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国名が付く企業が買収されると合理性を失うのか
1999年に日産自動車がルノーの傘下に入った時、テレビのコメンテーターが「日産自動車は元の社名は日本産業で、日本を冠にした会社が外資になるなんて寂しい」と話していたのを覚えています。その時、初めて「日産って日本産業が由来なんだ」と知りました。
その後、カルロス・ゴーン氏がフランスからやってきて、日産の業績は確実に回復しました。結末こそ残念な形になりましたが、ゴーン氏が当時「世界に名だたる経営者」と称されたことも事実です。あの時、ルノー傘下に入るという決断は、長期的に見ても悪いものではなかったと言えるでしょう。最近ではホンダとの合併の話題もあり、その背景には台湾企業による日産買収を阻止する目的があったとも言われています。
一方で、日本製鉄によるUSスチールの買収計画にバイデン大統領が介入し、買収禁止命令を出したニュースも注目されています。USスチールは、1901年にピッツバーグで創業され、アメリカの産業を象徴する企業の一つとして知られています。「鉄は産業のコメ」と言われるように、鉄鋼は産業全般にとって不可欠な素材であり、USスチールはその歴史的な地位から国民の間で特別な存在感を持っています。業績が低迷し世界24位に後退しているにも関わらず、「USスチール」という社名がもたらす愛着が買収への反発を呼び起こしているのかもしれません。
おそらくバイデン大統領やアメリカの政治家たちは、合理的には日本製鉄との提携がUSスチールにとって最善の選択だと理解しているでしょう。しかし、国民感情がそれを支持しない場合、政治的には「NO」と言わざるを得ない状況が生まれるのです。日本製鉄が提案した条件も相手にとって非常に寛大な内容とされていますが、そのことが一般国民に理解されていない点も課題です。
今回の買収案件がどのような結末を迎えるのかは分かりません。ただ、国名を冠する企業の買収には、当事者間の合意だけでなく、国民感情という壁に向き合う必要があることが浮き彫りになりました。これからの時代、買収を進める企業には、しっかりとしたコミュニケーション能力が求められるでしょう。合理性だけでなく、感情や文化も考慮したアプローチが必要なのだと思います。