歌集から再読。第18歌集。 心底をのぞけば仏像を彫る男ゐて折々の鑿が光れり ○自分の中に誰かがいるという発想の歌が他の歌集にもあったが、結句の動きに惹きつけられる。 春はなぜかバケツをほしく思ふのかにぶくかがやくブリキのバケツ 精神を味はふやうに唇を近づけし日の静けきさくら か青なる笹の明かりをゆくつぶろ半透明の身をかなしまず ○儚げな三首目。否定形で終わるのがいい。 観葉植物のみどりに遊ぶ数十の眼をみればこの世いと気味わるし 植物的思考の中に植物のやうな

          『飛天の道』

          『世紀』

          ○馬場さんの全歌集から再読。第19歌集。この歌集だけ、他のとは違って和のイメージを出た感じのデザイン。タイトルに合っている。 木の深い瞑想の中にあつたのだが木蓮はだまつて雨の朝咲く 生まれてすぐ働く蟻の一匹が恍惚とゐる百合に上りて 本当の自分をみつめなさいなどと教師の頃はなぜ言へたのか ○一首目のような文体にひかれる。「生まれてすぐ働く蟻」発見でもあり象徴的でもある。 観光としてわが見るマリアわれを見ず初秋のやうにさびしきその瞳(め) ○俯いたようなどこにも焦点があわない

          『九花』

          ○馬場さんの全歌集より第20歌集再読。 馬毛島の彼方竹島硫黄島浪打ち寄せてここ種子島 海と陸と激しく出会ひたりしあと岩洞は深く神を抱けり 金色の玉葱形の屋根の下聖母眼を伏せてしづけきロシア 知らない猫に時々あとをつけられるわれの影なるけものさびしく ○旅の秀歌多く選ぶのが難しい。ロシアの歌、童話のようで惹かれる。 戦場に雪降り出づるかなしみの深さの前のアフガンの山 ○今はロシア、ウクライナのことばかりが気がかりだが、上の句のかなしみはどこに戦争が起きても感じるひとつの情景