三秋縋『君が電話をかけていた場所』『僕が電話をかけていた場所』(書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」3月3日放送分)
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<収録を終えて>
今回は「ライト文芸」のジャンルから、三秋縋さんの2作品をご紹介しました。
公衆電話という「かかってくるはずのない」電話から、「誰だかわからない」人が電話をかけてくる……不穏な仕掛けを巧みに使ったストーリーは、読み手を飽きさせることなく、ぐんぐんと物語の世界に引き込んでいきます。
三秋さんって、とってもお話を展開させていくのが上手な作家さんなのですね。
ところで「ライト文芸」は、ライトノベルの系譜を汲んでいることから表紙にアニメや漫画の絵を使っていることが多いと、番組の中でお話をしました。
表紙の絵によって、その本の印象は大きく変わりますよね。
個人的に、表紙に漫画の絵を使ったことで新しい文学のジャンルを確立したのが、2007年に発表された和田竜さんの『のぼうの城』だと思っています。
『のぼうの城』は、戦国時代に石田三成が大群を率いて水攻めをする中、ごく僅かな兵たちで持ちこたえた「忍城」と、領主の成田長親を描いた歴史小説なのですが、この本の表紙を担当したのが漫画家のオノ・ナツメさんでした。
それがとっても格好良くて、今までにない歴史小説という感じがしたのです。
そんな表紙から受ける期待を裏切ることなく、物語の内容も、テーマは歴史小説らしい重量感がある一方で、文体がとても軽やかで読みやすく笑えるポイントさえあるのが驚きでした。
歴史小説って、こんなに気軽に読めるものなの? と思ったことを覚えています。
『のぼうの城』は、普段は歴史小説なんて読まない若い方の間でも「格好いい歴史小説がある」と当時とても話題になりました。
これが「ニューウェーブ時代小説」の幕開けだったと言われています。
この「ニューウェーブ時代小説」の流れを受けているのが、先日直木賞を受賞した今村翔吾さんかなと思っています。
直木賞を受賞した『塞王の盾』は、表紙こそイラストではありませんが、特設ページでは墨で描かれたイラストで人物紹介されているほか、あらすじを紹介した漫画が掲載されていたりと、ポップな切り口が面白いです。
歴史小説も、華やかさとか軽やかさをもっと求めていっていいよね、もっとビビットにキャラクターを作ってもいいし、もっとアクションでわくわくさせてもいいよね、という風に変わってきているのかもしれません。
それでは、今日はこのあたりで。
またお会いしましょう。
<了>