内的参照価格の罠とは?-行動経済学の理解と実践71
普段の食料や日用品の買い物を家族の中で奥さんが担っている家庭というのは今も多く存在すると思います。そういう家庭では、たまに旦那さんがお使いで買い物に行くとやたら高級食材ばかり買ってきて叱られるというのは「あるある」な現象です。なぜ、こういうことが起きるのか、その理由の一つが「内的参照価格(Internal Reference Price)」です。普段、買い物に慣れていると凡その商品の相場感が頭の中でできあがります。内的参照価格とは、消費者が商品やサービスの価格について過去の経験や一般的な知識をもとに抱く「基準価格」のことです。例えば、毎日購入するパンや飲み物の価格が100円程度であると知っている場合、同じ商品が150円で販売されていると「高い」と感じたり、逆に80円だと「安い」と感じたりします。
しかし、この内的参照価格が消費者の購買行動に罠となることがあります。今回は内的参照価格の罠について、その仕組みと影響、そしてマーケティングへの応用について詳しく見ていきましょう。
内的参照価格の罠とは?
内的参照価格の罠とは、消費者が過去の価格情報に基づき固定化された価格感覚に縛られてしまい、新しい価格や実際の価値を正しく判断できなくなる現象を指します。この罠にはいくつかの特徴があり、以下のような影響を及ぼします:
価格に対する抵抗感: 内的参照価格が低いと、実際には適正価格であっても「高い」と感じ、購入をためらってしまう。
価格変動への敏感さ: 内的参照価格が急に変動すると、商品価値に対する不安感が増し、購買意欲が減退する。
安価な代替品の選択: 自分が想定している価格よりも高い場合、品質が落ちてもより安価な代替品に流れやすい。
これにより、企業が値上げや新しい価格戦略を導入しようとしても、消費者がその価格を受け入れにくくなる可能性があります。
内的参照価格の罠の具体例
定額制サービス(サブスクリプション)は内的参照価格の罠の影響を受けやすい分野です。例えば、ある映像配信サービスが月額800円から1000円に値上げしたとします。消費者が800円に慣れていると、その内的参照価格が1000円に変わるまでに抵抗が起こり、解約者が増加するリスクが生じます。
マーケティングへの応用は?
内的参照価格の罠を理解することは、マーケティング戦略においても重要です。以下に、内的参照価格の罠をうまく利用したり回避したりする方法を紹介します。
1. 価格アンカリングの利用
最初に高い価格の商品を提示することで、内的参照価格を引き上げます。例えば、レストランのメニューで高価格帯の料理を先に提示することで、他の料理が相対的に安く感じられ、選ばれやすくなります。
2. 価格変更時の情報提供
価格改定をする際に、値上げの背景やコスト増加の理由を明示することで、消費者が新しい価格を受け入れやすくします。消費者がその背景を理解すると、価格に対する抵抗が和らぎ、内的参照価格も更新されやすくなります。今、まさに様々な商品の値上げ続いているのはある意味、消費者の内的参照価格の更新のタイミングであると捉えているとも言えます。
3. 値引きの適用で新たな内的参照価格を設定
新商品の導入時に初回割引やクーポンを提供することで、まずは消費者に商品を試してもらい、新しい内的参照価格を設定してもらいます。その後、通常価格での購入が促進しやすくなります。
4. サブスクリプションの分かりやすい価格改定
サブスクリプションの場合、段階的な価格改定や、追加機能を提供することで価格が上がることへの納得感を与えます。例えば、値上げ時に新しいコンテンツが追加される場合、消費者は価格上昇に対して受け入れやすくなります。
まとめ
内的参照価格の罠は、消費者が過去の経験に基づいて「適正」と感じる価格に固執することで、新しい価格や商品価値を正しく評価できなくなる現象です。この心理を理解し、適切に対応することがマーケティングにおいて重要です。消費者に新しい価格を受け入れてもらうためには、価格アンカリングや情報提供、段階的な価格改定などの工夫が有効です。
企業は、消費者の内的参照価格をうまく管理しつつ、価格設定やマーケティング施策を進めることで、内的参照価格の罠に囚われない戦略を実現できるでしょう。
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