ペーター・ヴォールレーベン『樹木たちの知られざる生活』(書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」3月24日放送分)
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<収録を終えて>
あなたは心配性、あなたはおおらかタイプ。
人によって性格は違うものですが、実は木の一本一本にも、それぞれの個性があるのです!
さらに、性格の違いがあれば、他の人(他の木)との関係の築き方も違ってくるのも人間と同じ。
木の世界にもコミュニケーションのための言葉(香り)があったり、枝の伸ばし方についての親から子への教育方針があったり……私達の知らない木々の世界は、こんなにも賑やかなのだと教えてくれる1冊です。
この本を読んで思い出したのが、三浦しおんさんの『愛なき世界』という、東京大学を舞台にした物語です。
作中には、なぜか育てたサボテンが次から次へ増え続けるという研究者が登場するのですが、そこで彼が言われるのは、恐らく「緑の手」を持っているのだろうということ。
そこで初めて知ったのですが、園芸家の中では、植物を育てるのが上手な人を、緑の手の持ち主と呼び、植物と会話ができるのだと言うのだそうです。
読んだときは素敵だな、ぐらいにしか感じていなかったのですが、今回紹介した『樹木たちの知られざる生活』を読んでから思い返すと、受け取り方も変わってきます。それぞれの植物の性格を理解して、その言葉を聞いてあげられる人が、「緑の手」の持ち主になのかもしれません。
それまで、種類に合わせた水やりや日光浴さえさせておけば植物は育っていくのだろうと思っていたのですが、植物とはもっと繊細で豊かな生き物であることを、この本から教わることができました。今まで育ててきた観葉植物たちに、ごめんねと言わなくてはいけないのかも。もっとお話したり、理解してあげないといけなかったんですね。
作者のペーター・ヴォールレーベンさんは、ドイツの方です。国有地などの森林の管理をする「森林管理官」として長年務めていたそうです。
しかし業務の中で、日々森の中の樹木たちと触れ合っているうちに、木たちの世界を理解するようになった経験から、人工的に無理やり作り出した森林には様々な問題があることを知ったことが大きな転機となります。
ヴォールレーベンさんは仕事を辞めて、フリ―ランスの森林管理官として森林を保護する活動を始めるのです。その活動を通して書かれたのが、この本です。
作者の植物に対する目線は愛情に溢れていて、紡がれる言葉には、木々の世界への尊敬や好奇心、そして驚きに満ちています。何気なく街路樹の横を通り過ぎる私よりも、きっと遥かに豊かな世界を味わっていらっしゃるのだろうなと思うと羨ましささえ感じてしまいます。
最後に、作者の言葉を少しだけ引用したいと思います。
森の豊かさは、木々の繋がりと助け合いに支えられているということ。なんだか私達も見習う必要があるような気がします。
それでは、今回はこのあたりで。
またお会いしましょう。
<了>